話間 -Grim's story-
後でいれるか、近くにいれるかを迷って迷って今いれました
■グリムの話
【登場人物】。
少年のアバターをしたハンスと共に無邪気な子供のRPをしていた時に付けられた通り名だ。
恐らくは私や、ハンスの名前……それに子供というよりは物語に出てくる妖精のような無邪気の中にある残酷さ、という部分からつけられたのだろう。
好んで使っていた魔術も、死霊術や呪術といった中々に子供らしくない魔術だったのも要因の一つだろう。
まぁ、それはいいのだ。
今の私には関係のない話。
明確に今の私……あの憎い女に出会った後の私になったのは、私が彼女に負けた後からだ。
始まりは、襲撃が失敗し私達【登場人物】がデスペナルティから戻ってきた後からだった。
『もう、終わりにしよう?』
ハンスは突然、そう言いだした。
何でもこのRPを続ける気力がなくなってしまったとのことだった。
当然だ、私達は二人とも見た目通りの年齢ではないし、どこか無理しているのは分かっていた。
その為、いつか終わりが訪れることも理解していた。
だが、許せないことがあった。
彼の目が、私と共に活動していた時よりも輝いていた事だ。
RPしている時も、二人きりでRPなしで話していた時でも見たことのないその輝きを見て、私は言葉を失った。
そして、続く彼の言葉に私は明確に今の私となった。
『僕は……いや、俺はこれからあのお姉さんを探そうと思う。報復じゃあない。彼女に興味が出たんだ』
その言葉を聞いた瞬間に、私はハンスを殺した。
実際に殺したわけじゃないため、ペナルティが明ければまた戻ってくるだろうが……私は彼が許せなかった。
私は彼の恋人でもなんでもないけれど。同じゲームをプレイし、一部では恐れられる……そんな地位まで一緒に来た仲間が。
たった一人の女の尻を追いかけるために、その地位を捨てると言い出したのだ。
あぁ、分かってる。
この感情は怒りでも悲しみでもなく、嫉妬に近いものだということに。
いつの間にか、私は私を殺した彼女たち二人に対してもいつの間にか暗い感情を抱くようになっていた。
それが逆恨みだと頭のどこかで分かっていたとしても。
次こそは絶対に殺す、そんな目標を掲げ日々自分の固有魔術の操作技術を磨いていた時、それは起こった。
戦争だ。それも、情報屋の話によれば相手の国にはあの私を殺した片割れがまだいるらしい。
なんていう幸運だろう。私はその日、普段信じてもいない神に感謝をして参加を決意した。
元々通り名を持っていた私は、いつの間にか攻撃作戦の主力として組み込まれていたし必要とされていた。
戦争開始までは本当に心地良かった。
皆が私を尊敬するような目で見てくれる。必要とされている。
あんな女の尻を追っかけていった男とは違って、私を求めてくれる。
そんな幸福の中、ある一人の固有魔術を使って無理矢理に相手の主力陣と思われるプレイヤーとこちらの主力陣の一対一の状況を作り出すことが決まった。
一対一だと言っても、こっち側の主力陣の中でも対個人に特化したメンバーとの一対一だ。
完全にこちらが有利。それに加え、私はその固有魔術を使うプレイヤーに対してある要望を出していた。
『知り合いがいる。その相手と戦えるようにしてほしい』
このゲームのプレイヤーにはそう珍しくはない仇討ちのようなものだ。
そう理解したのか、そのプレイヤーは快く承諾してくれた。
戦争ではその要望のおかげか、日ごろの行いが良かったのかあの女と一対一の状況になったが……。
あぁ、今思い出しても腹立たしい。
あんな固有魔術反則だろう。
いくら固有魔術が個人によって多種多様に変わるものだといっても、突然姿を消し固有魔術から逃げられるようなものは聞いたこともない。
その後辺りだろうか。
あの女がデスペナルティになったことを知った。
音桜という巫女のような姿をしたプレイヤーと相打ちになったらしい。
いい気味だと思ったが、私の手で殺したかったという思いもあった。
だが、それを考えても仕方ない。私はあの女を次は確実に殺せるように鍛錬をするだけなのだ。
そして、今。
試合形式の、観客もいる決闘で……私はあの女と相対した。
新しく手に入った派生、新しく組んだ仲間。そして、油断しきっているあの女。
場は整っていた。
これ以上なく、あの女に抵抗されることなく殺せたのだ。
だが、結果はそうならなかった。
寸での所で、もう一人のプレイヤーに邪魔をされ。またあの女に逃げられた。
ご丁寧に煽るように、笑顔でこちらに手を振っていた。
私の頭の中で、何かが千切れた音がした。