呪いの武器
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彼女らが来てからは、言ってしまえば楽だった。
何が飛んで来ようとこちらに届く前に灰へと変わってしまうし、彼等の回避がおろそかになれば立方体の爆弾に囲まれる。
何とかしてこちらの懐へと踏み込もうとしても、固有魔術による強化バフをかけられているために余裕をもって対処できてしまう。
格の違いがはっきりと出ている。
確かに、カウボーイも学生服も強いのだろう。私と戦っていた時の動きを見ればそれはわかるし、今も下手したらすぐに死んでしまうような攻撃の中を生き残っているのがその証拠だ。
だが、言ってしまえば相手が悪い。
ヴェールズの大手サバトのリーダーとその腹心に加え、後方から攻撃、援護、妨害が出来る狩人役が揃っている現状で、いくら個々の力が突出していようが厳しいものがあるだろう。
「中々死なないねぇ」
「撃ち込んだ方が早いですかね?」
「うーん……今使ってるそれと併用できるかい?」
「それは問題なく。座標だけくれればそこ撃ち抜きます」
「了解。灰被りちゃんも聞いてたね?それでいくよ!」
返事はないが、灰被りも把握したのだろう。軽く手をあげて反応はしていた。
ずっと向こう……カウボーイのいる方向を見続けているが、灰に変えるには行使者を見ていなくてはならないなどといった制約でもあるのだろうか。
ここで赤ずきんはその巨大な本……彼女の固有魔術である【童話語り】を発動させるために必要な魔術書を再び開く。
それを見て学生服らは警戒したように離れるが、それはあまり意味がないだろう。
どうせ離れるなら、跳んで逃げてしまえば良かったのだ。
「【さぁ、見ていくがいい】【今宵開演するは誰もが聞いたことのある物語】」
詠唱を開始した赤ずきんを護る為に灰被りが前に立つ。
学生服達はその様子を見て焦り、今度は自ら離した距離を詰めに来ている。詠唱を聞いただけでこの反応、ということは十中八九こちらの有名所の手の内はバレているのだろう。
いや、バレているというよりは身内が向こうにいるからこそ詳しく聞いているのだろうか。
「【目を、耳を、そして体を】【その全てをこの劇に】」
「くそッ!【聖剣よッ!目覚めよッ!!】」
学生服がそう叫ぶと同時、彼の持つ剣から禍々しい黒い魔力が噴出し始める。
あの剣の装備スキルか何かだろう。しかしそれは、装備者である学生服を補助するようなものではなく蝕むように彼の身体に纏わり付いていく。
呪われた聖剣シリーズ。
私も情報としては知っている。
かつて存在したとされる聖剣に、御伽噺のような悪い魔術師がそれらに呪いをかけて作られたものや、そもそも聖剣の銘を騙った模造品に悪魔などが乗り移りそう成ったものもある。
起源などはそれぞれ異なるが、シリーズとして一括りにされている理由はただ一つ。
それらが使用者の身体に対し悪影響を徐々に与えていくためだ。
NPCが使えば、その精神は呪われた聖剣に乗っ取られ……最終的にはシンス公爵家夫人などの様な人型のモンスターへと変容していってしまう。
では、それをプレイヤーが使った場合はどうなるか?
「が、ぁあああぁ!!!」
答えは簡単。
プレイヤーの精神保護の点から意識はそのままに、まるで何かに操られているかの様に勝手に身体が動く。
一世代前のゲームの状態異常で、魅了や狂化というプレイヤーの意思に関係なくキャラクターが行動するというものがあった。
呪われた聖剣シリーズによって引き起こされる悪影響はそれと同じようなものだ。
但し、HPが徐々に減り最終的にデスペナルティになるオマケ付きだが。
ここまで見るとデメリットばかりの様に見えてしまうが、メリットもキチンと存在する。
それは身体能力の強化。
一番身近でそれに近いものを挙げるとするならば、ご主人の禁書による【異常強化】だろうか。
「灰被りちゃん!」
「分かってます!【氷茨】、【炎華】発動!」
先程とは比べ物にならない速度で此方へと突っ込んでくる学生服に対し、灰被りの選んだ防御手段は氷の茨と火炎の花による防壁の作成だった。
触れただけで傷付くであろうその防壁に、まるで弾丸の様な速度で突っ込んだ学生服は交通事故のような音を立てつつも、それらを砕き踏み越え尚も此方へと向かって前進を続けている。
「あぁもう!【――開演の時間である】【劇場展開 − 不思議の国のアリス】!」
彼女の手に【童話語り】とは違う巨大な本と羽ペンが出現し、すぐに何やら書き込んでいる。
すると、だ。
私と灰被りの手には槍が、クリスの頭には何やら大きなシルクハットが。
そして赤ずきん自身にはハートを模した王冠が出現した。
恐らくは、私達はトランプ兵に。
クリスはマッドハッターに。
そして赤ずきん自身はハートの女王の役割を付け加えたのだろう。
戦闘型には戦闘バフを、マッドハッターの役割によって与えられるバフがどんなものかは分からないが、ハートの女王の役割によって与えられるバフは分かりやすいだろう。
配下の強化。この場合、分かりやすい配下はトランプ兵となった私達2人というわけだ。
言外にそろそろ戦えと言われているのがわかる。
確かに十分休ませて貰った。そろそろ参戦と行こう。