魔女思う
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多くのMMORPGには制限があったり、成功率が低かったりはするが即死系の効果を持ったアイテムなどが存在する。
これはこのWOAにも存在する。
その形は様々で、例を挙げた条件付きの固有魔術や行使難易度が高い汎用魔術、呪魔女なんかが作れる魔道具がそれに該当する。
即死、というのは本当に強力なものだ。
きちんと効果を発揮できれば交戦せずに相手を殺すことが出来る。
それはこのWOAでも大きなメリットとなる。
……あのワニ人形を壊すためには何が必要か。本人を殺せば止まるのは確かなんでしょうね。
【魔力視】をしてワニ人形がどこに潜んでいるかを常時探しつつ、私は考える。
確かにこのまま本体を攻撃し続けていれば、いずれチックTACを殺すことが出来るだろう。
そうすればチックTACをオーナーとしているであろうあのワニ人形も動きを止めるだろう。
しかし、それは彼が本当にオーナーだったらの話だ。
もしかしたら私の感知できない範囲にいるプレイヤーがオーナーの可能性もある。
そのプレイヤーが操っている場合、チックTACを20分以内に倒せたとしても……最終的にはワニ人形の即死効果によってそのまま死んでしまう。
可能性が高いわけではないが、低いわけでもない。
普段なら私一人の責任ということで無視してもいいのだが、今回は戦争という大規模マルチ戦闘だ。
しかも私は自分で言うのも何だが、ドミネ側での重要な戦力でもある。
重要な戦力を序盤で失うというのは、その後の戦争でかなりの痛手となる。
「流石に有名な魔術師は知ってる情報よりも、それ以上の知らない情報の方が多いわね」
こっちの攻撃の手が緩んだのを見越してか、チックTAC本体側の海賊船達が砲撃してきている。
それに対し直撃コースだけがしゃどくろによって弾くようにして防ぎ、それ以外は無視する。どうせ近くに味方はいないのだ。
……そういえば連絡してからこっちに来るまで流石に遅い気が……やっぱ敵側のプレイヤーも攻めてきてたかな。そっちと交戦中かしらね。
ワニ人形は今だ砂の中にいる。
【蠱毒】や【犬神】で狙おうにも砂の中を自由に動ける可能性のあるワニ人形に対して効果があるかというと……やはり効果は薄い。
ならばどうするか。
新しくインベントリ内から赤色の試薬の入った試験管を五本取り出す。
中身は錬金術によって作られた液体型の爆薬だ。
衝撃なんかでは起爆せず、一定の熱量を与えると起爆するという特殊なものだ。
これらに対して【呪装付与】をそれぞれ一本ずつ付与する。
攻撃性能を上げ、一撃で壊せるように。
……まぁ、無いより絶対にマシってところかしら。
「【骸の灯よ、起きろ】」
そして新たに詠唱も開始する。
普段はその使い勝手の悪さから使わない派生魔術の一つだが、相手が潜伏……今のワニ人形のように自分の攻撃範囲にいない場合に使うためにあるといっても過言ではないものだ。
今も続く砲撃により所々崩れ始めているがしゃどくろもそろそろどうにかしなければならない。
直撃するものだけを防ぐようにしても、威力が威力だ。どうしても結界と同じように防御させられない。
ある意味でこちらもタイムリミットのようなものだ。がしゃどくろが崩れるまでにワニ人形を壊す。
まだ一度も直接的な攻撃をしてきていないワニ人形だが、即死以外にも攻撃魔術を持っていないとは考えにくい。それでいてワニというモチーフから考えるに、そのまま噛みつかれても防御しなければ危ないだろう。
「【我に従い、誓い、そして全てを終わらせる者よ】」
今は何故か攻撃してこないが、ある意味好機。
この間にこちら側の準備を終えることが出来れば確実に勝てる。
……まぁ、そんな上手くはいかないんでしょうけど。
そんな私の考えを肯定するかのように、それはやってきた。
「っと。俺様参上ってね。自己紹介は必要かな?『決闘王者』サン?」
「ふふ、大丈夫よ。カラマさんであってるわよね?貴方も傭兵かしら?」
「あぁそうさ。傭兵は傭兵同士組まされたってぇわけだ。それが少しピンチになりゃあ……な?」
私の目の前に空から音もなく降り立つ一人の男。
濡れ羽色の甚平、それでいて手には小さい銃を持つ彼はそれをこちらへと向けながらニッと笑う。
「だからさ、自害してくれ。頼むぜ」
「いや、それはちょっと無理ね。私もこの戦争の勝ち馬に乗りたいもの」
「そうかいそうかい。じゃあ仕方ねぇ」
パン、と軽い銃声が聞こえ咄嗟に目の前に結界を張る。
が、その判断はどうやら失敗だったようだ。
銃弾が結界に当たり弾かれると思いきや、そのままべっとりとインクのようなものを結界に付着させ、私の前方の視界を塞いでしまった。
……やられた。しかもこれ特定の魔力流さないと消えないタイプのインクじゃない。
結界を消せば一緒に消えるかと思いきや、そのまま空中に残り視界妨害を続けてきている。
「ははっ、じゃあ始めようぜ!旦那も今のうちに休んでおきな!」
時間制限のある戦闘、そのラウンド2が唐突に始まった。