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この殺伐とした魔術世界で  作者: 柿の種
第三章・後半
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赤いチャンス

もしよかったら感想、ご指摘、評価などよろしくお願いします


飛び込み、蹴り、蹴り、裏拳、掌底……。

人狼が繰り出すそれらを、相手は結界を張ることによって悉く防いでいく。


たまにフェイントにかけ拳を当てられそうな場面もあるのだが、すぐに当たらないよう後ろへ跳躍し逃げてしまう。


恐らく私が仕掛けるならそのタイミングが一番だろう。


自らの正面に1つ【チャック】を設置し、水の精霊の背後にいつでも連結(リンク)できるようさらに集中する。


「すぅー……はぁー……」


深く息を吸い、そして吐く。

高ぶりそうになる自分の心を落ち着かせるようにして時が来るのを待つ。

……いつでも良い。今来たって問題ない。大丈夫だ、大丈夫。


一度失敗すれば、次回以降は警戒されてしまう。

再度同じ手に引っ掛けるのは難しくなるだろう。

だからこそこの一撃に賭ける。


そしてその時はやってくる。

人狼の掛けたフェイントに対し、後方に逃げるように跳躍する姿勢になった水の精霊の背後に【チャック】を開き、連結させる。


この時、一瞬。ほんの一瞬なのだが。

水の精霊と目が合ったような気がした。


「うぉおおおおお!!!」


私の目の前にバックステップするように飛んでくる水の精霊に対し、頸辺りに目掛けて影毒ノ牙を振るう。

しかしだ。


「ふふっ」


彼女は笑っていた。身をよじるようにしてこちらを見ながら、楽しそうに。

手に巨大な氷柱を持ち、こちらへとその鋭い先を向けながら。


……あっ、死、まずっ、避けられ、いや殺さな……っ。

一瞬のうちに様々な思いが駆け巡る。

ここで決めねば、待つのは人狼の負け試合だけだ。


そして、私の短剣と彼女の持つ氷柱が交差する。



-----------------------



リック視点


俺は混乱していた。

突然、何の前触れも無くこの部屋にクロエが現れたのだから。

しかし、いつまでもそれに動揺していては命取りだ。


完全に人狼の体へと変わった自分のアバターを、悪戦苦闘しつつも動かしていく。

【捜装転換】のデメリットの1つ。

それは、切り替え時間内に元の姿へ戻らなかった場合、次死ぬまでアバターがその姿で固定されるというものだ。


メリットのようにも感じるが、この姿の場合十中八九魔術師に襲われてしまうし、それ以外にも……街に入れない、入れたとしても通報され殺されたり、なんとか店で買い物しようとも相手(NPC)が反応しなかったりだとか。


そして、【魔臭捜犬】自体が最低でも1日半効力を失う。

その為感知能力や、【捜装転換】のバフが一時的ではあるがなくなった状態で、慣れていないアバターを動かす必要があるのだ。


慣れていない身体を動かすというのは、中々に難しいものがある。

例えばだが、腕のリーチが違うためそもそもいつも使っている得物が使えなくなったりもする。

その武器の熟練度が達人並みならば問題は特にないのだろうが、俺は凡人であるし、そもそもこんなゲームをやっている中にそんな達人並みの腕前を持つプレイヤーなんて数少ないだろう。


そのため、多くの場合は素手で戦うこととなる。

しかし、ここでまた身体の大きさの違いが影響してくる。

一歩の間隔が違い踏み込みすぎてしまう。体の大きさ的に普段は躱せる攻撃が致命傷となりかねない。


また、人狼となっている間は普段使っている魔術が使えなくなってしまう。

魔術師という遠距離攻撃ばかりを持つ相手に対して、接近戦……しかも徒手格闘で挑まなければならないのだ。


……一応はこの身体の勝手がわかってきてはいるが……それでも厳しいな。

踏み込み、掌底からの回し蹴り。鋭くなった爪を削ぎ落とすかのように相手へと振り下ろす。時にはその凶悪な牙を使い噛みつこうともするが、音桜の【盾】によって防がれ、躱され、一向に勝負がつかない。


そんな時。

踏み込みすぎて逆にフェイントのようになってしまい、音桜が何時ものように後ろへと飛び距離を取ろうとした時だ。

ふと、音桜が俺以外のどこかを見て微笑を浮かべていた。

その視線は、俺の背後へと向いているように見えた。


『オマッ』

「うぉおおおおお!!!」


俺の声がクロエの声に掻き消される。

そのまま、音桜は背後に開いている【チャック】の中へと自ら飛び込むようにして入って行ってしまう。

手にはいつの間にか生成したと思われる氷柱を持ちながら。


俺は止めようと、せめて音桜の氷柱だけでもどうにかしようと近寄ろうとするが、身体に変なブレーキがかかってしまい、すぐには動き出すことができなかった。

恐らくは踏み込みすぎたのを無理やりに止めたのが原因だろう。


『クロエサンッ!』


何とか絞り出した叫びにも似た声が届いたかどうかはともかく。

クロエの持つ短剣と、音桜の持つ鋭い氷柱はお互いの持ち主の敵の急所へと吸い込まれていく。

ただ見てることしかできない俺の前で、どちらのものともわからない鮮血が舞った。


視界が赤く染まる。


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