第一試合 序
本日!ラスト!
もうちょっと投稿できるかなって思ったんですあ、思った以上にリアルタイムで書いて投稿するには腰が……。
■クリス視点
「失敬。ではこういうのはどうでしょうか?【嘘】」
瞬間、私の持つ弓が霧散した。
まるでそこに始めからなかったかのように、私の手の中から消えてしまった。
その現象に私の頭は一瞬フリーズしてしまう。
戦闘中でその一瞬は致命的な隙になる。
「【真実を語りましょう?】【真実について語り合いましょう?】」
「ッ!成型!!」
彼が詠唱を開始したその声で私の停止した頭は再び回転を始めた。
急いで彼に向かって【連鎖する立方爆弾】を5つシステの近くに出現させ、そのまま起爆する……が。
空気が変わる。いや、私のいる場所まで彼の魔力が伝わってくる。
この感覚はつい最近味わった……そう、クロエの【白霧結界】と似て非なるもの。
「【■■■】発動……ふぅ、危ない危ない。やはり貴女は年上に対する礼儀がなっていない」
「チッ……そりゃすいませんでした!」
相手の固有魔術、恐らくはその派生である『魔力を乗せて『嘘』と宣言したモノが限定範囲内では発生、発現しなくなる』という効果を持つ結界が発動したのか、彼は無傷でその爆風の中から歩いて出てくる。
手にはいつの間に出したのか、あの時使っていたレイピアを持っていた。
一応、この結界の効果自体は分かっている。
分かっているが……一度発動されたという事実はかなり辛いことには変わりない。
あの時と同じ事の繰り返しにはなるが……今回閉鎖空間でないのは私にとってかなりの不利だ。だが、それによって取れる戦法もある。
「【補助-多元感知】発動」
呟き、補助魔術を発動させる。
以前は肉体損壊によって殺したが、逆に結界系魔術による魔力消費による気絶を狙っていく持久戦に戦術を取るというのも、この状況なら出来る。
しかしそれには問題がある。
……私の魔術構成的に、正直持久戦ってのは向かないのよね。
弓が失われたといって、【頭上の林檎は撃ち抜かれる】が使えないわけではない。
そもそもは弓すらも作り出し撃ち出すことが出来る固有魔術なのだ。弓がない状態で撃つことは簡単に出来る……が、それをすると弓を作る分の魔力も持っていかれて余計に魔力を食ってしまうのだ。
持久戦をするにはその消費は馬鹿にならないものだ。いくらMPポーションがあるとは言え、この状況で使うには向かないだろう。
また、そんな【頭上の林檎は撃ち抜かれる】よりも消費が激しい【連鎖する立方爆弾】は論外だ。
攻撃力はあるし、空中における足場にもなるため便利ではあるが……それこそ持久戦には向かない固有魔術なのだ。
つまりはメイン火力としている固有魔術が持久戦においてはどちらも死んでいるのと同義。
……持久戦は論外。ただ、今回は閉鎖空間じゃない。こっちも持久戦用の戦法をとれるってことは向こうも同じ。
そう、何も持久戦をとれるのはこちらだけではないのだ。向こうも同じ手がとれる。無論、MPポーションを飲む前提ではあるしこちらが飲むタイミングで邪魔出来ればその戦術はとれないのだが。
だが、その邪魔を防ぐ事が出来るのが今しがた発動させてしまったシステの結界なのだ。
やはり、相性が悪い。唇を少し噛みつつ、距離をとり彼のレイピアの範囲内から離れていく。
逃さないつもりか、彼は弾丸のような速度でこちらへと向かって走り出した。
恐らくは乱風魔術である【操風】を使っているのだろう。すぐに彼我の距離はほぼ0になり、
「一撃」
「ぐッ……!」
左側の肩口を切り裂かれる。かなりの速度で切られたためか、そのまま後ろへと弾かれてしまう。何とか空中で姿勢を整えつつ、私も【操風】を発動し弾かれた以上の距離を開ける。
痛覚はないが、切られたことで動かし辛くなってしまった。
回復魔術なんて高尚なモノは習得していないため、この場で治すことはできない。両手を使わなくても矢を射ることはできなくはないが、メインウェポンを使うには少し辛い状況になってしまった。
打開策を考えなければならない。
そんな考えが頭の中を駆け巡り、実際に打開策は出てこない。どうすればいい、どうすればこの状況を打破できる。そんな考えだけが浮かんでは消え……パニック状態へと陥ってしまう。
そんな私の様子を見て、システは不敵に笑う。まるで獲物を前にした蛇のような、そんな雰囲気を纏いながら彼はこちらへとわざと一歩一歩歩いて近づいてくる。
一気に形成逆転、それも悪い方向へと陥ってしまった。
なんとか平常心になるため深呼吸を繰り返すが、一向に頭の中の考えの渦は収まってくれない。
こんな状況で思考発動で魔術を使えるはずもなく、ただただ私は歩いてくるシステに背を向けないように気を付けながら距離をとるくらいしかできなかった。
……どうすれば、どうすればいい?切られた。距離が足りなかった?違う、考えすぎ?いや、それでも……違う違う、今はアイツに勝つことを考えないと……でも……。
私の目には、ゆっくりと近づいてくるシステの姿がまるで悪魔のように見えてしまっていた。