動いてた気がして、でも動かなくて
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冒険者の街 サラ - PM
午前中、PK襲撃用に出来る限りの準備を整えた。
赤ずきんが言うには、PKが動くのは午後から…つまりそろそろらしいからだ。
それなら何故動かない午前中に攻めないのか?という私の疑問に対し、彼女は、
『いやいやそんな事をしてごらんよ。格上相手をPKしにきてるようなやーつだ。襲撃対策くらいたくさん用意してるに決まってるだろう?』
それって相手が動いてる時もそうなんじゃ…、と言ったが彼女は笑うだけで何も言わなかった。まぁいいだろう。
灰被りには速度強化、筋力強化などのバフをかけてもらった上で彼女の固有魔術によってその効果時間を1日続くように設定してもらっている。
こちらには素直に感謝しかない。
そして午前中に私が行っていた準備の中で、一番力を入れていたのはこれだ。
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護身石の短剣 レア:unique
性質:Growing
魔力によって生み出されたソレは、護りの力を得て使用者を護る力にも
他者を害する力にもなる。
使用中身体的ダメージを軽減する結界を周囲に展開する
CT:100秒
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詳細を赤ずきん達に見せたら、もう目に見える範囲のアイテムを【異次元錬成】で作るのはやめた方がいい、と忠告された。
一応外見を変えることの出来るアイテムや魔術があるらしいのだが、それを手に入れるまで、使えるようになるまでは極力人目につかないところで戦闘した方がいいとも言われた。
あくまで、PKに狙われないように、という配慮からだとは思う。
私としても突然街中で襲われるというのは避けておきたいし、そもそもこの【チャック】という固有魔術に関して少し便利すぎるんじゃあないかと思い始めてもいる。
便利なのはいいことだ。いいことだが……それに慣れたくはないものだ。
人は楽をするために苦労をして環境を整えていく。
しかし【チャック】という魔術は、現時点でその苦労という部分をすっ飛ばしている感覚があるのだ。
我ながら面倒なものを手に入れてしまった、という実感が今更沸いてきた。
さて、そろそろ良い頃合いだろう。
宿を出ることにしよう。
「クロエちゃーん、本当に防具は今は手を加えなくてもいいのー?」
「えぇ。どうせならデザインを自分で決めたいんで、ヴェールズの方で新調します」
「そうかい。ならいいが……一つだけ。かのPKはおそらくこの街の時計塔にいるだろうさ。索敵したから多分間違いない」
ほう。ニヤニヤしているだけだと思ったら索敵もしてくれていたのか。
「そうですか、ありがとうございます」
「あぁ、楽しんできてくれ」
「ははっ……死なないように楽しんできますよ」
そう言って私はサラの街へ飛び出した。
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サラという街は、ヴェールズに近いからか、中世ヨーロッパのような街並みをしている。
そんな中目立つのは、街の真ん中に立っている教会と、街の東側に立っている時計塔だろう。
かなり豪華なもので、ヴェールズで信仰されている神に関する宗教の教会らしい。
宗教に関しては日本人の私にとって、あまり馴染み深いものではないがそれでもどんな神が信仰されているのかは気になる。
魔術的に、だが。
そして今回の目標である時計塔。
こちらは基本的には特に特筆すべき点もない、普通の時計塔だ。
外国の方の映画や、アニメなんかでよく見るような、そんな時計塔。
許可証さえ貰えれば誰でも中に入ることができる。
「時計塔、かぁ…塔っていうのが嫌だなぁ」
塔というものは、基本的に下から入って上に昇っていくものだ。
そしてこのWOAというPK推奨魔術ゲームでは、上を取られているというのは、絶対的に不利な戦いになるということを示す。
そりゃ相手にとっては下から昇ってくる敵が見えるわけだし、途中にトラップなんかも仕掛けられるだろう。
しかし下からアタックする側は、敵がどこにいるかもわからないし、トラップに関してもどこにあるかわからない。最悪トラップでそのままデスぺナを食らうだろう。
「あぁやめやめ。そんなのは行ってから考えればいい。今はまずたどり着くことを考えよう」
走りつつ考える。
不自然なほど人が少ないのは、結界の所為なのだろう。
少しだけ不気味だ。
「ははっ…いいじゃないこういう雰囲気」
PKをPKしに行くのだ。お祭り騒ぎみたいな雰囲気よりは合っている。
しかし、他のプレイヤーまでいないのはどういうことだろうか。これも結界の所為か…?
「まぁ固有魔術に対して色々考えても仕方ないか、想像できてもそれは面白くはないし」
さて、やっと時計塔の入り口も見えてきた。
一応インベントリ内の護身石の短剣を取り出しておき、周囲警戒も怠らない。
「よしっ、と。とりあえず着いたから灰被りさんにメッセージ送っておこう」
今の私には索敵することができないために、宿にいる二人に現在もPKがここにいるか確認してもらう必要がある。
機会があったら索敵系の魔術も探してみてもいいかもしれない。
『大丈夫、まだ動いてないそうですよ。塔内みたいです』
それなら大丈夫だ。
とりあえず腕に巻いていたスカーフを、口を覆うようにして巻いておく。
薄いが、すくなくとも毒ガス的なものがあった場合、気休め程度にはなるだろう。
「じゃあ突入しよう、実際には死なない死地に飛び込むのはワクワクする」




