思考しろ、手を使え
もしよかったら感想やご指摘などよろしくおねがいします。
本日は累計アクセス1万突破記念ということで、二本投稿します。
こちらは一本目となります。
みなさんいつもありがとうございます
冒険者の街 サラ - 時計塔 - PM
(まだ完全に落ちきってはいなかったのか!)
私は舌打ちしつつも、足元に【変異】を使い階段という不安定な足場から真っ平らな…言うなれば踊り場のような場所を作り出した。
「嬢ちゃん良い度胸じゃねぇか。ここがわかったってぇことは索敵持ちかぁ?」
「……」
答える義理はない。
今すべきは、目の前のこの男をどうやって殺すかを考えることだ。
先ほどの私の奇襲に気づかなかった時点でこの男は索敵系固有魔術は持っていないということが分かる。
「チッ。ダンマリかよつまんねぇ。……まぁ良い。大物狙う前にいっちょパワーアップを図るとしますかねぇ!!」
男がそう叫びながらどこかから剣を取り出しこちらへと突っ込んでくる。
WOAには剣士という大まかな職業はないため、自分で作ったかその辺の古物商で取引されている儀式用の儀礼剣だろう。
どちらにしても当たったら、こちらとしてはまずいため若干大げさに避ける。
踊り場から落ちないように、しっかりと【変異】を発動させ足場を広げながらだ。そろそろインベントリ内の木材なんか取り出して足場を作った方がいいかもしれない。
男は避けられたのが気にくわないのか、インベントリからまた何かを取り出した。
フラスコのようだが、日が落ちてきたために灯りのない塔の中ではあまりよく見えない。
「これでも喰らって死んどけ!起爆【液状爆瓶】ォ!」
「固有魔術…ッ!」
男が手に持ったソレをこちらに投げつけながら、発声にて固有魔術を発動させた。
光り輝くソレは、魔力感知系の魔術やアイテムを持っていない私にもはっきり分かるくらい、濃い魔力を垂れ流した状態で飛んでくる。
明らかに危険、喰らったら確実に死ぬか重傷のどちらかになるだろう。
咄嗟の判断で私も固有魔術を発動させる。あの時…アースラビットとの戦いと同じように。
今はあの時よりも技量は上がっているはずだ。
【チャック】を異次元への入り口を相手側に開いた状態で、投擲物の放射線上に発動させる。
出来るだけ私の身が【チャック】によって隠れるように。
そして、フラスコは丁度私と男の中間あたりで爆発した。
ドカン、と大きな音が【チャック】の向こう側で聞こえるが、衝撃自体は全くこちらへ流れてこない。
それを確認した後、爆発による煙が晴れないうちに男の方へ走っていく。
「おいおい、そんな足音響かせてたら相手に位置を知らせてるようなもんだぞ!!!」
咄嗟に左に避ける。
儀礼剣が私がいるすぐ隣を場所を通りすぎていく。それを横目で確認しつつ、儀礼剣が振り下ろされてきた方向に向かって一撃短剣で加えておく。
ダメージが入った様子は…ないか。
反撃を受けないうちに一定の距離を取る。
不思議な館での戦いと同じ、ヒットアンドアウェイを意識して攻撃をうけないように、なおかつ私の射程には男が入るように動き回る。
「ちょこまかちょこまか鬱陶しいなァオイ!!」
男が段々イラついてきたのか、儀礼剣を振り回す動きにも繊細さが欠けてきている。
大振り、また大振り…振り切った所を攻撃しに行く。
それを繰り返すように意識がける。
当然相手も避けるため、あくまで深追いはしない。
AIが動かすモンスターではないのだ。深追いしすぎてそのまま何かしらの固有魔術でもぶつけられたらたまったもんじゃあない。
「……そろそろ決めたいな」
「アァ!?」
つぶやいた内容が聞こえてしまったようだ。
これはいけない。
人間は頭に血が昇ると、何をしでかすかわからないものだ。ついカッとなってやった、というのは大体そんなもので、周りが見えなくなる。
こちらから見て、確実に男はキレている。
これはある意味で私にとって好都合でもあるし、そうでもないと言えた。
動きが読みやすくはなる。それはいいことだ。
だが、男はまだ固有魔術を戦闘で一つしか使っていないのだ。
外に張っている結界と、先ほどの爆発、それ以外にも何かあると考えて動かなければいけない。
そして使ってくるのなら、今の状況が一番わかりやすい……と思う。
それを使われる前に、そのまま倒してしまいたい。
樹薬種の短剣をインベントリに仕舞い、中からまた別の短剣を取り出す。
取り出したのは、一本の木の短剣。ただし、私が一度弄ったものだ。
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木の短剣
付与魔術【怠惰 Lv2】
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状態異常【怠惰】。いくらデバフ耐性があろうとも、分類的には禁書耐性にはなるんだろう。
何度か当ててしまえばこちらのものだ。
「すぅー……」
息を吸いつつ、昂ぶり始めていた心を落ち着かせる。
男もインベントリから四本の試験管を取り出し、先ほどと同じ固有魔術を使う準備をしているようだ。
丁度いい。わかりにくい動きをされるよりも、怒りで行動のワンパターン化がされたほうが今からある程度攻撃を当てに行く必要がある私にとっては都合がいい。
「これでも喰らって早く死ねェ!!」
「……」
男が試験管を投げたと同時に、私も走りだす。
鑑定を受けないように、木の短剣を後ろ手に隠して駆けていく。
とっておきの使い方も今使ってしまおう。
「――【チャック】発動!」




