宣言をしよう
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クリス視点
……と、いってもこれはちょっとキツくなってきたっ!
戦いを始めてから既に10分は経っただろうか。
お互いがお互いの攻撃を読み、そしてそれの合間を縫って反撃していく。
私が立方爆弾を使い面での攻撃を仕掛けつつ、自爆も視野に入れた体術を入れようにも、システ側もレイピアを上手く使い、此方が蹴りを入れようとした瞬間に牽制を入れてくるため、上手く攻撃を入れることが出来ない。
お互いの実力はほぼ互角。
寧ろ私の方が固有魔術によって手札をいくつか封じられている分、実力は上なのだろう。
しかし、このシステという初老の男が使っていると思われる固有魔術の実態がどうにも把握出来ない。
この部屋全域に効果が及ぶことからして、結界系の固有魔術ではあるのだろう。
そして効果としては特殊なルールが敷かれている。
しかし、この10分程の時間の中で、彼は1度もMPポーションを口にしてはいないのだ。
……リックが言ってたけど、確か結界の維持には発動以上の魔力を消費するはず。
固有魔術も然り、と考えるべきだろう。
派生魔術によってコスパが良くなったのかもしれない、とも考えたがこれは少しコスパが良すぎる。
何せ、システはその固有魔術の他にも汎用魔術を多重に使い攻撃しているのだから。
【身体強化】に【操風】、他にも牽制に攻撃魔術を何種類か。
……何かしらの裏がある、それは間違いない。でもそれが何かはわからない。うーん……。
「『嘘』……『嘘』ねぇ……」
「おや、何か考えついたので?」
「いや、特に?というか……うん。やってみないと分からないことが多いから」
「そうですか」
短く会話をしながらも、攻撃を交わし続ける。
立方爆弾によって彼の突撃方向を制限し、避けてきた先に乱風魔術の【鎌鼬】という名前そのまんまな攻撃魔術を置く。
彼も同じ【鎌鼬】によって相殺しつつ、恐らくは魔装具だろうレイピアを曲げて攻撃してくるのだ。
まるで鞭の様に扱われるそれを、【操風】によって速度補助をしながら紙一重で後ろに下がりつつ避けていく。
魔装具。
私のフェイルノートもそうだが、魔術的に改良の加えられた武具を基本的には指す言葉だ。
例外として、ゴーレムなどの使役物に関しても魔装具という人もいるが……まぁここでは関係はないだろう。
フェイルノートに関して言えば、稼働・待機モードが魔術的に改良された部分と言えるだろう。
ではシステの使うレイピアは?簡単だ。
その刃の柔らかさ、これに他ならないだろう。
柔らかさ、といってもそんなすぐにポッキリと折れてしまうような柔らかさでは無く、ぐにゃぐにゃに、まるでゴムのおもちゃや鞭のようにしなるのだ。
だからこそ、普通のレイピアとは扱い方が違うだろうし、普通のレイピアだと思って対応すれば痛い目を見るだろう。
……うん、ちょっと思いついたしやってみるのも手だ。
ここで私は、先ほどから少しだけ考えていた案を実行することにした。
流石にこのままでは、私側の魔力が先に尽きて殺されるだろう。それは少しでも回避したいのだ。
声に魔力を乗せる。
まるで祝詞の様に、言葉を紡いでいく。
「ねぇ、システさん」
「なんでしょう、偽名のお嬢さん」
「魔力の矢が無いなんて、そんなものこの世界では『嘘』みたいなものよね。だってこの世界では魔力があるのだから。魔力があれば、そういった矢もあるのが当然よね?」
「ほぅ……」
彼に語りかけた言葉。
特に嘘という単語を強調し、力を込めて発言する。
私が考えていた、この部屋全域に掛けられた固有魔術の効果。
それは『魔力を乗せて『嘘』と宣言したモノが限定範囲内では発生、発現しなくなる』というものだ。
その効果には、必ずしも行使者本人が『嘘』と宣言する必要がない……と思いたい。
彼は始めから、嘘はダメだ、真実を語ろうとこちらに嘘という単語を言わせないよう誘導していたようにも思う。
それにしては少し強引すぎてお粗末なものだったが。
その『嘘』と宣言出来るモノの数も決まっているのだろう。
恐らくは、3つ。
私の立方爆弾を消さなかったのはそれが理由のではないだろうか。
1つは、魔力の矢を『嘘』と。
2つは、鉄の杭を『嘘』と。
最後はダメージかもしくは魔力消費か何かを先に『嘘』と宣言していたのだろう。
そして恐らくは相反する宣言をした場合、その相反する2つの宣言は消えてしまう。
私は息を吸い、【多元感知】がしっかりと発動しているのを確かめた後に、自らの愛用している固有魔術を宣言する。
「【頭上の林檎は撃ち抜かれる】」
光る弓とそれに番えるべき魔力の弓矢が出現し、私の手へと吸い付いていく。
システは無言で、されど攻撃するためにこちらへと突撃してくるが立方爆弾によって動きが制限されているためか、こちらへと辿り着く前に決着がつくだろう。
「くっ、肉体損傷など『嘘』だ!」
「何を言っているんですか。この世界がバーチャルだとしても、肉体損傷をしない人間なんて、それこそ『嘘』の存在ですよ」
彼の宣言を打ち消しつつ、私は弓を引く。
光る矢は離れた瞬間に何処かへと消え、次の瞬間には、システの頭を貫いていた。