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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半
197/242

平和、とは

そろそろ書くこともなくなってきました。

よろしくお願いします。


街にて必要なものを買いながら【チャック】に放り込んでいると、見知った人物が歩いているのを見掛けた。


「あれ、テセウスさん?」

「ん……あぁ、クロエさんか。久しぶりだね」


私がヴェールズのシスイで活動していた時に度々お世話になった雑貨屋の店主、テセウス。

彼も魔術師であり、彼の店で売っているものは市販されているもの以外は基本的には自身で採取したものだという。

赤ずきんから聞いた話だから信用できる話かどうかは……まぁそれはさておき。


「お久しぶりです。ポッロの方に行ったんじゃ……?」

「あー、いや。まぁ確かにポッロには行ったんだけどね」


そう、彼はシスイから去る時『次はポッロにいく』と言っていたのだ。

それがドミネ……それも戦争真っ最中の国にいる。

どうしたのだろうか、と思い話しかけてしまったのだ。


「ポッロの方に居るはずの身内がいつの間にかファルシの方に行っててね。それを追いかけるようにファルシに入ろうとしたら入国制限かけられちゃってて……」

「……あぁ、確かに。ドミネはその辺少し緩いから」

「そうそう、だから一時的にドミネで店を構えてるのさ。戦争時って割とみんな私の店みたいな所でも入ってくれるから稼ぎ時なのさ」


薄く笑いながら彼は言う。

確かに戦争となれば、参加するプレイヤーの数は多い。

一個前のぶつかり合いだってそれこそかなりの数のプレイヤーが参加したはずだ。少なからず店から物は消え、金は回ったことだろう。


と言っても、それは通常の戦争時の話。

既にこの国とファルシ側との戦争はかなり特殊な戦争の形へと移り変わっている。


「……でももう下火ですよ?」

「……うん、本当にね。タイミングが悪かったかな。在庫が余って仕方ないんだ」


肩を落とし、あからさまに落胆したような表情を見せるテセウス。

少しだけ居た堪れないというか、何とも言えない空気が漂ってくる。

……ここで会ったのも何かの縁、かな?


「そうだ、私まだ買うものがあるんですけど……テセウスさんのお店で取り扱ってたりしません?」

「……!!な、なんだいなんだい?大抵のものは取り揃えているよっと、ここじゃなんだ、店の方に移動しようか」

「そうしましょうか」


子供のように目を輝かせるテセウスを前に苦笑しつつ、テセウスと共に歩き出した。



-----------------------



暫く歩き、コロッセウムの近くまで来た所で、不意にテセウスが足を止めた。

彼の方を見れば何故か顔を真っ青にして大量の汗をかいており、何かに焦っているのか怯えているのか分からない表情をしていた。

明らかに正常でないその反応に、彼の見ている方向を私も見てみる。すると、だ。


「あれは……ハロウさん?」


そう、そこには街中にしては珍しく全力を出す時の装備を着て姿の隠蔽すら行っていないハロウがベンチに座って何やらウィンドウをいじっていた。

かなりの数のウィンドウを周りに展開しているためか、私達の事には気づいてないのだが……テセウスの様子が非常におかしい。


「テセウスさん、大丈夫ですか?」

「えっ?!……あぁ、大丈夫。大丈夫さ。大丈夫……」


そう言いながら、彼は激しく目を泳がせている。

……これは、ハロウさんと何かあったのかな?

少しテセウスに申し訳ないと思いつつも、私はハロウへと近づいた。

後ろからテセウスの「あっ……」というか細い声が聞こえてくるが、無視する。


「こんにちはハロウさん……すいません、忙しかったですか?」

「んん……あら、クロエさん。大丈夫よ、休憩しようと思ってたから……ってアレは……」

「あぁ、テセウスさんです。街で偶然……?」


私がそう喋っている途中で、ハロウの姿がぶれたと思いきや後方で野太い悲鳴が上がる。

テセウスの声だ。

恐る恐る後ろを振り返ってみれば、ハロウに抱きしめられながら頭をぐっしゃぐしゃと撫でまわされている彼の姿がそこにあった。


「や、やめっ、やめてくれ!」

「あぁ~~!!もう!!なんでここにいるの!?しかも丁寧に魔力探知防止用の装備なんてつけちゃって!!」


……これはそっとしておこう。

巻き込まれる事はないだろうが……近づいたら何をされるかわからない、というのもある。

それにハロウ側は敵意も何もなさそうだというのが、にっこにこの笑顔を見ればわかる。

その代わりにテセウスが死にそうな顔でこちらへと助けを求めているが……見ざる聞かざるを貫く事にする。


どちらも初めてみる反応だが、恐らくは彼ら彼女らの中では日常のようなものなのだろう。

ならば。少しでも話が出来そうなハロウが通常の状態に近づくのをベンチにでも座って待った方が幾分か平和というものだ。

……まあ、実際アレに関わるのは少し怖いし。


そう考えながら、私は二人がおとなしくなるのを【チャック】から取り出した石材を杭の形に削りながら適当に待つ事にした。

限りなく、この場だけは殺伐としているこの世界で平和な時間が流れている。


感想なんかもお待ちしてます~

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