そこへ向かうために
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「報告します!」
「うん、お願い」
斥候役に出した魔術師たちが帰ってきた。
彼らが帰るまでに魔力探知用の結界は張り終わったが、きちんと皆が休めるための場所は確保することはできなかった。
まぁそこまでここに長居するつもりもないし、いいのだが。
彼らの話によれば、この拠点から北に少し行ったところにファルシ側の拠点があったそうだ。
見つけた瞬間にこちら側の斥候役の約三分の一が殺されたという報告もあることから、何かしらの迎撃用の魔術、または固有魔術が組まれている可能性が高いとのこと。
そして一番の特徴は……。
「城があった、そう言いたいのね?」
「はい、小さいですが半透明の城がそこに。恐らくですが迎撃に関係するものかと」
「ありがとう、一応あちらで補助系特化のプレイヤーがいるから、そっちで回復なりなんなりしてもらって」
そう言うと、彼は一礼した後に私が示した方向へと歩いて行った。
少しだけダメージを食らっていたようなので治療目的だろう。
……しかし、城ね。しかも迎撃してくるってことは防御系の固有かしら。でもそれにしたって斥候役を約半分持っていくほどの威力なんて出るのかしら。
固有魔術の種類は多く、現状でも系統分けができるというだけでその効果は千差万別。
似たような効果は一つもなく、だからこそ固有魔術に関しては『そういうものなのだ』と割り切って考えたほうが早いのだが……だからと言って、納得がいかない部分もある。
コロッセウムで私に挑んでくる者は多く、私自身たまに挑戦者としてサバイバル戦に参加したりもする。
その中で、防御系の固有魔術に出会うことは多いし攻略もしてきた。
だが、記憶にあるそれらの中に迎撃してくるものはあったものの、プレイヤーを殺せるほどの威力が出るものがあったかと言えば、答えはNOだ。
恐らくは限定条件下での威力増加、もしくはその城自体がフェイクでほかの攻撃によって殺されたパターンと考えるのが自然だろう。
「でも、その考えを超えてくるのが固有魔術。その派生も含めれば、人の想像なんて意味がない」
どうやって攻めるべきか。
そう考えていると、私の放った【呪形】の一体が交戦し始めたことが伝わってきた。
場所は拠点から北東に逸れた場所。
今私がいる位置からは戦闘のようなものは見えないが、恐らくフィールド自体にある程度の距離が離れている戦闘行動が見えなくなるというルールが設定されているのだろう。
とりあえずこのまま放置していても仕方がないだろう。
だが全員で戦闘に参加するほど馬鹿じゃない。
ここは誇張なく、自尊でもなく、この集団の中で一番強い私が出るべきだろう。
一番強い駒が出る。切り札を最初っから投入するのはどういった考えだ、と言う人もいるかもしれない。
だが、今回私の存在は切り札でも、攻勢逆転のためのジョーカーでもない。
むしろこういった場面で出ることによって、生きて情報を持って帰ることが出来るなどのメリットもある。
一番のデメリットは、私の存在が知られることだが……それについても今更だ。
私はドミネ側のプレイヤーとしては有名な部類だし、今ファルシ側のプレイヤーと戦闘している【呪形】に関しても【蠱毒】程とは言わないがかなりの頻度で使う魔術ではある。
既に私が居るとバレている可能性のほうが高いのだ。
それならば私が出たところで変わらないだろう。その情報が真であると伝わるだけなのだから。
……まぁ、それによって対策も取られちゃったりするんだけど。それくらいの障害、突破できないようじゃ『決闘王者』の名が廃る。
「じゃ、行ってくるわ」
短く近くにいた自分のパーティメンバーに対してそう言うと、片手に杵を出現させそれに跨る。
魔女だから箒に跨って空を飛ぶ?いやいや、時代は杵。これが一番飛びやすい。
そのまま私は一昔前の魔女のように、杵に乗って北東を目指し始めた。
一応、すぐに攻撃ができるよう【蠱毒】の準備もしつつだが。
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「あれかしら」
飛ぶこと少し。
爆発音と何やら叫ぶような声が聞こえてきた。
こちらの放った【呪形】は声を発することは出来ないため、十中八九敵方のプレイヤーだろう。
「……い!急げ!……だ!」
「あぁ!……のッ」
恐らく二人組、それもひどく慌てている様子。
【呪形】は言っても、そこまで戦闘能力が高いわけじゃない。そも、元は戦闘用ではなく自爆特攻用の魔術なのだ。
それを無理やりに戦闘させているのだから、戦闘能力が高くなくても当然といったもの。
戦っていた二人組も、私が近づくまでは焦らず対処していたはずだが……。
……あ、そういえばクラス変えてないから高位呪魔女のままじゃない。魔力隠蔽系のパッシヴ乗っけてないからこっちに気付いたってことかしら。
斥候役を担うクラスには基本といっていいほどにクラスボーナスとして取得させてもらえる魔力隠蔽系のパッシヴスキルだが、現在のクラスである高位呪魔女にはそんなものは一切ない。
つまりは私の魔力反応がダダ漏れになっているということで。
「あっちゃー、これはやらかしたかな?」
そう言った瞬間、何もいなかったはずの海から数多くの攻撃魔術が飛んできた。