弓使いと
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活動報告って読んでる人いるんですかね?
クリス視点
「っ!……わぁ、何ここ。ってもう誰か居るし」
「おや。僕の相手は彼女ですか」
恐らく私は、何かしらの魔術によって何処かへ飛ばされたか、捕らえられたのだろう。
白い部屋の中、私と対面する形でスーツを着た初老の男が立っている。
「僕はファルシ所属、システと申します。お見知り置きを」
「私はドミネ所属、クリン。よろしく」
弓を召喚しつつ、適当に考えた偽名を教えておく。
味方なら兎も角、敵に対してプレイヤーネームを教えるほど馬鹿ではない。
プレイヤーネームを知られる、と言うことは魔術的には真名を教える……つまりは、弱点になり得る情報を教えると同義だ。
まぁ、相手が呪術を取得している前提なのだが。
「んん……、貴女嘘を憑いていますね?」
「は?」
「嘘はいけない。嘘は真実を外側から塗り固めて見えなくしてしまう。あぁ、嘘はいけません」
システと名乗った男は、何処からか取り出したティーカップを持ちながら何処か明後日の方向を見つつ、1人語る。
……偽名を見破られた、のかな?そういう魔術?
ジリジリと距離を少しずつ取っていく。
対面とはいえ、彼我の距離が10m程しかないのは弓を使う私に取っては辛い。
「……だから貴女、【真実を語りましょう?】私と紅茶でも飲みながら、【真実について語り合いましょう?】」
「ちょっ、詠唱なのそれっ!」
システの言葉に魔力が乗る。詠唱が始まった証拠だ。
私は逃げるように、されど視線をシステから外さずにバック走のように一気に距離を取る。
そして弓を構え、魔力の矢を番える。
魔装弓・フェイルノート。
名前は大袈裟だが、私の固有魔術との兼ね合いも兼ねて作ってもらう時にそう名付けて貰った特製の弓だ。
特徴として、待機モードと稼働モードがあるのが他の弓とは違う点。
待機モード時には腕輪となり、魔力を流すことによって稼働モードとの切り替えが可能となっている弓だ。
WOAでは弓を使うプレイヤーは、物好きじゃない限りは普通の弓矢なんて使わない。
弓自体に使用者の魔力を弓の形に成形し打ち出すシステムが組み込まれているからだ。
その為、弾道……この場合は矢道だろうか?
それを自在に操る事が可能となっている。
「【補助-多元感知】、【乱風-操風】発動」
但し、魔力で作った弓矢といえど風などの影響を受けてしまう。
自在に操れると言っても、強い風が吹いていたりする場合思い通りに動かせるとは言いがたい。
そこで弓を使う魔術師の中ではお決まりと言わんばかりに、補助魔術と乱風魔術を取得しているのだ。
【多元感知】は彼我の距離を正確に把握するための拡張情報表示。
【操風】は矢の軌道補助、速度補助だ。
「ッ!」
そういった補助を掛けた上で放たれる弓は、正面にいるシステへと向かって飛んでいく。
【操風】によって弾丸のような速度で飛ぶ魔力の矢は、すぐにシステの元へと到達し……そして消え去った。
新たに弓矢を作ろうとするが、それも手元で掻き消えてしまう。
……なに、これ?まさかこっちの魔力に対して干渉するタイプの……っ!
内心慌てている私の姿を見て察したのか、こちらへシステが声を掛けてくる。
詠唱は、既に終わってしまっているらしい。
「そんな魔力の矢なんて、そんな現実感のないもの『嘘っぱち』ですよね。嘘は実在してはいけないのですよ、わかりますか?お嬢さん」
「……何が言いたいの?」
「それは貴女自身が考えてください。僕は教師ではなく、貴女を殺そうとしている者なのですから」
そう言いながら、システはインベントリから取り出したと思われるレイピアを持ち、こちらとの距離を詰めるために走り出す。
強化魔術によって【身体強化】を施し、追いつかれないように逃げつつも考える。
フェイルノートを待機モードに戻し、今度は【頭上の林檎は撃ち抜かれる】を発動させる……が、こちらも弓矢を生成しようとすると魔力が掻き消えてしまう。
まるで、魔力の矢なんて存在しないかのように、途中で魔力が散っていってしまうのだ。
……固有魔術まで発動が邪魔されている?
「おや、今のは固有魔術ですか?これはこれは。意図せずして貴女の最大の武器を奪ったようなものですか」
「たった1つ固有魔術を見ただけで、最大のって言うのは早計じゃなくて?」
「はは、人間何が起こっているか分からない時には切り札を切るものなのですよ。あくまでも自論、ですがね」
「ふぅん、頭に入れておくことにするわっ!」
私は【操風】を使い、ジャンプすると同時に自身を高く飛翔させる。
そしてそのまま風に乗り、壁際まで近付くとインベントリ内から鉄製の杭を何本か取り出し手早く打ち付ける。
簡易的な足場の作成だ。
「おっと、そんなことまで出来るとは」
「魔術師ならこれくらい出来て当たり前、そうでしょう?」
煽る様に上から見つつ、そう言う。
冷静に相手の動き方を見つつ、何かしらの攻撃が出来ないかを考えるためだ。
「そうですね。ならば、それを破られるのも当たり前。……そんな人1人の体重を支えることが出来る鉄の杭が存在するなんて、まるで『嘘』のような話ですよねぇ」
「なっ……!」
システがそういった瞬間、私の足場にしていた鉄杭が消え私は落ちていく。
慌てて【操風】によってバランスを取り、着地の衝撃に耐えようとするが、そこにシステも近寄ってきている。
「偽名のお嬢さん。慢心はダメですよ」