海より
もし良かったら感想、ご指摘、評価などよろしくお願いします。
まずパーティチャットを通して援軍を要請する。
この戦争は殲滅戦……防衛ではないためこちら側の全戦力を動かしてしまって構わないだろう。
位置に関しては、真上に【蠱毒】を撃ち上げ場所を知らせる。
この方法だと敵側にも場所を知られることにはなるが……まぁいいだろう。
ガビーロールのような手練れが出てこない限りは言っては悪いが私一人でなんとか出来るだろうから。
【幻覚】についてもチャットを通してこちら側の全員に教えておいたが、対処できるかといえばそうではないだろう。
「【二つ。彼らに話しかけた声は次第に増えていく】【視ると老婆の身体が三つへと増えていくではないか】」
【湖に住む人食い婆さん】の派生魔術である【頼るならば三人に】。
自身を三人に分裂させつつ、相手の拠点へと侵攻していく。
『先頭の一番。敵発見次第、派生魔術【死の洋灯】によって牽制』
『左翼の二番。結界魔術を使いつつ敵の位置を探知』
『右翼の三番。全体魔力量が一定以下になった時点で魔力回復。及び回復魔術にて全体HPの回復を』
『そして全員。そのまま前方へと侵攻続行。要注意人物と指定されているプレイヤーが探知された場合その場で防衛用パターンへと移行』
三角形を描くようにそれぞれの私を移動させたあと、指示を出す。
ザッザッザッと歩いていく音を聞きながら、私自身も視点をぐるぐると回しているのだが……敵の姿を一切見つけることができない。
【魔力視】を使いながらぐるぐる回しているのだが、それでも魔力の流れすら見えない。
……何も仕掛けてこない?斥候役自体来ないっていうのはどういうことなのかしら。
しばらく歩いていくと、報告された敵側の本陣らしきものが見えてきた。
半透明の城。見た目的にはどこか有名な城なのだろうが……私はそこまで博識ではないため、見ただけではそれが何モチーフなのかはわからない。
【魔力視】を使いそれを見てみるも、魔力で出来ているためか中の様子がよくわからない。
【魔力視】による斥候潰し、そして城の魔術か何かによっての迎撃。
「海岸にある城ってだけなら、ファンタジーにありそうな城だけど……それにしたって物騒よね」
「そんな城潰してしまったほうがいいでしょう」
「そうしましょうか。援軍は……まぁもう少ししたら来るでしょう」
ある意味で自問自答しながら、その城が見える位置で止まる。
そして三番と呼ばれた私が口を開き、魔力を練っていく。
高らかに、大きな声で。近くで私のことを監視しているであろう誰かに聞こえるようにはっきりと。
「【彼女は言いました。彼の者は鶏の足の上に建――】おっと」
結界に何か硬いものが当たり弾かれる。
方向としては左手側……やはり海側から。
そちらの方をみてみれば、そこには一見海賊のようにしか見えない姿をした男が立っていた。
左手は自分でやったのか、それともクラスの問題か、フック型の義手へと変わっている。特徴的な姿のため、彼が誰だかすぐにわかった。
「知らない間に三人に増えてやがるが、お前【決闘王者】のハロウで合ってるか?」
「えぇ」「合ってますよ」「そう言う貴方は確か……チックTACさんで宜しいですか?」
「あぁ合ってる。ファルシ側の傭兵として今この場に立っているのだが……どうだ、大人しく殺されてくれはしないか?」
「「「はは、戯言を」」」
私達は笑いながら、戦闘用に頭を切り替える。
チックTACというプレイヤーは、基本的に赤ずきんと同じようにドミネ、ファルシ以外の国からの傭兵として今回の戦争に参加しているはずだ。
確か彼が所属している国はユディス。水精族の宗教国家のはずだ。
「じゃあ仕方ねぇ。死んでくれや」
そのまま彼は左手のフックを上へと挙げる。
まるでそれは仲間に合図を出すような姿であり、
「【亡霊船団】出航だ」
その合図に合わせてか海の中から突如半透明の数十の海賊船と思われる船が出現し始める。
そしてそれらがこちらに砲門をこちらへ向け始めているのを見て、流石の私も焦り始める。
……これ、まずい気がするわね。相手が悪い。
『二番!全力で結界魔術展開!物魔両方対応!』
『三番!補助魔術にて結界強化!』
『一番はどうしようもないから待機!魔力が半分以下になったら回復!』
彼はこのWOAでも有名な部類のプレイヤーだ。
情報を隠すのが主流だが、その中でも彼の情報はある一定以上のプレイヤーならば誰でも知っているレベルで流出している。
というのも、本人に隠すつもりが一切ないというのが大きいだろう。いや、隠す意味もないのだろう。
彼の戦闘スタイルは簡単にいえば、圧倒的な数で押すだけのごり押しだ。
但し、ただ数で押すだけじゃあない。
相手に合わせ使う魔術を変え、相手に合わせた傀儡や従魔などを大量に召喚するのだ。
だからこそ、対策しても相手もこちらに合わせて対策をリアルタイムで打ってくるために倒しにくい相手ではあった。
「全砲門、発射!」
半透明の海賊船から、命を刈り取る砲が放たれた。