第二試合 漆
中継の赤ずきんさーん
■赤ずきん視点
「おや、おかえり。ナイス判断」
「あざっす。いやぁ、あんときはあぁするしかないかなって思ったんですけど流石に悔しいっすね」
「はは、仕方ないさ。アレは普通に気付けないし避けれない」
中継を見ていた私の近くに、死に戻りしてきたリックが近づいてきた。
【魔臭捜犬】の変化効果が死んだことによって切れたのか、既に元の人のアバターへと戻っている。
「どうです?状況」
「いいっちゃいい、かなぁ。何話してるのか分からないけど、あっち側が突然あの靄切って正面から戦い始めたよ」
「あー……いや、こっちには良いんでしょうけど、怖いっすねソレ」
「だろう?絶対的な有利捨ててまで正面衝突にした理由がわかんないよねぇ」
……まぁ、クロエちゃんを油断させるとかそういうのだろうけど。
正直な話をすれば、油断を誘うような行動はクロエにはあまり効果はないだろうと思う。
そも、彼女が簡単に油断するくらいならほぼほぼ一人でレイドボスを削り切れてないだろう。
彼女は基本的に彼女の固有魔術を使っての奇襲、搦め手なんでもござれの全方向からの攻撃を得意としている。
それに引き換え、グリムはといえば死霊術やその固有による正面からの物量作戦が得意。
相性的にはクロエが不利ではあるものの、別に彼女が1対多が苦手なわけでもない。
むしろ得意な方だろう。ダンジョン内でのシャドウウルフとの戦いを見ればそう判断できる。
だが、だからこそ。
「こわいなぁ……」
「一応、靄を突然使ってきそうなのが怖いってのは分かるんですけど……それ以外ですよね?」
「うん。動き的に何か誘ってるというか……おっと」
「……成程、こういう事ですか」
中継ウィンドウでは、クロエの腕が今しがた地面から生えてきた槍に貫かれ捥がれていた。
幸いなのは、生身の右腕ではなく偽腕となっていた左腕だった点くらいか。
「クロエさんなら避けれそうな攻撃ですけど……」
「いや、アレ多分本人混乱してるんじゃないかな。多分索敵に引っかかってないんだろう」
「……魔力感知も出来る【霧海】に?」
「あぁ。槍が出てきた時目を僅かに見開いてたからね。相手が隠蔽系、もしくは……って感じかな。」
グリムの狙いがある程度分かった所で、疑問がまた浮かんでくる。
恐らくの所、彼女の狙いは部位欠損。それも機動力を削ぐために足を重点的に狙っていこうとしているのだろう。
しかしながら、なぜそんなことをするのか。
……考えられるのは、あの靄を確実に当てるため逃がさないように、かな。
普通の魔術師ならば、足を動かすことができなくとも浮いたりなんやかんやで動くことは出来るだろう。
実際、私やハロウ、灰被りなんかは普通にできる。
しかし、クロエは言っては悪いが普通ではない。
魔術師に普通じゃない奴なんてそれこそ腐るほどいるが、そういう話ではなく(それこそ先ほど挙げた私含め3人なんてその筆頭だろう)、この場合ある程度必要になる魔術を取得しているか否かという意味だ。
部位欠損した場合用に、止血用の最低限の回復魔術。
機動力が潰された場合用の、別の行動手段。
敵から逃げる場合用の、長距離移動手段。
パーティプレイを前提としてこのゲームをやっているのなら全員が全員取得している必要はないだろう。
しかし、彼女は基本的にソロプレイヤーだ。
ソロならソロとしての問題がどこかしらで発生する。
それこそ、今挙げた3つ以外にもキリがないほどに取得したほうがいい魔術は出てくるだろう。
プレイヤーによっては固有の派生によってある程度賄えてしまう場合もあるが……彼女はそうじゃない。
私の知ってる範囲で考えてみても、そういった緊急時に必要な固有を彼女は持っていない。
「多分だけど、クロエちゃんの持ってる固有の種類が大雑把にだけどバレてるんじゃないかねぇ。コレ」
「……そんなことが可能なんです?」
「可能か不可能かって言われれば、可能かな。実際条件はあるけど、見ただけで相手の持ってる魔術を把握できるっていう固有なら何個か知ってるし、その使い手がファルシ側に1人いるのは分かってるしね」
「……有名な人です?」
「多分知ってると思うぜ?ガビーロールの事だし」
ガビーロールはある程度クロエと接触しているのは知っているし、恐らくその時に盗み見たのだろう。
彼は一見バカのように見えて手癖が悪い。
……まぁアイツの事だからある程度濁して伝えてるんだろうけど……厳しいなぁ。
やはりリックが落ちたのは痛手だったか。
判断としてはクロエを残す、というのは間違っていないしもしかしたらあの場で全滅もあったため素直に称賛に値する行動だった。
ただ、彼が残っていればまた打てる手が変わっただろうと考えると……やはり、痛い。
「……俺落ちたの、不味かったですかね?」
「結果として落ちたのは仕方ないけど、これ見るとちょっと……そうかなぁ……実際やったことは偉いし、良い判断だったんだけどね本当」
「チッ……くそ。やっちまったなぁ……」
手の内がバレている状態で戦う。
私やハロウのように対策してもある程度意味がないタイプの魔術師ならともかく、クロエはかなり支障がでるタイプだろう。
それこそ、彼女が最初にグリムを殺した時のように対策さえハマってしまえば格上ですら殺せてしまう。
……大変な試合になってきたなぁ。




