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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半
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第二試合 肆


■クロエ視点


先ほどからグリムのモノと思われる怒号が、廃墟と化した神殿内を木霊している。

これが観戦側に聞こえていたら始めたての初心者なら呪詛系のデバフくらいは掛かってしまうのではないだろうか。


実際、私にはデバフとして【呪い】というシンプルな表示が出ているのだから。

確か行動阻害系……身体の動きが多少遅くなる程度のデバフだったはず。

放置していてもそこまで問題はないだろうし、そもこの叫び声を聞いている間だけの限定デバフのようなものみたいだ。

デバフの残り時間が1から0になるのを繰り返しているのを確認したため、ほぼ間違いないだろう。


「……この声も魔術の一種、かな。奥が深いなぁ」


ある程度準備を終えた私は、その呪いの如き叫びを聞きながらポツリと呟いた。

魔術というものは、人によって形を変えるものだ。

それこそ、WOAで言う固有魔術がソレだし……昔現実で有ったとされる本物の魔術に関してもそう。

似たようで、同じものはない。


だからこそ、人々は歌や文、それこそ何でもないような建物や模様に魔術的な意味を見出して使ってきた。

その中でも、一番効果がはっきりとしていて尚且つ人に身近なモノ。

声。


それに力が乗っていたら。

確かに脅威だろう。耳を塞ぐ、物理的に……魔術的に聞こえなくする。

そういった事をしなければ防ぐことの出来ない古来の魔術。

日本でも『口に出したら現実になる』と言われている。

それも、元を辿ればどこかでコレに辿り着く。


【言霊】。

事実、その概念自体はこのゲーム内にもあるのだろう。

私の持つ統率魔術も、『口に出して命令する』という一種の言霊的要素が含まれているのだから。

やろうと思えば、私にもできる可能性は十分にある。


【魔力視】と似たようなものだ。

魔力を喉の方へと移動させ、口から言葉と共に吐き出す。

今回ならば……簡単に。身体を強化するように。


「『身体よ、鉄のように固くなれ』」


瞬間、口から言葉と共に吐き出した魔力が形と色を伴い私の身体へと返ってくる。

ポゥ……と、淡く全身が橙色に光ったかと思えばそのまま消えることなく光が留まり続けている。


物は試しとインベントリから短剣を取り出し、浅く腕を切ってみようとするもキン……という鉄のような音と共に弾かれてしまった。

皮膚には傷一つ付いていない。


『条件を満たしました。【言霊】を修得します。

 また、【言霊】用の簡易チュートリアルを受けることが可能です。

 どうしますか? Y/N』


そんなことを確かめていると、いつの間にかウィンドウが出現していた。

決闘中だというのにシステム面はしっかり仕事しているらしい。

簡易チュートリアル、というのは気になるが今やれるものでもないだろう。

そう考え今はとりあえずキャンセルを押しておくことにした。


『簡易チュートリアルは後からゲーム内ヘルプにて再度受けることが可能です。

 では、良き魔術生活を』


思わぬ所で新しい要素に触れることが出来たが、今回使えるモノではないだろう。

魔術ですらなく、そもそも相手は魔力に反応する固有持ち。

【棚】を召喚せずにある程度のバフを掛けることができるのは確かに便利だが……相性が悪い。


それこそ、魔力を逃がすなんてことが出来たなら話は別だろう。


「……いや、出来るのかな?」


思いついたことを一度試そうと、【変異】を使おうとした瞬間。

展開していた【霧海】が高速でこちらへと近づいてくる何かを捉えた。

気が付けば先ほどまで聞こえていたはずの叫び声も、今は聞こえてこない。


つまりは、


「クロエェ!!」

「……グリムさん。流石に見てる側もダレてきただろうし、決着をつけましょうか」


私の対戦相手。【登場人物(フェアリー)】グリム本人だ。

彼女はあの黒い靄の派生魔術なのか、彼女自身の身体を黒い靄へと変化させ移動してきていた。

さながら、伝承にある吸血鬼が霧へと変じるように。


……これじゃ効果ないどころか、縦横無尽に飛び回られるんじゃない?

用意していたトラップの1つ(落とし穴)を封じられ、少しだけ苦い顔をしてしまうが、兎にも角にもアレをどうにかしないといけないのだ。

迫ってきた彼女を避けるように左へと飛べば、そのまま風のようなスピードで彼女は私が元居た場所を通り過ぎていった。


まるで猪、いや触れたらアウトの分、猪よりも面倒だろう。

前までの黒い靄を展開中、遅すぎる彼女自身の移動速度を補うように派生したものであるならば元々あった弱点が1つ潰れているのだから当然か。


強い敵が、さらに強く成長して帰ってくる。

少年漫画ならば熱い展開だが、これは残念ながら少年漫画ではないし、私は逆境を跳ね返すようなヒーローでもない。

結局、そこら辺に描かれている名前もないモブに過ぎない。

だからこそ、強大な敵に勝つために小細工をするしかないのだ。


……強化は足に集中、【範囲変異】で一回テストしたほうが良さそうかな。

思考発動によって、足を重点的に身体強化しつつ私とグリムの間に壁を複数【範囲変異】によって創り出す。

グリムの方はといえば、再び叫び声をあげながらも私が展開した壁に気が付いたのか、黒い靄へと変じたまま突っ込んできていた。

そこまでは予想通り。相手は今壁によって私の姿は見えていないため、一応進行方向から右に離れた位置に移動しておき……今しがた手に入れた力を行使する。


「『魔によって創られし壁よ、内なる魔を霧散させよ』!ぶっつけ本番、上手くいって!」


【範囲変異】によって創造した壁に対して宣言する。

魔力を伴ったその声は黒い靄と化した彼女よりも早く壁へと到達し。

その光を弾けさせた。


メリット:ある程度系統に縛られないで魔術を行使できる。

最大のデメリット:声に出すから対処されやすい。

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