第三試合 4
遅れました。
あとなろうコン、第一審査通ってました。わーい。
まず。
赤ずきんと呼ばれる物語の中の猟師というキャラクターの役割とは何か、を話していこうと思う。
といっても話は単純なものだ。
言ってしまえば、猟師という存在は物語における救済措置。英雄。悪者を討ち倒す者。
そういった善寄りの者であるのだ。
しかしながら、赤ずきんという作品の元を辿ってみれば……意外な事に猟師の影はそこまで多くはない。
モノによっては赤ずきんが狼に食べられたまま終わるものもあれば、赤ずきん自体が狼を撃ち殺す作品まである。
……では。
【童話語り】によって、付与される【猟師】とはどの赤ずきんのモノを指しているのか。
それは使用者本人にしか、わからない。
■灰被り視点
強制的に距離を取らされた後。
私は、大小様々な人型のゴーレムに囲まれていた。
「……出てきたらどうです?ガビーロールさん」
『はっはっは!そんなことするわけないだろう!君の固有についてはよく知っているからね!それにもう発動しているんだろう?ならば持久戦に持ち込むに決まってるさ!!』
「……チッ」
周囲から響く声に柄にもなく、舌打ちをしてしまう。
残存最大HPは残り7割。
時間にして80秒近くだ。
この時ばかりは、自分の派生魔術の使い勝手の悪さに辟易してしまう。
ターゲットを選択し、選択されたモノはプレイヤー以外ならば耐性が有れどいずれ灰へと変える死の魔眼。
時間制限があり、選択式という使い勝手の悪さはあれど……この派生の詳細さえ知らない相手ならば、発動中に余裕をもって無力化できる切札。
しかし。
その詳細を知る相手には本当に弱い。
言ってしまえば、自らの装備を晒さないよう隠れつつ時間稼ぎをすれば勝手に自滅していくのだから。
当然、私もその弱点は把握しているし……対策用として索敵用の汎用魔術や、固有魔術を手に入れはしている。
だが、この時ばかりは相手が本当に悪かった。
ガビーロール。
彼は、錬金魔術……その中でもゴーレムを創り出すのに特化した魔術師だ。
そして、彼の用いる固有魔術もそれに関連するものが多い。
いや、彼がそれに関連するものを探し蒐集したと言った方が良いだろうか。
どちらにせよ、彼は人型魔術生物を創り出す術に長けている。
過去、館の支配者をクロエの左腕と共に燃やし尽くした【編み細工の人型牢獄】も、大きく分類すればそれに当たるだろう。
それがどう影響するかと言えば。
……木を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中、ね。
灰にしても、それより早く創り出される人型のゴーレム。
パッと見るだけでゴーレムと分かる拙い造形のものから、一見するとガビーロール本人にしか見えない精巧なものまで沢山のゴーレムが周囲を埋め尽くしている。
しかも御丁寧にその全てに通信機能……人間でいうならば声帯に当たる部位を取り付けているのだ。
声に対しての索敵はそれにより封じられ。
彼の魔力を探ろうにも、周囲に存在するゴーレムはその彼の魔力を使い創り出されたもの。
ある程度単純な動きをさせる事によって、ある程度魔力消費を抑えているのだろうが、単純な魔力を感知する程度の索敵ではそれによって封じられた。
【魔力視】によって、ガビーロール本人へと向かう動力源とでも言うべき魔力の線を視ようにも、ゴーレムの数が多すぎてそもそも線自体が視えないのだ。
索敵特化の魔術師ならこれでもどうにか探し出す程度の事は出来たのだろうが……私は生憎、索敵特化ではない。
つまり。
切札を封じられ。
それを補助する魔術も対策され。
さらに増援は期待できるような状況ではなく。
徐々にタイムリミットが迫ってきている現状は……限りなく、詰みに近い状態だった。
だが、その程度だ。
……元々、私の役目はガビーロールさんの足止めではなく。レイさんへの妨害。
私は自分の出来ることを、役割を今こなすために。
【灰の女王】を解除した。
『おや?諦めたのかな!?』
「そんなはずはないでしょう?ここからですよ。えぇ、ここからです」
『はっはっは!!強がりかな?周りには大量のゴーレムに囲まれているんだぜ?!』
「そうですね、言ってしまえば絶対絶命……私がここで落ちる可能性は限りなく高いです」
一息。
「ですが、知ってますか?ガビーロールさん」
『……何をだい?』
「どの派生作品を読んでも……灰被り姫は最終的には勝つんですよ」
タタン、と足を踏み鳴らし。
氷の茨を周囲に出現させながら私は笑う。
どこにいるかも分からない、今の私を観察しているであろうガビーロールへ不敵に笑う。
灰被り姫は、最終的にどの作品でも幸せに……ハッピーエンドへと導かれる。
ある時は魔法使いに。
ある時は白の小鳥に。
そしてある時はナツメの木に。
で、あるならば。
彼女を勝利へと導くのは。
『私しカ!居ないでショウ!魔法使いでも!小鳥でも!あるいはナツメの木でもなイ!この狂い狂いて狂しめられている私にしカァァアア?!?!』
突如出現した彼は。
シルクハットを被り、燕尾服を着て。それでいてモノクルを掛けた青年でありながら。
その身を、役割を英雄であれと決めつけられた……通り名でも何でもない正真正銘の物語の登場人物。
「帽子屋……」




