格上、それとも格下?
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冒険者の街 サラ - AM
今日も朝からヴェールズへ向かう予定だったのだが、宿からみた空が少しおかしいように見える。
このWOAというゲームの世界は、幾ら魔術という現実からかけ離れている技術があろうとも、太陽が二つに増えているだとか、空の色が赤いだとかそんな世界ではない。
基本的にはリアルに忠実に作られている、そんなゲームなのだ。
そのために、現在のサラから見る空の色が薄紫というのは異常事態以外の何者でもないのだ。
「あかっ……灰被りさん!これって…」
「はい、まず間違いなくPKプレイヤーの仕業でしょうね。おそらく外に逃がさないための結界でしょう。固有魔術でないことだけを祈りますが」
「あれ?クロエちゃん一瞬私のこと呼びかけたよね?アレ??」
今日も赤ずきんは胡散臭い。自らの知り合ってからの行動を思い返せばいいと思う。
「PKプレイヤーってこんなこともするんです?」
「場合によっちゃあするね。相手を絶対に逃がしたくない時とか。……というかこの結界、上位狙いかな。私や灰被りちゃんにデバフが入ってるってことはそういうことだろうし」
「そうですね…行動制限系に魔力制限、各種認識阻害……どれも上位プレイヤーを狙う時にPKが使うデバフです。ここまで一度にかけられるのは聞いたことないですけど…」
思ったよりも深刻らしい。
私が他人事なのは仕方がないことだ。なんせ私自身にはデバフなんて一切入っていないのだから。
「どうします?今日はこのままこの宿に泊まって結界が解けるの待ちます?」
「んーそれでもいいけど、少し面倒だぁね。……潰そうかPK」
ニヤニヤしながら赤ずきんはそう告げる。
そうは言っても、彼女らはデバフがかかっているはずだから、PKとの戦闘なんてまともにできるんだろうか。
「関係ないような顔してるけど、実際には戦うのクロエちゃんだからね?」
「は?いやいやいや私まだ戦闘経験ほぼないですし、厳しいですって」
「大丈夫大丈夫、相手は格上狙いのPK、おそらく空を覆っているのは楔か何かを設置するタイプの結界系の固有魔術。あー、あと一応アレだ。恐らく自分の目標しか見えてないんじゃないかな」
「……これだけでそこまでわかるんですか?」
「そりゃあそうだよ。こっちは伊達にWOA最初期からゲーム内で巡回とかのボランティアやってないぜ?結構な数のPKと戦闘してるんだ、似たような奴ならたくさん見たよ」
灰被りは赤ずきんの隣りで頷いている。彼女、赤ずきんがこの口調になると、本当にしゃべらなくなるな…。
「でもそれとこれとは違いませんかね!私こう言っちゃあなんですけど、ホント弱いですって!」
「大丈夫大丈夫、一応バフもかけてあげるしサポートしてあげるから」
「灰被りさん!助けて!赤ずきんさんが無理強いを!」
ダメだ、このままじゃあ押し切られる。
少なくとも常識人でありそうな灰被りに助けを求める。
「クロエさん。私バフ系の固有魔術何個か持ってるんで安心して行って来てください」
灰被りは今まで見たことのないようないい笑顔でサムズアップしながらそう言い放った。
畜生この人もダメだった!
「……はぁ。いいです。もういいです。やればいいんでしょやれば!!」
「それでこそクロエちゃん!ちょろいね!」
何がちょろいじゃボケ。
やるといった以上、死にたくはないから自分でも出来る準備はしていく。
樹薬種の短剣と、もう一本ほど別に短剣を用意したい。
槍や槌は今回は用意もしないし使おうとは思わない。
確かに慣れている武器なのだが、人との戦いで満足に使えるかと言われれば否と答える。
「赤ずきんさん」
「なーんだい?今更やらないってのはダメだからねー?」
「結界張れるっていうアイテム今持ってます?使いたいんで」
私のその問に対して、赤ずきんは一瞬不思議そうな顔をしたがすぐにいつものニヤニヤした顔で頷いた。
「あるよ、丁度インベントリの中に放置されてたのがある」
「あざます。灰被りさんもバフかけ始めちゃっていいですよ、そこまで長い時間かかる準備じゃないので」
「わかりました、じゃあ始めちゃいますね」
私は赤ずきんから結界を張れるというアイテム…見た目的にはどっかの神社にありそうな札を受け取ると、そのまま【チャック】内に放り入れた。
プラスで、前に【変異】の練習として使ったアースラビットの使ってきたアースショットの弾をインベントリから【チャック】内に移動させる。
アイテム名は変わらないが、【変異】をかけ続けた結果短剣のような見た目になっているソレは一応分類的には短剣にはなっているらしい。
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2つのアイテムが選択されました。【異次元錬成】を行いますか?
対象アイテム
・アースショットの弾(分類:短剣)
・聖護札
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YESを選択し、それらを合成する。
少し合成には時間がかかるため、他の準備もしていこう。
まだ手付かずだった防具の方にも手を加えておかないといけない。流石に私の戦闘経験のなさを装備で埋めることはできないだろうが、出来る限りの事はしておきたい。
ちら、と宿の窓から外を見る。
昨日までの水色の空ではなく、薄紫色の空だ。
あぁ、なんとも。いいじゃないかこういうのも。
元々対人戦がしたくて外に出てきたんだ、戦いに行くこと自体に実は文句はない。
今日も長い一日になりそうだ。




