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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半
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第二試合 参


■クロエ視点


想定外というものは、戦闘中において常に起こり得るものだ。

それがどちらにおいて想定外だったかは、当事者しか知りえない。


先ほど私達が穴の中に封じ込めたホーネットの派生魔術。仕様の穴を突いたものの、アレは彼がベラベラと戦闘中に話をしてくれたからこその結果だろう。

もしも彼が派生魔術を発動させたまま武器をもって突っ込んで来ていたら、間違いなくこちら側は成す術もなく倒されていたことだろう。

まぁ……何やら私に執着していたみたいだから、どんなに有利でも話をしようとしたかもしれないが。

だからこそ、想定外。

この場合は、自身の派生魔術に絶対的な自信を持ちすぎて……すぐに気付けるような弱点の対策をしていなかったホーネット内の想定外(・・・)なのだろう。


『危ねぇッ!』

「ッ!?」


ならば、きっと。

目の前でリックが黒い靄に侵食され霧散していき。

彼に突き飛ばされたおかげで、怪我一つない状態で無事だった私。

そして……黒い靄が固まり、大部屋に繋がる廊下に突如現れたグリムが笑みを浮かべていたとしても。


「あー??なーんか違う奴が引っかかったぽいけど、まぁ、いいか」

「グリム……!」


この状況は、私の想定外と言うべきものなのだろう。

深く考えれば分かっていたことではあるのだ。

私のようなゲームを始めて大して時間も経っていない人物が派生魔術とはいえ長距離移動手段を持っているのだ。私よりも長く、それでいて固有魔術に触れてきた彼女がそれを持っていないはずがない。


それに加え、彼女が全く動いていなかったことから頭のどこかで、

『グリムは私達を大部屋で待ち受ける気だ』

と考えていたのだろう。

少し考えれば分かるのだ。彼女の持つ黒い靄の固有は、私の【霧海】と同じように狭い場所でこそその真価を発揮する。

だからこそ、大部屋で戦闘するなんていう自身の力を十二分に発揮できないシチュエーションで待ち受けるはずないのだ。


完全な考え不足。作戦ミス。

想定外、なんて言葉で濁している気になっているがこれはれっきとした戦犯だ。


「まぁ、貴女があんな奇襲でやられるとは思ってなかったけど?……今回は逃げられないし逃がさないからなァ!?」

「君、どんどん会うたびにキャラ崩れていってない?大丈夫?」


冗談が口から出るが、正直内心はそんなに余裕はない。

彼我の距離は大体10メートル前後。私が普段戦闘をする場合ならば理想の距離だが、相手が悪すぎる。

魔力を持つものが触れたら黒い靄へと変換する、という固有魔術を持つグリムは相手と近ければ近いほどにその凶悪さを増す。


彼女との接近戦を避けるためにも、【霧海】という普段から良く使う固有魔術の利点を無くしてでも大部屋で戦いたかったという思いもあったのだ。

それに今の私は【棚】を召喚すら出来ていない。

つまりは、【身体強化】すら碌に掛かっていない状態なのだ。


そんな状況で、接近してくる相手と戦うのははっきり言って無謀だった。


「……」

「あれれ~?どうしたのお姉さぁん。黙っちゃって諦めちゃったのぉ~??」


ならば今は、どうやってこの状況から逃れ自分の望む戦場へと移動するかを考えた方がいいだろう。

幸い何故かまだグリムはこちらへと襲い掛かってくる様子はない。

……口調からしてこっちを嘗めきってるんだろうけど。二回ほど逃げられてるんだけどなぁ。


位置関係としては、大部屋側に黒い靄を身体の周りに漂わせているグリムが居て。

それに相対するように白い霧を纏う私がいる。

そしてまだ、私の霧は大部屋の中にも漂っていた。


「……ふぅー。これ言うのも久々かな――」

「?何を……」

「――戦闘開始」


その瞬間、私は自分の足元と大部屋(・・・)にそれぞれ【チャック】を設置し【連結(リンク)】させる。

突然現れた出入口に落ちていく私を呆然とした顔で見ているグリムには笑顔で手を振っておこう。


「なっ……あっ……クソがあのアマァァア!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『なっ……あっ……クソがあのアマァァア!!』

「うっわ、叫んでる。こっわ……」


急いで【チャック】を閉じ、そこから入ってこられないようにする。

【霧海】によって部屋の内装を理解していたために出来たことだが、あんまりやりたくはない移動方法だ。

下手に【チャック】を設置すれば、【連結】先に出られない可能性もある。


部屋の内装、といっても神殿内の大部屋だ。

そこらに柱が立っており、何かの神だと思われる像が立っているだけに過ぎない。

所々崩れてはいるが。


「さて、と。時間があんまりないかな……」


相手も相手で長距離移動ができるのは分かっている。

それに完全にこちらの魔術は無力化されてしまうのだ。ならば少しでも罠を張った方がいいだろう。

それこそ、相手を考え確実にハマってくれる(・・・・・・・)罠を。


【棚】も召喚しておき、【身体強化】に加え【憤怒】も掛けておくことを忘れない。

【霧海】における索敵は魔力反応を中心に拾えるように調整もする。

これで先ほどのような犠牲も出さないだろう。


「あ」


……キング達、忘れてきた。

本格的に人手が足りない可能性が出てきてしまった。


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