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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半
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第二試合 伍

難産。


「臥ァ!?」


ビターン、と。

それこそギャグ漫画のような音と共に、グリムのモノと思われる声が聞こえてくる。

……上手くいったっぽい?


狙い通りに事が運んだようだ、と顔に笑みが浮かぶ前にグリムがぶつかった壁が黒い靄へと変換されていった。

どうやら、一時的に内部の魔力を霧散させることは可能だが時間が経てば元の状態に戻ってしまうらしい。

これは明確なデメリットだろう。

だが、使えない程致命的なものではない。


……使えそうだね、【言霊】。

使えるのなら、あとはタイミングを合わせるだけ。

グリムが冷静じゃない今だからこそ使える策だ。

普段はこんなもの使えるわけがない。


しかし、一時的にという部分は問題だ。

それが意味するのは、結局のところ【言霊】は決め手にはならないということ。

永続的に続くのであれば、【言霊】を使い魔力を散らしただけの槍を作るだけで事足りるのだ。


一時的でもタイミングさえ合わせれば殺せるのでは?という考えも過ったが、即座にその考えを否定する。

メリット……というよりも私への見返りがリスクに見合っていないのだ。

殺すことができるのが一番の見返りだとしても、それに対するリスクが私の死の可能性、というのはいただけない。

勝負というのは勝てるからするものだ。勝てない可能性、というよりも負けの色が強い勝負はそもそもするべきではないし、やろうと考えること自体少し狂ってる。


それに、


「……少し、冷静になりましょう」


私の攻撃によって冷静になったグリムの前で、そんな博打をするようなことはやりたくはない。


「もう少し怒り狂ってても良かったんですが」

「そんなことしても、同じことの繰り返し。意味のない戦いはもうやめにしたのよ」


グリムは黒い靄から人型のアバターに戻り、こちらを睨みつけている。

……改めて思うけど、本当に厄介だなぁ。あの靄。

魔術師殺しの靄、とでもいえばいいんだろうか。

魔力を媒介に無機物に対しても感染、伝播していく黒死病を元にしていると思われる固有魔術。


前回殺した時は、リセットボタンと共に。

さながら磔にされた犯罪者に石を投げるように。

だが、その方法は今回使う事は出来ない。


そもそれくらい彼女は既に対策を組んでいるだろう。

むしろ、あの時あの戦法が通ったこと自体驚きなのだ。

それをする必要すらないほど、彼女とハンスのコンビである【登場人物(フェアリー)】の死霊術での殲滅力は強かったとみるべきか。

それとも、明確な弱点として誰も指摘しなかったのか。


「……冷静になった所で、やることにはかわりないでしょう?」

「まぁ、そうね。でも貴女からすれば私が冷静じゃない方が良いでしょう?」

「それはそうですよ、冷静じゃない方が絶対的に楽ですからね」


何を当たり前のことを、と思いつつも相手が何をしてきてもいいように身構えておく。

黒い靄によって量が減った【霧海】も目立たないよう薄く展開しなおしていくが、背戦術として【白霧結界】を展開する意味もこのまま動きを把握するのに使うのにも意味は薄いだろう。


だからといって【霧海】を展開しないという手はない。

これがあるだけで私の【チャック】を始めとした魔術の使い方の幅が広がるし、相手の奇襲なども潰すことができる。

便利なのだ。本当に。


「……で?お互いやることは決まってるのに、急に話始めてどうしたんです?」

「いえ。このまま私が【黒死斑の靄(モラテネラ)】が使ってたとしたら、最終的に私が削り勝ってしまう。それは観客も面白くはないでしょう?」

「何が言いたいんです?」


……本当に何を言い始めた?この女。

恐らく、彼女の言う【黒死斑の靄】がそのままあの靄の正体、固有魔術だろう。

確かに彼女がソレを使い続けていたら……私やグリンゴッツ達が作っていた杭を上手く使わない限りは負けるだろう。

それは間違いない。


「観客が一番盛り上がる形。決闘を見ている観客が一番求めているモノ。このゲームで一番見られないもの。……そう、『真正面からの真剣勝負』という他のゲームではよく見られるモノ」

「……そりゃあそうでしょう。このゲームで真正面からよーいドン!の戦闘なんて下策も下策ですし――」

「――だからこそ、こんな特殊な環境では見たくなるというもの。どうかしら?貴女もそちらの方が勝ち目があるのではなくて?」


実際、私もその方が勝ち目はあるだろう。

あの魔力を媒介に広がる靄をずっと使われるよりはまだ勝ち目がある。

だからこそ、分からない。

観客が盛り上がる?面白くない?そんな理由で自分が負ける目を増やす意味が本当に分からない。


……周囲の警戒もしておくかな。

もしかしたら突然ホーネットが後ろから飛んでくる可能性がある。

グリンゴッツが抑えているはずだが……それも完璧ではないからだ。


「そちらがそれでいいのなら、私からは特にないですよ。良いでしょう」

「そう?なら少し離れて……そう、大体30メートルほど。そこから合図で始めましょう」

「なら、こっちに良いモノがありますよっと」


【チャック】内から木の杭を取り出し、グリムへ見せる。


「これを打ち上げるんで、地面に落ちた瞬間から開始ってのはどうです?」

「あら……ソレ、作るのに魔力使ってないのね。いいわ、じゃあそれでいきましょう」

「……分かりました」


……やっぱり【魔力視】に似た何かくらいは持ってるか。

警戒のレベルを上げつつ、目の前と天井付近に【チャック】を展開。【連結(リンク)】によって簡易的な合図用のゲートを作り出す。


「じゃ、落としますよ。準備は?」

「えぇ、問題ないわ」

「……」


その返答を聞いた瞬間に、私は杭を落とした。


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