人狼と水精と
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「そこッ!【影槍】!」
「くっ……さっきから邪魔をッ!」
水の精霊の着地に合わせるように【影槍】を3本叩き込む。
しかし、体を液体のようにして避けられてしまうため、有効打にはなりえない。
【次元渡】によってまた別の白い部屋に辿り着き、人狼と共闘するというよくわからない状況に陥っているが、こちらの方がまだ気分は楽だ。
【霧海】を出来る限り展開し、水の精霊の動きを感知しつつも人狼のほうにも気を向ける。
私の名前を知っていた人狼。
恐らくはプレイヤーの誰か、しかも知り合いだろう。
……でも、人狼になるような知り合いは居ないんだけどなぁ。何かの強化魔術?それとも使い魔との感覚共有?どれだろう……?
『ハァアアアア!!』
「【盾】ッ!」
水の精霊の張った結界のようなもので、人狼の拳が止められる。
恐らくは禊術と呼ばれる巫女系のクラスが取得できる魔術だろう。
「……というか、これ端から見たらモンスター同士が戦ってるようにしか見えないな……」
なんというか、場違い感がある。
後衛という全体を見やすい位置に陣取っているものの、正直【霧海】が無ければ目で追うことすら困難な速度で彼らは戦っている。
だからさっきから基本的には着地などの狙いやすいタイミングでしか攻撃できていないのだが……。
とりあえず、ということで【遠隔装作】で剣を14本作製し、それらに【怒煙】を纏わせる。
いつも通りの拘束用の遠距離魔術だ。
動きが速いのなら止めてしまえばいい。深く考える必要もなく、単純明快な答えだ。
しかし、問題がないわけじゃあない。
……あの液体化。どういう仕組みになってるんだろう。パッシヴだったらさっき結界で防ぐ必要なかったよね。
そう、液体化だ。
私の【影槍】を自身の体を液体にすることで受け流したはずなのに、その後の人狼の拳にはしっかりと防御魔術を使い防いでいる。
この二つの違いは一体なんなのだろうか?
「まぁ。考える必要もないくらいに分かりやすいね……魔力か」
考えてみればすぐに分かる。
【影槍】は結局は深影魔術に分類される攻撃魔術。
魔力によって作り出される影の槍。その全てが魔力で出来ていると過言ではないそれに対して、人狼の拳は違うだろう。
強化魔術か固有魔術かは分からないが、魔術的に体の構造を作り変えているとはいえ元は人間範疇のアバター。
打撃攻撃に魔力を乗せて攻撃するようなことは、基本的にはそういったクラスの魔術師くらいしかしないだろう。
というか、それをやるくらいだったら他クラスの魔術師は攻撃魔術を放ったほうが強いだろうし、他にもナイフなどのほうが殺傷能力に優れている。
しかも現在、人狼というモンスターよりの彼の体から放たれる拳は、か弱い魔術師なら一撃で葬り去るほどの威力はでるのだろう。
そんなもの、食らいたくもない。
「……考えてから作れば良かったかな。無駄になったかもしれない」
そこまで考えて、先ほど作った【遠隔装作】の剣が意味をなさなそうなことに気が付いた。
【怒煙】はあくまでも生物に対して効果を発揮する魔術だ。
人狼の攻撃に合わせて、結界に放ったところで弾かれて終わりだろう。
なるほど、目にも止まらぬ速度で戦闘している割に終わらない理由がやっと理解できた。
人狼はその速度故、水の精霊はその特性故にどちらも有効打を撃つことが出来ない。
ある意味で相性が良く、ある意味で悪いのだろう。
「うん、まずは動きを止めることは最優先なのは変わらずに……」
【遠隔装作】で作った剣を自分の周りで回転させつつ、どうやって【怒煙】の効果を相手に叩き込むかを考える。
【異次元連結】を使って死角から攻撃をすることくらいはできるだろう。
しかし、そのタイミングが図り辛いというのも確かだ。
【異次元連結】は【チャック】を移動先に設置しておかないといけない。
しかし、今回の相手は【霧海】で動きを捉えることが出来るとしても、彼女の死角に設置して尚且つ移動、攻撃できるかというと……厳しいものがある。
今までの敵とは違い、速さがあるというのは中々に相手にし辛い。
私が戦ってきた相手はあくまでも人間範疇の動きをしていた。
そのため私の使える魔術も、それに何とか対応できるようになってはいるし、実際グリム以外は何とかなった。
「一回試してはみるけど……最悪人狼さんに殺される可能性があるんだよね……」
現状PT登録すらできていない状態だ。
つまりは、連携すらしにくい状態なのだ。
……最悪、危なかったら【影化】するしかないか。それでも回避できるかは分からないけれど。
【身体強化】、【憤怒】を重ね掛けし、出来る限り身体能力を強化した後、今も続いている高速戦闘の方へ意識を集中させる。
手には【怒煙】を纏わせた影毒ノ牙、左腕には一応【魔力装】によって疑似的な神経を通し動くようにはしておく。
ここからが本番だ。