彼と彼女
本日二本目
「ハロウさん、それ何やってるんです?」
「あぁ、これは……そうね、今回の戦争関係の事務作業よ」
「事務?」
話を聞けば、今回決闘形式で勝敗を決めるのに当たって、ハロウはドミネ側の国王やファルシ側の外交官などとの橋渡しになっているそうだ。
それによって処理しなければならない事務作業が発生し、出来る限りの全力でそれを片付けていたとのこと。
そんな作業中だったとは知らず、声をかけてしまったことを謝罪しようとすると、
「いえ、大丈夫よ。そろそろ一旦休憩しようかと思ってたタイミングだったし……それにテセウスも居たしね?」
「そう、ですか……お疲れ様です。ところで気になってたんですけど」
「何かしら?」
「テセウスさんとはどのようなご関係で……?あ、別に答えたくなかったら良いんですけど……」
流石に気になってしまう。
他の……例えば赤ずきんや灰被り、ガビーロールなどの身内に対しての接し方と彼に対する接し方が全く違う、というか。
完全に溺愛しているようにしか見えないのだ。あまりプライベートに踏み込むのはマナー違反なのだが、気になってしまったものは仕方ない。
「ん、大丈夫。テセウスと私はリアルで姉弟なのよ。ただそれだけ」
……それだけには全く見えない、と言ったらダメなんだろうなぁ。
完全に弟に向ける感情にしては度を越している。恐らく彼女も彼も成人はしているだろうし、聞くところによればハロウは一人暮らしをしているそう。
それによってホームシックではないが……ブラザーシックのようなものを発症しているのだと思いたかった。
「昔からあんな感じで接してたんです?」
「そうよ?」
ただのブラコンだった。
少しだけ考えていた時間を返してほしい、とまではいかないが明らかにアレは過剰なスキンシップに含まれるだろう。
それにテセウスの反応的に、恐らく彼自身はこの姉を苦手……もしくはトラウマにでもなっているんじゃないだろうか。
「……仲の良い姉弟なんですね」
「ありがとう、よく言われるわ」
私にはそれしかいう事ができなかった。
その目には狂気と思えるほどの深い愛情が満ちているように感じた。それこそ、それ以上話を聞くのを躊躇ってしまうくらいには。
今も店の奥で品物の整理をしているであろうテセウスに心の中で合掌しておく。恐らく、ここに着いてこられてしまった時点で、今後の彼のゲーム内での生活は色んな意味で変化する事だろう。
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そんな会話をしつつ、商品を見ていると奥からテセウスが戻ってきた。
手には羊皮紙を持っており、恐らく私が買うといった物をメモするための物だろう。
「あぁ、テセウスさん……大変だったんですね……」
「?買う物決まったかい?」
私の言った事に首を傾げながら、私の言う商品をリストアップしていく。
ここで買うのは最近補充していなかったMPポーションや多くの石材、木材に加えもう一つ。
精霊鉱。
陳列されている中に見つけた時は思わず声を上げそうになるほど喜んでしまった。
グリムとの決闘に使う事は出来ないが、これが複数素材として使えるだけで今の傀儡達の装備ランクをもう一段階引き上げる事が出来る。
それに、以前精霊鉱を扱った時よりも私の実力は上がっている。
現在の実力でどれほどのものを作ることができるのか、単純に気になったのだ。
「素材系が多いね、まぁ当然か……うん、大丈夫。すぐ用意するけど仕舞う物は大丈夫?」
「あぁ、はい。魔術でアイテムボックスの代用できるんで問題ないです」
「はは、それは心強い。……というかそれいいな。普通に商人向けじゃないかい?」
「やめてくださいよ、流石のテセウスさんでもそのお願いは聞けません」
「そりゃ残念。背後には気を付けてね」
そう言いながらテセウスはウィンドウを弄りつつ、私の選んだアイテムを用意していく。
かなりの量になるが、多ければ多いだけ良い。残弾を気にせずに使い捨てられるというのは便利だ。
それに戦い中に回収できれば何回でも使いまわせる。これを便利と言わずなんというのだろうか。
……精霊鉱は【憤怒】とかあそこらへんもいいけど、身体強化系使って変異させたらどうなるのか気になるよね。
もしかしたらパッシブのように身体強化がかかった状態が継続される可能性もある。
そうなったらいいな、と思う反面……それを傀儡につけてロストした時のショックは大きそうだなと思ってしまう。
「よし、じゃあお代も貰ったことだし、これで大丈夫かな?」
「えぇ、ありがとうございました。足りてなかったものとかあったんで助かりましたよ」
「そう言ってもらえて何よりだ。雑貨屋としてやっててよかったよ」
握手を交わし、私はテセウスの店を後にした。
ハロウは何やらまた集中モードに入っていたため、近くに先に帰るという旨を書いたメモを置きテセウスに任せる事にする。
あの姉の世話は弟がしっかり見るべきだ。連れてきたきっかけは私だけど。