第三試合 1
短めです
■赤ずきん視点
30分の休憩の後、私と灰被りは試合用のフィールドへと飛ばされた。
周囲を見渡してみれば、そこはいつぞや見た草原のように見えるが……空の色が真っ赤になっていて。
いかにもといった雰囲気のある空間となっていた。
「……灰被り、任せた。こっちは呼ぶ」
「了解です。――【祖は常闇に伏せ】【師は霧へと消えてしまう】」
私の言葉に頷き、彼女は自身のニックネームの由来となった派生の詠唱を開始する。
私も私で【童話語り】を開き、キャラクターを呼び始める。
戦いは既に始まっているのだ。敵が敵なのに、手を抜けるはずもない。
ただ一つ気になるのは。
……いくら何でも、動きが無さすぎる。
「【童話語り-不思議の国のアリスより帽子屋】。久しぶりに君の出番だ」
そうして私の魔力が【童話語り】を通じて狂気の帽子屋を呼び出した。
シルクハットを被り、燕尾服を着て。それでいてモノクルを掛けた青年がどこからともなくポンッとコミカルな音を立てて召喚される。
【童話語り】によって加筆する設定は『その者ずばり英雄である』、『彼の者には如何なる障害も試練にはなりえない』という分かりやすいモノだけを。
純粋な強化バフと無効化バフだけを乗せた使い魔の完成だ。
『はっはっは、私を呼びだすなんテ。どういう風の吹き回しでしょうねェ』
「相手が相手だ。良いから仕事をしてね……索敵と一緒に見つけ次第殺害。できるよね」
『えぇ出来ますトモ!我が身に宿るは英雄へと押し上げる偽物の魔力!あぁ、コレを使い貴女に勝利ヲ!!』
そう言って彼は私に一礼すると、虚空へと消えていった。
彼なりの索敵が始まったのだろう。
尤も、
「赤ずきんさん、こっちも準備完了です。【灰の女王】発動しました」
「じゃあ……行こうか。時間を掛ければこっちのが不利になるだけだし」
「了解です。周囲の警戒はお任せを」
私達も動かないわけではないのだが。
知り合いにも一人同じ名前の奴が居るが、彼と不思議の国のアリスに登場する帽子屋では天と地ほどの違いがある。
そも、彼は私が使っているように索敵や始末なんてものに特化している登場人物ではないし、どちらかといえばそういった事を行うには適さない。
元々終わらないお茶会を開いているような人物だ、荒事ができるわけがない。
まぁ、荒事関係は【童話語り】によって問題なくなっているのだが。
ではなぜ彼を選び出現させたかというと、だ。
彼はその終わらないお茶会を開いているという点や、不思議の国のアリスの主人公であるアリスに対し答えのないなぞなぞを問いかけるなど……相手の時間を浪費させるのが得意なキャラクターなのだ。
それこそ、見つかればお茶会に誘われ。
延々と彼の話を聞きながら。最期を迎えるだけとなる。
だからこそ、彼ならばガビーロールにとっては相性が良い。
だが。
「――そういう事してくる君にはこっちは弱いんだよッ!」
ガキン、と。
咄嗟に背後に出現させた氷柱と何か鉄のようなモノがぶつかる音がした後、追撃と言わんばかりに炎の球を何発もこちらへと放ってくる。
が、その程度でこちらが倒れるわけもなく。
すぐにその炎は灰被りによって灰へと変換され霧散した。
「やぁ、赤ずきんに灰被り。元気?」
「随分な挨拶じゃあないか。えぇ?レン」
「そうです。もっと正面から来てくれてもいいじゃないですか」
何やらどこかで見たことのある霧のようなものを纏いつつ、襲撃者……対戦相手の片割れであるレンは私達へと笑いかけた。
見る度姿を変えている彼女は、今日は何処かの郵便屋のような恰好をしている。
意味のない恰好はしないはずなので、その恰好にも何か意味はあるのだろうが。
「私さぁ、読唇術ってのにハマった時期があってね?」
「「……?」」
「いやさ。そっちのクロエちゃんがさっきの試合中に言ってたことが本当に共感出来て。いやぁ、良いこと言うよねぇ……」
一息。
「実は私も、戦闘はあっさり終わるタイプの方が作品としては好きでねぇ」
「ッ!?散開ッ!」
ゾクッと、背筋に嫌な寒気が走り。
灰被りは私の指示で右へ、私も私で左へと飛び、その直後私達が立っていた場所に出現した巨大ゴーレムによって更に遠くへと飛ばされた。
私達の試合は、どうしようもなく不利な状況から始まったようだった。