反撃開始
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「装填」
新たにインベントリから普段【蠱毒】用の呪い瓶を左右の手に合計6個取り出し、いつもとは違う起動文を発声する。
私のその声に合わせて瓶の中の凝縮された呪いがスゥーと両の手へと移動していく。
呪術、その中でもリスクの高い魔術を使うための準備だ。
この間にも止む気配のない砲撃を出来る限り魔力を節約しつつ結界を維持し、がしゃどくろを進ませる。
魔術の発動には近づく必要があり、それでいて明らかに本体らしきあの一番大きい海賊船以外をどうにかするしかない。
……温存するわけじゃないけど、流石に【バーバ・ヤーガ】は使えないし。
骸骨の魔女となるには、あまりにリスクが高すぎる戦場だ。
もしチックTACを倒したとしても流石に半身骨と化した状態でそのまま戦争をし続けるというのはかなり厳しいものがある。
ただでさえまだガビーロール含め相手側の要注意プレイヤーに会っていないのだ。
それなのに最悪相手と引き分ける可能性のあるソレは使えない。
私はがしゃどくろの肋骨の一本に呪いの影響か黒く変色した手で触れ、【変異】を発動させる。
作り出すは肋骨一本を丸々使った大きな杵。
そして【湖に住む人食い婆さん】の髑髏のランタンを出現させる。
魔法使いが持っているものは?といえば、皆基本的には杖や箒などといった物を挙げるだろう。
この世界でもそうだ。
真っ当に『魔法使い』となって戦っているのであれば杖や箒、使い魔を取得しているだろう。
そういった魔法使いっぽいアイテムを装備する、取得することでMPの最大値が多くなったり、魔術の威力が上がったりもするパッシヴスキルもあったりする。
そしてそのパッシヴスキルは高位呪魔女にも勿論存在する。
杖として、私はがしゃどくろの肋骨で作った杵が該当し。
箒として該当するものは基本はなしに。
使い魔としては、私が召喚したがしゃどくろが該当する。
多少おかしくても、該当すればパッシヴスキルの発動対象として問題なく識別されるのだ。
「【一つ。命の灯を燃やしましょう。】【髑髏のランタンよ、迫る悪意を焼き払いたまえ】、【呪装付与】発動」
ランタンから炎が飛び、今もこちらを砲撃し続けている船の一隻へと向かっていく。
しかし、その炎はいつものような色ではなく、深い闇のような黒へと染まっている。
その代わりのように、私のランタンを持つ方の手は少しだけ色が薄まっている。
【呪装付与】。呪術カテゴリの中の魔術の一つ。
効果としては単純で、呪いを通常の魔術に付与することによってその威力を高めたり、効果を変容させるというものだ。
攻撃魔術に使えば、その威力を底上げすることが出来るし、ヒット後に少しした追加効果もある。
回復魔術に対して使えば、それは相手を癒すものではなく相手を害すものへと変容する。
扱いが難しく、魔術によっては【呪装付与】によってもたらされる影響がわからないため、普段使いには向かない魔術だ。
しかし、明確なデメリットもある。
今回はといえば、攻撃系の派生魔術であるランタンに付与した形となるために、威力の底上げ。そして……。
『……ッ!総員、退避!』
その付与された呪いは、炎へ触れたものを例外なく朽ちさせていく。
先ほど私の放った【蠱毒】を撃ち抜いたと思われる自動迎撃も、その呪いの前には意味がない。
炎が当たった船はすぐに燃え移り、しかし燃え続けるわけではなく燃えた端から朽ちるようにしてボロボロと海へと落ちていく。
ここで、私の中からごっそりと魔力が減ったような感覚があり、HPも現在の十分の一ほどが減っていった。
これがデメリット。
通常使用よりも使用する魔力の量が多くなり、呪いによって身体が蝕まれるのかHPも減っていく。
連続使用ができるような消費量ではないために、基本的には相手との一対一での戦闘のみでしか使わない手だが今回は回復する手段も仲間も多い。
【バーバ・ヤーガ】を使うよりかはリスクが低い方法だろう。
チックTAC側はと言えば、私が同じ魔術を放ってくる可能性を考えているのか巨大な海賊船を後ろに下げつつ、小さい船を盾にするような陣形をとっている。
……うん、考えはあってるみたい。座標攻撃をしようにも私にはそういった座標攻撃関係の魔術を持っているわけじゃあない。
「だから真正面から破壊するのが一番早いわよね」
陣形を変更する間は流石に砲撃をしてこないのか、現在は撃たれていない。
少しだけHPは減っているものの、攻撃するならば今がチャンスだろう。
インベントリ内から更に呪い瓶を両手に出現させ、そのまま空へ放る。
「【蠱毒 ー 犬神】、【呪装付与】発動」