チクタクと刻む
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チックTAC視点
……チッ、モンスターか何かかよ。
【幽霊船団】全四十四隻から放たれた砲弾は百を超える。
それによってハロウの居た砂浜は砂埃によって覆われ、そこに人が立っているかどうかは目視では確認できなかった。
しかし、それは普通に見た場合。【魔力視】を発動させその中を確認すれば、しっかりと三人分の魔力反応が目に見えている。
「欠損すら無し。じゃあこいつらはここまでだな」
そういいながら、自身の後ろに召喚している【幽霊船団】を解除し、新たに違う魔術を行使する。
右手で指を鳴らす。すると、彼の近くの砂がボコッボコッと複数間欠泉のように噴出した。
そして舞い上がった砂は、それぞれが固まりだし人型へとその姿を変えていく。
召喚魔術【眷属召喚】。
眷属として登録したモンスターを召喚する魔術だ。召喚できる数は眷属にしたモンスターの数のみと制限があるが、その分能力については特に制限されないため強力なモンスターを眷属化出来れば一体のみでもかなり強力な戦力となる。
俺が召喚しているのは【サンドゴーレム】と呼ばれる、海岸に生息している身体が砂で出来たゴーレム系のモンスターだ。
それを五体召喚し、五十体に増やした。
「こちらはどうかな?」
五十体全てにハロウへ突撃命令を出す。
【サンドゴーレム】自体は一体一体の能力はそこまで高くないモンスターだ。
しかし、身体が砂のため身体の一部を変えて鞭のように攻撃したり、攻撃を避けたりなど真正面から戦おうとすると意外と厄介なタイプとされている。
ついでと言わんばかりに、インベントリ内から鰐革で出来たアタッシュケースを取り出し、カギを破壊して開く。
中にはワニの頭を模した人形が一組入っている。
「おい、起きろ【タイマー】。仕事だ」
俺の声に反応したのか、そのワニの頭を模した人形の水晶で出来た目に灯りが灯る。
【タイマー】と呼ばれたそれは、独りでに浮かび上がるとまるで見えない身体があるかのように俺の前に移動する。
何やらあくびをしているが、こいつに感情があるはずないので一定のパターンか何かなのだろう。
固有魔術【欠陥人形】によって作られた【タイマー】と呼ばれるワニの頭の人形はプレイヤーが作れる傀儡のような立ち位置の存在だ。
しかし、それらとは違い一度起動させればこちらの指示を聞くことはない。
主人として設定した者以外を殺すまで止まらない、まさに欠陥品の殺戮人形だ。
そんなモノを取り出しながら、自分が相手にしている相手を見る。
……やっぱ五十程度じゃあ足りねぇか。【タイマー】を増やすか?いや……。
ハロウは何をしているのか、結界を張るのに全力を注いでいるようで攻撃という攻撃を行っていない。
今も五十体の眷属が減らされていないのが感覚でわかるため、本当に一切攻撃をしていないようなのだ。
相手を殺戮するまで止まらない【欠陥人形】を取り出したはいいが、これでは流石に拍子抜けしてしまう。仮にもドミネでトップと言われた【決闘王者】が俺の攻撃で防御のみとなっている。
しかし、それはおかしいのだ。
……ここまでの攻撃は、言っちまえばどれが相手にとって適正なのかを確かめるだけのもの。全部防ぐくらいならそこらの慣れた魔術師なら誰でもできる。
じゃあこれはどういうことだ?
答えは簡単だろう。
「何か仕込んでやがるな……?」
【タイマー】がのそりのそりと足取りは重いがしっかりとハロウへと向かいだすのを確認しつつ、彼女が仕込んでいる何かについて考える。
あるとすれば、彼女がこちら側……ファルシ側のハル相手に使った二つの【バーバ・ヤーガ】のどちらかだろう。
がしゃどくろに関しては、その巨体ゆえに再び【幽霊船団】を使えばなんとかなるだろう。それくらいは彼女も分かっているはずだ。
ならば、もう一つ。彼女自身が変容する方の派生魔術を使ってくるんじゃないだろうか?
……だが、対策できるようなもんでもない。出来ることって言ったら発動させる前に殺すこと。でもそれはあの結界によってある程度までの攻撃は防がれてしまう。
プレイヤーはそれぞれ切り札を複数用意しているものだ。
特に、一対一の状況で一方的に攻撃できるような場面を想定して用意している札は多い。
俺自身も例外じゃないし、恐らくハロウもその例に漏れないだろう。
情報規制をあまり意識していない戦い方をしている俺でも、誰にも知られていない必殺のパターンなどの切り札があるのだ。
その切り札を切るべきか否か。
切らねば十中八九殺されるのはこちらだろう。純粋に彼女の威力がブーストされた魔術を防げたとしてもそのまま押し切られる。
ならば切った場合どうなるか。
……最悪、この後戦争するかもしれねぇ連中に手の内を明かすことになるってことか。
現在俺の所属するユディスはファルシとの同盟……つまりは協力関係にある。
しかし、その協力関係は現在行っている対ドミネ戦争が終わり次第切られるものだ。
ファルシ側の思惑はどうなのかわからないが、ユディスと戦争する可能性もないとは言えない。
その場合、切り札を一枚とはいえ晒している状況で戦うというのは不利だ。
「チッ……」
俺は左手のフック型の義手をハロウへと向ける。
結局どちらにしてもデメリットがつくならば、こちらを選んだほうがいいだろう。
……俺の切り札は、ちっとばっかし痛ぇからな?
俺の身体から深い海を思わせるような青色の魔力が流れ出した。