自問であり、自虐であり
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こちらの放った魔力の剣と宝箱が男へと到達し、大きな土煙が起こる。
当たっていたら無事ではすまないだろう。
男が放った火の弾を避けつつ、しっかりと【魔力視】によって彼の安否を確認する。
『居ない……?』
土煙の中に男の魔力反応はない。
魔術師というのは、死んでもその身に魔力を宿し続ける。
ゲームのシステム的には、死んで光となり完全に消えるまでは【魔力視】で確認できるのだ。
……なのに、居ない。消えるにはまだ早い。
ゾワッと背筋に悪寒が走りその場から逃げるように後ろに飛ぶ。
すると、さっきまで居た位置に火炎の花弁が大量に降り注ぎ……焦土のような有様へと変えてしまった。
「あーぁ?避けられちまったのかぁ?クソが」
声は上から聞こえてきていた。
見れば、足に翼の様なものが生えており、それを羽ばたかせながら浮いているらしい。
「ヒヒッ、まぁいい。大方、俺がただの移動用の駒だと思って仕掛けてきたんだろうがぁ。無駄なんだよぉ!!」
高笑いしながら彼は言う。
一方の私はと言えば。
「ってオイ!逃げてんじゃねぇぞぉ!
!」
【影化】を使用する事で、影の世界へと沈んでいっていた。
そりゃそうだろう。
真正面から戦う様な暗殺者は下の下だ。そもそも真正面から戦っては暗殺ではない。
ずぶずぶと沈んでいき影の世界へと到達した私は、自分が入ってきたときに通った影の入り口を警戒しつつ魔力の回復に努めることにした。
……失敗した。焦りすぎたか。
事実、焦っていたのだろう。
突然主人と、仲間達が周囲から消え。それをやったと思われる敵がいる。
冷静な判断が出来ていたのであれば、あそこは息を潜め見つからないようにしているべきだった。
何せ、仲間が仲間だ。
赤ずきんに灰被りなんかは勝手に戻ってきそうな気配があるし、他にも恐らくだがクリスなんかもすぐに戻ってくるだろう。
リックは……どうだろうか。あまり彼が強いという印象は自分には無い。
というのも、彼と共に横で戦うという事がなかったのが大きい。
パーティ内では基本的に彼は盾の役割を買って出る。結界術師なのもあり、皆その申し出を有り難く受け取ってしまうのも要因の1つだ。
そして、ご主人。
彼女は恐らくだが、ダメなんじゃないかと使い魔ながらそう思う。
今まで1人でやってきたから、手数はあるから。
大いに結構。
それだけでこの魔術入り乱れる戦争を生き残れるのなら、彼女のセンスは卓越したものだろう。
だからこそ、ご主人は今回の戦争の何処かしらで死ぬのだと私はそう思う。
彼女の事を信じていないわけではない。むしろこの世界の中では一番信用に足る人物だろうと思う。
自身と彼女を繋いでいる、普通には見えぬこの繋がりがそうさせる。
『一度気分を切り替えたほうがよさそうだ』
……私は、なんでこんな事を考えているんだろうか。
思えば、私がこうやって1人?1匹で行動するというのは、この姿になった一番初めの時位だったか。
それ以外では基本的にご主人と一緒に行動し、戦ってきた。
私はAIだ。
ちょっとばかり、人に近い思考能力を与えられただけのAIだ。
他の使い魔と比べて自分で考えて行動できるという利点を持った使い魔だ。
しかし。それが全て良いとは声高らかに言うことはできない。
赤ずきんによって呼び出されるというジーニーや、一度『静謐な村』で出てきたジャバウォック。
彼らもAI。私はジャバウォックしか見てはいないが、わかることはある。
こうやって使い魔にAIが付与され、自我を持つというのは確実に欠点だ。
何が欠点か。
私が今回やった失敗のように、どこか人間臭く失敗をする。
私が今しているように、どこか人間臭く思考してしまう。
私が今こうしているように、どこか人間臭く感情を持ってしまう。
これらは例として挙げた一部にしか過ぎないが、だがこれだけでもわかることがある。
人間に近くなる、というのは完全に仕事をこなすシステムにとって退化に過ぎないのだと。
『……戯言、でしかないのだろうが』
自嘲気味に笑みをこぼす。
あぁ、こういった所も人間臭い。
さて、他の事を考えよう。きちんと気分転換していこう。
……現状についてを考えるんだ。
入口のほうを見てみれば、まだこちらが出てくるのだと思っているのかカウボーイ風の男はじっと入口に指を向け何やらぶつぶつと呟いているようだ。
向こうからはこちらが見えないのか、見えているのかはわからないが。
あんな風に待たれていてたはこちらも打つ手が限られてくる。
ご主人がいつも言っていることだ。
手数は多くあれ。それだけ状況を打開する策が生まれる可能性が出てくるのだから。
『そう言いながら、固有魔術を主体に戦っているんだからご主人はよくわからないな』
幸いといえばいいのか、ご主人は【霧海】と【影槍】、【身体強化】くらいしか使っていないようでほぼすべての魔術を一時的に使うことができる。
自分で手に入れた力ではないとはいえ、これだけ汎用魔術と固有魔術があれば、普通の魔術師ともある程度は戦えるだろう。
問題はといえば。
……あの花弁。あれは一体なんなのだろうか。
咄嗟に避けたあの火で出来た薔薇の花弁の雨。汎用魔術ではなく固有魔術の類だろうとは予想できるが、そこから先がわからない。
燃え上がるわけでもなく、ただ単純に燃えた後が残った。
攻撃系ではありそうだが、派生魔術なのかも分からないというのは地味に厄介だ。
『……そうか、これがご主人たちの見ている世界ということか』
手に護身石の短剣を持ち、入り口を目指す。
とりあえずで、やってみるだけやってみようではないか。
すべてのAIがこのように人間味の強い思考をするような世界が来たらどうなるんでしょうね。
あくまでこの作品はフィクションなので、そういうことで一つ。




