第二試合 玖
感知できない索敵魔術の攻略。
その方法を考えるには、手札が足りないと私は考えていた。
それこそ、やろうと思えば飽和攻撃……【分裂槍】なんかを上手く使えば索敵なんて関係ない密度によって1撃程度なら与えられるかもしれない。
しかし、それには彼女の固有魔術をどうにかしてスルーしなければならないという無視できそうにない壁が立ちはだかっている。
だからこそ私は、攻略を諦めた。
否、攻略しないことが感知できない索敵魔術の攻略法だと考えたのだ。
自らの近くに【チャック】を開いた状態で複数展開させる。
そして同じ数だけ【白霧結界】の範囲外……丁度、グリムが居る方向を囲むように展開させた。
元々考えていた策。
グリムの靄に影響されない道具を使って、グリムを殺す策。
それが、これだった。
私は【チャック】の中から事前に作っておいた杭を何十本も取り出すと、【棚】による【身体強化】を自身の腕力へと集中させる。
「……このまま私の魔力切れでも待つつもりです?」
「それもいいかもしれないわね。ただ、どうせそうなる前に勝負を決めに来るのでしょう?ならそこを私は返り討ちにするだけよ」
グリムが動かない理由としては、今言っていることで間違いはないのだろう。
罠を張っているから、動かなければいつかは私が魔力切れを起こすから。
事実、このまま【白霧結界】を展開していれば遠くない未来に私は魔力切れを起こしそのままこの試合は終わるだろう。
私は【チャック】を更に展開し、新しく展開したものと自らの周囲にあるものを【連結】させる。
どちらの口から出ても延々とその場に留まるように。ループさせるように【連結】させる。
もしかしたらこの行為によって処理が重くなる可能性はあるが……この程度でラグなんか発生するような軟なサーバを使っているゲームではない。
ループしているのを確認し、その入り口となる【チャック】に強化された腕力を用いて思いっきり杭を投げつける。
禁書を用いているからか、限界を超えた強化によってなのか唯一無事だった右腕から血が噴き出るようなエフェクトが舞うがそれもすぐに装備品のリジェネ効果によって収まっていく。
……まず、1本。
これを繰り返していき、計30本。
適度にグリムと会話をしつつ――こちらへと移動するように誘い断られつつ――用意を終えた。
「意外と貴女の魔力量も馬鹿にしたモノではないのね。流石に新人だというのにレイドボスを倒したのは伊達じゃないってことかしら」
「あれは運が良かっただけですよ。……と。そろそろですかね」
「あら、じゃあ祈りなさい。運が良ければ私を殺せるかもしれないわよ?」
「あは、生憎無宗教なもので。あぁ、そうそうグリムさん知ってます?」
「……何よ」
一息。
「私って、戦闘はあっさり終わるタイプの作品が好きなんですよね」
「は?……ッ!?」
瞬間、今までループさせていた杭の行先をグリムの周囲の【チャック】へと変更する。
そして起こるは、全方向から凄まじい速度で襲い掛かる杭の嵐。
魔術によって作られたものでないために、靄の変換対象にすらならないその暴力はグリムの立っているであろう位置へと殺到した。
ここで手を止めるわけもなく。
私はそのまま、まだ【チャック】内に残っている杭を取り出し投げ続ける。
やるならば徹底的に。【霧海】による索敵ができないのだから、相手を本当に倒したのか分からないのだ。
油断して【白霧結界】を解いた瞬間にこちらへと靄で迫って来られても困る。
そう考えた瞬間に、グリムの居るであろう方向と私の間にある【霧海】が次々に消えていく。
考えるまでもない。彼女が靄に変わってこちらへ突っ込んで来ているのだ。
元々準備していた杭が当たったかは定かではないが、無傷とまではいかないだろう。
しかし、彼女は忘れてはいないだろうか。
私には一時的に彼女を止めることができるという事を。
彼女の進行方向は分かりやすい。私に向かってきているのだから。
「【範囲変異】、加えて『魔によって創られし壁よ、内なる魔を霧散させよ』」
そして起こるは先ほどの繰り返し。
違うのは、私がグリムを殺すことの出来る杭をすぐにでも投げられる体勢で持っていることだけだろう。
ゴゥ、という風の音と共に投げられた杭は靄によって少しずつ侵蝕されていた壁を突き破り。
その向こう側に居たグリムを捉え、弾けさせた。
第二試合、決着。
勝者――クロエ、リックペア。
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■赤ずきん視点
「……いやぁ、勝ったねぇ」
「勝ちましたねぇ……」
最後の攻防は、クロエの作戦勝ちといえばいいのだろうか。
会話の聞こえない私達には、グリムは立ち止まりクロエだけが準備をしていたように見えていた。
だからこそ、疑問が残る。
グリムが何を話していたのか。なぜ最後、あの状況で動かなかったのか。
分からないことは多い。
だが、今はそれを考える時間ではない。
なんせ次の試合の相手はガビーロールに加え、私達の身内の中で一番何をしてくるかが分からないレンなのだから。
多分、第二試合は後で3話ずつくらいまとめる気がします。