目で、手で。それでいて
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灰被り視点 あぁ、私の周囲が灰へと変わる。
手に触れたもの、目で見たものが全て真っ白な灰へと変わっていくのだ。
代わりに、私の命も少しずつ灰へと変わる。
【灰の女王】、その効果は絶大だ。
【灰化の魔眼】の最終派生。
プレイヤー以外の触れたもの、見たものの耐性を無視して全て灰へと変える。
強力な魔術でも、モンスターでさえも【灰の女王】の前では灰に変わる以外の末路はない。
但し、制限もある。
見たものといっても視界全てのものではなく、いくつか視界に出現するターゲットを選択する形式だ。
味方の魔術、敵の魔術、モンスター、味方の使い魔という戦場が見えていた場合、敵の魔術とモンスターだけを選び灰に出来る……そういったものだ。
更に、この派生魔術を使っている間は最大HPが消費されていく。
0になるまでその消費は続き、0になった瞬間にデスペナルティが適応されるのだ。
私の場合、【灰の女王】が運用できる時間はおよそ120秒。
それまでに決着をつけねばならない。
「オイオイオイオイ!すげぇ勢いで抵抗ログが出てやがるんだが、こりゃ即死系の固有でも使ってんのかぁ?!そんなもんプレイヤーが故意に耐性下げねぇ限りは効くはずねぇだろうが!!【大火爆】ッ!」
「……【我、汝が魔を選択す】」
帽子屋が投げてきた、火炎で出来たフラスコを一瞥し灰へと変化させる。
流石にこれには驚いたのか、帽子屋も一瞬ぽかんとした表情を見せるが……すぐに獰猛な笑みへと変わる。
「ハハッ、なんだそりゃ。面白いじゃあねぇか。こっちも本気でやらせてもらっ「その必要は、ありません」……んだと?」
彼の言葉に割り込む様に、私は声を発する。
この派生魔術が発動出来たからこそ、私を含め彼は本気で挑む必要はないのだ。
何せ、仕事はここで終わるのだから。
「私の【灰の女王】はプレイヤー以外の全てを灰へと変えることが出来ます。モンスターも、汎用魔術も、使い魔も、装備も……そして、先ほど見せたように固有魔術でさえも」
「ハッ!それがどう、した……って……テメェまさか」
「気付きました?この会話自体時間稼ぎのようなモノだったんですけど、良かったです。何せ、この大きさだと流石に時間が掛かる」
私の言葉と共に、白い部屋が白い灰へと変わっていく。
ここまで、約47秒。そろそろ半分灰へと変わってしまう。
私は気付かれないよう【灰の女王】を解除し、視界全てを埋め尽くしていくように灰へと変わっていく白い部屋を、帽子屋と共に眺める。
「さぁ、ここからどうしますか?私には貴方の攻撃も何もかもを全て灰に変えることが出来ます。ただ、ここで手を引いてくれるなら……」
ブラフだ。
【灰化の魔眼】では【灰の女王】のように複数選択して灰に変える能力は無いし、物量で来られたらそのまま終わる。
私の言葉を聞いた彼は、バカにする様に笑う。
「逃がしてやるってか?ハッ、何言ってやがる!……といつもなら言うところだが」
帽子屋は部屋を見つつ、何処かから取り出したシルクハットと赤い杖を持ち此方へと一礼した。
「これ以上は、私の契約には含まれていません故。ここらでお暇させていただきます、女王様」
「女王様はやめてください」
「ハハッ、もう裁判には掛けられたくはないのでね。では、さらば」
そう言うと、彼は杖で床を2回叩く。
すると床に丸い落とし穴が出現し、そこへ落ちていった。
……意外とあっさり済みましたね。さて、これからどうしましょうか。
ふぅ、と一息ついた所だ。
突然、PTメンバーのネーム表示が1つ消えた。
「クロエさん……?」
消えた名前は、かつて同じサバトに参加していた彼女だった。
あの小柄で戦闘能力も高い彼女が、PTメンバーの中から消えたのだ。
……一体何が?いや、でも取り敢えずはここから離れた方が良いはず。
結界系の固有魔術が破れれば、行使者は何処にいてもそれは分かるのだ。
ならば、ここにいるよりは別の所へと移動した方が得策だろう。
少しずつ見えてきた外の草原を見ながら、私は歩き出す。
私の孤独な戦いは終わった。
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クロエ視点
時は灰被りが【灰の女王】を発動させる前へと巻き戻る。
「あーもー!めんどくさいなー!」
「アハッアハハハハッ!!!その元気がいつまで続くのかな?!」
時折MPポーションを飲みながら、私は走る。
グリムの黒い靄に触れないように時に跳ね、時に【チャック】を使い全力で逃げ回っていた。
……そろそろMPポーションも切れるし、段々【チャック】での移動も慣れてきてるみたい。まずいなぁ。
魔力的にも手札的にもどうにもならない。
今まではまだ周りの力もあり、なんとか勝てたが今回はそれはない。
材木なんかで攻撃しようにも、外したらそれだけで大きな隙になってしまう。
錬成魔術を使っての落とし穴も、グリム自身も種族が人間であるため錬成魔術を使われてそこまで足止めにすらならないだろう。
そんな時だった。
「なっ」
「ん?」
私の目の前には、派生魔術取得を知らせるログが出現していた。