再会、そして
遅くなりました。少しばかり更新しにくい環境だったので……。
これからもよろしくお願いします。
次の日、というには代わり映えのない日。
グリンゴッツが帰ってくる日、と言えば何かしら特別な日にはなりそうだが、勝手に彼自身がどこかへ出かけていって帰ってくる日だ。
あまり特別感はない。
「でも、やっぱり緊張はするかな」
なんせ戦争時、それも転送後から会っていないのだ。
久しぶりに身内に会うというのはリアルでも、そしてこのバーチャル世界でも変わらず少しばかり緊張はする。
それに、だ。
今現在、私の泊まっている宿屋の部屋には私以外にも魔術師が数人いる。
曖昧なにやけ面をしてベッドを占領している赤ずきんを始め、その近くで椅子に座り何やら魔導書を読んでいる灰被り。
窓から空を見上げているハロウに、床にそのまま座っているリックとクリス。
そして何故か敵国だというのにそこに居るのが当然とばかりに笑っているガビーロールの計6人ほど。
まだ他のメンバーに関しては分からないわけではない。
戦争時のパーティメンバーであるし、そもハロウに至っては完全にドミネ側のトッププレイヤーだ。この場に居るのがおかしいにしても、この国内にいるのはなんらおかしくはない。
だが、ガビーロールだけは違う。
彼は今まさに冷戦状態と化している敵国……ファルシ側の魔術師、プレイヤーのはずなのだ。
「おや!何やら不思議そうな顔をしているね君!しかし私がここにいるのは何ら不思議ではないんだよ!……本当は来る気はなかったんだ。彼女に呼ばれたのさ」
「彼女……?」
と、ガビーロールの視線を追えばハロウの姿があった。
彼女に呼ばれた、ということはそれはイコールで彼女自身が敵国の魔術師を国内に招き入れたこととなる。
……ここがリアルだったら、それが国側の人物にバレただけでも処刑モノかな。この世界じゃどうなのかわからないけど。
そうでなくとも、戦争中の敵国のプレイヤーだ。
招き入れたことが判明してしまえば、ドミネ側のプレイヤーにとっては不信感を募る形となるだろう。
しかし、そうする理由があったのだろう。
ハロウはこちらに視線を向けないし、彼女の身内である赤ずきんに関しては相も変わらず曖昧なにやけ面をこちらへ向けるだけだ。
はぁ、とため息をつくがそれでどうにかなるわけでもない。
刻一刻と時間は過ぎていき、こんな調子でもう昼過ぎとなっていた。
今日本当に帰ってくるのかと赤ずきんを問いただそうとしたその時、部屋の扉をコンコンと叩く音が聞こえてきた。
「……っ」
ごくり、と唾を呑み込み扉をゆっくりと開ける。
正直な話をしてしまえば、【魔力視】によって彼の魔力が近寄ってきていたのは視えていたし、その距離が近くなるにつれて緊張の糸が張り詰めていくのを感じていた。
この場に集まった皆、彼が着くのを楽しみに/恐怖していたのだ。
『……ただいま、ご主人』
「おかえり、グリンゴッツ」
彼の姿が見えた瞬間に抱き着いた。
柔らかいぬいぐるみを抱きしめた時と同じ感触がする彼を抱きしめ、そして撫でる。
良く帰ってきてくれた、という想いを込めて。
不甲斐ない主人で申し訳ない、という謝罪を込めて。
しかし、彼自身の手でそれは止められた。
『……あの、だな。ご主人』
「なに?どうしたの?」
『これから見せるものを、モノらを見て怒らないと約束してくれないか?』
「……なに?何を持ってきたの?赤ずきんさんの入れ知恵?」
視線を向けると、スッと明後日の方向を向く赤ずきん。
少しばかり嫌な予感を感じながらも、グリンゴッツに話を促す。
『……あぁ見てもらった方が早いだろうな、出てこい』
彼がそう言うと、【チャック】が開き中から数体のゴブリンがゆっくりと出てくる。
合計4体ほど出てくると、そこで打ち止めなのか【チャック】を解除した。
……いや、普通のゴブリンじゃない。コレもしかして……。
「グリンゴッツ、ちょっと聞いてもいい?」
『あぁ、構わない。なんでも聞いてくれ』
「……これ、傀儡だよね。グリンゴッツと同じゴブリンの」
『……あぁそう、だな』
思考能力を持っているとは言え、グリンゴッツのような……いわばNPCのような存在が傀儡やらのような従者を作成することは可能なのだろうか?
確かに魔術を使えば作ることはできる。だからこそ理論上は可能なのだろう。
しかし、彼……グリンゴッツは元はゴブリンだ。
以前【箱造り】との戦闘時に幻覚とはいえゴブリンキングと闘う際、少しばかり迷っていたように見えたのは間違いではないだろう。
思考できるからこそ、そんな元仲間のような種族で傀儡を作るのだろうか?という疑問が出てくるのだ。
「んー、そうだね。一応できるんじゃないかな。うちのも多分、私が持ってないだけでできるだろうし」
「うむ!私の所にはそもそも前提条件を満たすものがないが、恐らくできるだろうな!」
「そう、ですか……ちなみにグリンゴッツ。どんな名前を付けたの?」
『きちんとした名前はご主人につけてもらいたいと思って、本当に分かりやすくではあるんだが。右からキング、クイーン、ジャック、エースだ』
それぞれ前にずい、と出て主張してくれるため分かりやすい。
あまり差異はないが、それでも少しばかりの違いがあるためまぁまぁわかるだろう。
一気に指揮する対象が増えたな、と考えた瞬間に私の目の前にウィンドウが出現した。
「……ふむ。とりあえずすいません。皆さん今日の所は帰ってもらっても大丈夫ですかね?確かめたいこともあるんで」
「そう?じゃあ帰らせてもらおうかな。無事会えたようだしね」
「そうしましょうか。……じゃ、ガビーロールくんはこっちで連れていくから。じゃあね」
(恐らく中身が)大人勢の方々が、皆を連れ立って部屋から出ていってくれる。
一応【魔力視】をして部屋の中に何かしら残ってたりしないかを確かめたが、特に何かが遺ってはいなかった。
「さて。『特殊条件を満たしたためクラスチェンジが可能になりました』、か。確かめていかないとね」