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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半
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遅れました


もし良かったら、感想、評価、ご指摘などよろしくおねがいします


「おーいリーダー!待たせてごめーん」

「あぁ、大丈夫。それよりもさっき送った内容読んだかしら?」

「うん、飛んでくる前に読んできたよ。まぁまぁ面倒だね」


座標転移系の固有魔術を持つPTメンバーであるビックサンが少し離れた位置からこちらへと近寄ってくる。

ピンク髪のツインテールを揺らしつつ、チアガールのような恰好をしているが彼女はドミネのプレイヤーの中でもかなりの実力者だった。

それにもう一人。彼女に手を引かれるようにして合流した彼女は、正確にはどこの国にも所属しているわけでもないが……それでも頼んでみたら協力してくれた良いプレイヤーだ。

白衣を纏い、研究者然とした恰好をしている彼女は何やら緊張をしているようだが手に持った数多くのフラスコが今回の戦場に対するモチベーションを表している。


「ごめんなさいね、今少し即死系の魔術を持った人形が砂の中に潜んでて。私じゃちょっと対処しにくいから」

「あぁそういう。じゃあ私っていうよりもリセちゃんのが良いね?」

「は、はい。頑張ります」


彼女は手に持つフラスコの中から一つ……土気色をした液体の入ったものを選び足元に叩きつける。

すると、だ。

その液体は砂に染み込むことなく、そのまま盛り上がりある形を象っていく。


「ここらにいる人形を探して。見つけ次第攻撃しちゃっていいよ」


土竜を象ったソレは、リセットボタンの言葉に頷く様子を見せるとすぐに砂の中へと潜っていく。

彼女が得意とする魔術の一つである錬金術。それを用いたホムンクルスの製造だ。

その場で即席で作るには面倒な条件や素材が必要になる魔術(モノ)だが、彼女のソレはまた別だ。

元々事前に作っておいたホムンクルスを何らかの形で液体化させ、任意のタイミングで元の姿へと戻す。これを行うことにより普通のプレイヤーが即席で作るホムンクルスよりもより強力で、尚且つ数多い製造を行えるようにしているのだ。

……錬金術師は一人で軍隊を組める、とはよく言ったものよね。彼女の場合なら並みの錬金術師よりも素早く用意できるわけなんだし。


「少し待てば恐らく出てくると思うので、そこをやっちゃってください」

「了解。その時はワタシがやるから、リーダーは回復薬とか飲んでその足治しちゃってー。流石にこの後もそのままは厳しいでしょ?はいこれ」

「あら、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ」


ビックサンより幾分か上等な回復薬を受け取り、一応魔術によって毒が入っていないか等を確認してから一気に飲み干す。

今は仲間であろうとも、普段は基本的には殺しあう関係だ。

幾ら信用しなければならなくても、こういった細かい所での自衛をしていない魔術師はいつか仲間だと思っていた相手に背中から刺されることになるだろう。

ビックサンもリセットボタンもそれが分かっているのか、私のその行為に対し眉を顰める事もせず当然の事として受けとっている。



それから五分程経っただろうか。

緊張しっぱなしなのかずっと俯いていたリセットボタンが不意に顔を上げた。


「来た?」

「はい、あと三時の方向……来ます」

「りょーうかい!」


リセットボタンの言葉と共に、砂が盛り上がり土竜のホムンクルスを咥えたワニ人形が飛び出してきた。

さながらそれは獲物を狩りとった狩人の如く飛び出したソレは、しかし次の瞬間にその立場が逆転する。

リセットボタンが指を鳴らすと同時、ワニ人形の強靭な顎に捉えられていた土竜のホムンクルスはその姿を崩し、自らに触れる者を捕らえる縄と化す。

飛び上がり、そして空中で動きを封じられたワニ人形に対しいつの間にかボンボンを取り出していたビックサンが銃のように指を彼に向け、ただ一言。


「BANGッ」


その瞬間、何かに撃ち抜かれたようにワニ人形の腹部が大きく膨らみ爆発した。

ワニ人形の中からは恐らくその絡繰の身体を動かすための潤滑液や歯車などがぽろぽろと零れていく。

彼女の固有魔術なのだろう。詳しくは聞いていないが、彼女が言うには狙った場所に風穴を開けることが可能な魔術とのことだが……恐らく実際の効果はもう少し複雑で、 尚且つ敵に回すと厄介な部類の固有魔術だというのがよくわかる。

鈍い音を立てながら砂浜に落下したそれは、傍目から見ればもう機能停止しているように見えたが……念のため私の派生魔術の骸骨のランタンによって灰になるまで燃やしておくことにしたのだった。


「ごめんなさい、助かったわ。流石に砂の中まで追尾できるような魔術は魔女系統だとちょっと取り辛くて」

「い、いえ。ホムンクルスは普通こういった場面で使っていくものなので大丈夫ですよ」


この後どうやって相手側を攻めていくか。

この場にいる私含めた三人と、連絡の取れたPTメンバーと共に話し合った結果、私達三人がそのまま相手側の拠点に特攻をかけてしまい、後ろからドミネ側のプレイヤー達が援護にくるという至極シンプルな作戦でいくことに決まった。

普通三人だけで砦攻めなど愚策中の愚策のようなものだが、こちらにはホムンクルスを大量に展開出来るリセットボタンや、先ほどはワニ人形を壊すほどの固有魔術を使ったがメインはサポートに重点を置いているビックサンがいるために、このまま攻めてしまっても問題ないという判断だ。


そも、彼女ら二人が共に動いているのはビックサンの移動能力の都合だけではない。

移動するだけならば、リセットボタンは馬型のホムンクルスなどを創り出せば、転移魔術は別にしても普通の魔術師よりかは早い速度で移動する事が出来る。

では何故か。答えは簡単だ。

ビックサンはそのクラス……見た目そのままの『チアリーダー』という一種のネタクラスに就いている。このクラスはWOAでは珍しい、他人への補助に特化した魔術を手広く取得することが可能になるもので……当然、このクラスに就いているプレイヤーの数は少ない。


中でも特徴的なものとして、【補助全体化】というパッシヴスキルを持っている。

効果としては、自身のかけた補助魔術の効果が味方全体にも同様に付与されるといったものだ。……しかし、味方の数だけ割合で魔力が消費されていくのだが。

そのパッシヴを使い、味方としてPTメンバーであるリセットボタン……尚且つその配下として創り出されていくホムンクルス全てに対して補助魔術を掛けることにより、即席だが強力な軍隊を作る事が可能なのだ。


それに加え、ビックサンの持つ転移魔術にてある程度の座標さえ分かれば瞬時に移動する事も可能なのだ。

強化されたホムンクルスの軍隊が瞬時に転移してくる……私だったら絶対に相手にはしたくない。対処できるかできないかで言えば対処できるが、それでも相手にしたくないものもあるのだ。


「じゃ、いきましょうか。相手側の拠点に」

「りょーかい。飛んでいく?」

「いえ、転移対策くらいは即席でもしてるでしょうし、ここは普通に歩いていきましょう」


と言いながら、私は空を見上げる。

その行為に二人は何をするか思い当たったのか、顔を見合わせた後に薄く笑った。


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