潜むもの
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元々【犬神】は呪いの塊を相手に飛ばし攻撃するという魔術だ。
それを更に【呪装付与】によって強化する。するとどうなるか?
答えは簡単だ。
通常使った場合よりも一回り程大きい【犬神】が中型船へと飛んでいき、船首を噛み千切る。
いや、噛んだ場所から朽ちているためにそう見えるだけで、実際には噛み千切ってはいないのだろう。
そして【犬神】はそのままの勢いで中型船を破壊し終えると、他の船へとターゲットを変えそのまま空を翔けていく。
強化されたのはその攻撃性能。
元々、固有魔術を使わない場合私のメインの攻撃魔術である【犬神】は、通常使用では中型船の船首を噛み千切ろうとしてもそんな芸当はできないだろう。
しかしだ。同じ呪い……【呪装付与】によって付与される呪いは、触れるもの全てを無に帰すほどに圧縮された呪い。
元は同じでも、方向性も同じでも。終着点が違う呪い同士が組み合わさった結果が今私の目の前で空を翔け、自分よりも遥かに大きい船を破壊している【犬神】だった。
普段からこうやって魔術を使っていればいいのでは?と初めて【呪装付与】を使った時に考えたが、やはりデメリットが大きいのと、そもそもこれをやるくらいだったら固有魔術を使ったほうが強いのだ。
何せ、呪術系統の魔術というのは禊術などといった聖なる力を源泉とする魔術系統に滅法弱い。
相手が相手ならば呪術自体使うのを諦め、高位呪魔女からクラスチェンジも行うほどだ。
その点、固有魔術ならばそういった魔術種類による相性というものはない。
「んぐっ……ぷはぁ。よし、じゃあ追加行きましょう」
MPポーションを呪い瓶と一緒に取り出しながら服用し、魔力の回復を行いつつ新たに【犬神】を再度発動する。
苦し紛れなのか魔術の行使を妨害するためか、こちらへと砲撃を行う船も居たが結界を張っているためこちらまで届かない。
そも、こちらにはまだがしゃどくろもいるのだ。がしゃどくろを私の防御のために動かせば結界を維持する必要もあまりないだろう。
今までは【呪装付与】が先ほど述べた相性の関係で効かない可能性もあったため、とっておきのためにがしゃどくろを護っていたが、それも必要なさそうなため盾として使ってもいいだろうという判断だ。
しかし、まだ不確定要素もあった。
……でも、そういえば船になる前に呼び出してたあのワニの人形はどこに……?
そう、先ほどチックTAC自身が放った自立型のワニの人形がどこにも見当たらないのだ。
砂のゴーレム系モンスター自体はそこまで強い相手でもなかったためがしゃどくろを召喚した時に近くにいる分は焼いてしまったために残りは両の手で数えられる程度しか残っていない。
しかし、その中にもあのワニの姿が発見できないのだ。
気になって、というよりは不確定要素を潰すため。
私は【魔力視】しながら、周囲を見渡してみた。当然、自立人形は魔力で動いているため、【魔力視】を使えば動力となっている魔力によって姿を見つけられると考えたからだ。
そして、確かに見つけることができた。
「なっ……」
『TICTAC……TICTAC……♪』
私の足元の砂に潜るような形で存在し歌っている自立人形の姿を。
頭を少しだけ出し、水晶で出来た目でこちらを見上げているその姿は、動物番組などで見たワニの姿そっくりであったが、恐怖……というよりも危機感はテレビで見たそれの比ではない。
気付いていなかった私をすぐに攻撃してこなかったのは、私が今がしゃどくろの肋骨の中の空いた空間にいるため攻撃しにくかったということだろうか?
なんにせよ、見つけたのだ。がしゃどくろに命令を出し、ワニ人形を破壊するために動かす……がそのまま砂に潜られこちらの放った炎は避けられてしまった。
……攻撃もせず、こちらをみるだけで終わり……?
疑問に思いながらも、オーナーであるチックTACを殺せばあれも止まるだろうと考え視線を上に戻そうとした瞬間。視界に表示されている簡易ログが目に入った。
『残り20分:)』という、外国でよく使われる笑顔の意味のある絵文字がついた時間制限。
この戦争にはそもそもタイムリミットというものはないために、こういったログが出ること自体がおかしい。
それに、そんな残り時間があるのならば全体アナウンスで伝えたほうがわかりやすいため、これは運営からのアナウンスではないのだろう。
では誰が?
「……まさか」
そこで一つの可能性に思い当たる。
それは私がある程度の対人経験を育んでいたからこその思考速度だ。
……あのワニ人形の、保有魔術か何か?
似たような相手と何回か戦ったことがある。
状況はそれぞれ違うものの、しかし似たような効果のために覚えてしまっていたと言ったほうが正しいだろう。
彼らは固有魔術によって、私に対して即死系の魔術を行使してきたのだ。
「その時は色々と条件付きだったけど……ワニ人形の条件が見えないわね……」
彼らはそれぞれ、『素手での攻撃を規定回数当てる』『会話を一定時間続ける』などの条件を満たした相手を即死させるという固有魔術を持っていた。
その制限条件が徐々に外れていくに連れ、こっちのチャットログに意味不明な文が羅列していくのだ。
だからこそ覚えてしまっていた。特徴的すぎて。
それと同じような魔術を持っていると考えるのならば、この『残り20分:)』というログはある意味で死刑宣告のようなものだ。
彼、もしくはワニ人形をこの時間内にどうにかしなければ、私はそのまま死ぬこととなる。
何もできず、ぱったりと。抵抗すら、HPの量にも関わらず死ぬだろう。
「……タイムアタック戦、それも時間としては普通のコロッセウムですら早々ない20分制限」
しかし、ここで終わる程決闘王者は柔じゃない。