第三試合 6
■ガビーロール視点
……大分、面倒な事になったなぁ!!
咄嗟に精神異常系デバフに対する防御魔術を発動しながら、ゴーレムを創造していく。
現状、戦場に聞こえる音は複数ある。
一つは、狂った帽子屋の笑い声。
二つは、それによって破壊されるゴーレムたちの崩れる音。
そして三つ目、それは――
「――【其の眼に映るは、赫く緋く光輝く一つの厄災】」
『その詠唱は止めないとだ、ねっ!!』
灰被りが口ずさむ詠唱だ。
私は作ったゴーレムたちを、出来るだけ素早く灰被りの篭っている氷の茨へと殺到させる……が。やはりどうしても。帽子屋がその道中でゴーレムたちを土へと還してしまう。
還されて、しまう。
どうしようもなく相性が悪い。
単体でも集団でも相手を出来る程度には、汎用性のある魔術を使えると自負しているが、これはどうしようもない。
こちらの駒を一撃で破壊するワイルドカードに、それに守られている一撃の重いアタッカー。
どちらかを対処しようとすると、どちらかが疎かになり首を取られかねない状況。
だからこそ、自らの仲間が来るまでの時間を稼ぐことにする。
土竜型のゴーレムを創り出し、地中を進ませることによって、離れた位置で戦っているであろうレンへと救援を求める。
何も、一人で対応する必要はないのだ。
周囲のゴーレムをほどほどに集め、さらに周囲の地面からさらに創り出し。
それらの形状をドームの様に変えていく。
堅牢な砦の様に。それぞれ材料として使うゴーレムがお互いを補い合うように。
「……【創物】」
小さく、ゴーレムには乗せず。自らの身に宿る最古の固有の名を呟いた。
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通常、このWOAというゲームでは詠唱を必要とする魔術は本当に数が少ない。
といっても、それは汎用魔術だけを見た場合の話で、固有魔術を含めるのならばその数は倍以上に膨れ上がる。
では、詠唱を必要とする魔術が少ない理由とは一体どういうことなのか。
その理由は簡単だ。
『詠唱が今は必要ないものだから』――これに尽きる。
どういう意味か、と聞かれれば……まずWOAの詠唱について説明する必要があるだろう。
詠唱。
他のRPGや、ファンタジーものの作品での『詠唱』と呼ばれる動作の役割は簡単だ。
その魔術を補強する、強化する。そういった意味で使われることや、発動自体に必要だったりすることも多い。
しかし、WOAというゲームの『詠唱』は少し、違う。
このゲームにおける詠唱は、宣言なのだ。
私はこれからこういった魔術を使う。
身を守ってくれ!
お前だけは絶対に許さない……など。
力を扱う方向性を宣言しているのが、詠唱なのだ。
それを必要としない理由は?何故、宣言を必要としない魔術が多く存在するのか?
ゲーム的に省略されていると言ってしまえば簡単だ。
しかし、少しだけゲーム内の設定を調べていくと。
『汎用魔術には、元々その全てに詠唱が存在した』という記録が残っているのが発見できるだろう。
『それらは、魔術師たちによって改良されていき……現代では詠唱自体が必要なくなった』とも、残っていることだろう。
では。
現代にも残っている、詠唱が必要な汎用魔術は……なぜ、必要なのか。
何故、今もなお改良されていないのか。
否、改良しようとされなかったわけではない。
できなかったのだ。
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■灰被り視点
単語と単語を繋げ、文章を紡ぐ。
それに魔力を乗せ、詠唱とする。
目を閉じ、それだけに集中をする。……なにやら、笑い声も聞こえるが気にしないでいいだろう。
「――【其れは、敵対する者のみを灰へと還す一つの厄災】」
ただでさえ少なかった魔力が、詠唱をすることによって。
魔術の構築へと使われ消費されていく。
「――【厄災は弾け、消えていく。我の全てを呑み込んで消えていく】」
顔を空へと上げ、目を開ける。
先ほどまで存在しなかった、巨大な炎の塊がそこにあった。
鮮血のように赤く。
熱を周りに振りまくことのないそれは、私の合図を待っているかのように、そこに佇んでいる。
目を他の方……ゴーレムたちの方へと向ければ、何やら巨大な岩のドームのようなものが築かれている。
恐らくは、今私が発動しようとしている魔術に対する防御策といったところだろう。
だが、それは悪手だ。
敵対者以外の全てを灰へと還す魔の眼を持っている。
だからこそ、通常ならば岩のドーム程度ならすぐに灰に変えることが出来るはず、なのだが。
……【灰化の魔眼】、発動。って何あれ。ゴーレムを薄皮みたいに貼り付けてる。地味にこっちの固有対策してるのか。
ゴーレムの形状を変え、重ね。そうして作られた岩のドームは、壁の一枚一枚がそれぞれ別のゴーレムとして認識される。
私の【灰化の魔眼】の効果範囲が視界内全体ではなく、ターゲット指定式のものだからだろう。
確かに一枚を灰にしている間に他のゴーレムたちによって、その穴は塞がれ……そして中に居るであろうガビーロールが新たに壁となるゴーレムを創造する。
これ以上ない私の固有への対策だ。
「――【しかし、一度憑いた火は消えず。天へと還るだろう】」
しかし、今は私だけじゃない。
帽子屋が居るのだ。
彼の攻撃は、一撃一撃が彼のゴーレムを悠々と破壊出来るほどに強力なもの。
例え、自動修復するように見える岩のドームと化したゴーレム相手でもそれは同じだろう。
だから安心して、この魔術を使うことが出来る。
「【火炎-誕燐回帰】発動」
瞬間、私の頭上に浮いていた巨大な炎の塊は、膨張し破裂した。
最初の方に追加で入れといたんですが、本編読み終わって下の方にスクロールしていくと、誤字報告機能ってのが実は存在します。
それを使うと、読者さん側が誤字を私ら作者側に報告出来るんですね。
ちなみに長い文章を書く必要もなく、単純に間違ってる箇所を指摘、合っている単語や文を入力するだけのお手軽システムとなっております。もしよかったら使ってみてください。
大変助かります。