街道にて、私と彼女
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街道 - かぼちゃの馬車内 - AM
始まりの街からヴェールズへ向かい始めて30分。
出発してすぐは、本当はこのまま灰被りにPKされて始まりの街へ送り返されるのでは、と考えていた。
まぁそんなことはなかったどころか、彼女は暇そうにしている私に対して、プレイヤー間ではサバトメンバー同士でも控えるべきである自身の固有魔術について話し始めた。
「いや、まぁ私も少しだけなんですけどこのゲームじゃ有名人でして。私の固有魔術に関しても割と知られちゃってるんで、問題ないんですよ」
ということらしい。
「私の固有魔術はいわゆる魔眼って言われているもので、有名なものだとゴルゴーンという怪物の石化の魔眼があるものですね」
「はぁ、灰被りさんの魔眼もそういうもので?」
「いえ、私のはそういうものとはまたすこし違うものですね。見ててください」
と、灰被りはインベントリ内から何やら大きい鉄塊を取り出す。
「封印解除」
灰被りがそうつぶやくと、鉄塊はまるで最初からそれが存在しなかったかのように、灰となって馬車の窓から外へ流れていく。
「これが私の固有魔術である【灰化の魔眼】ですね」
「ほう…名前とピッタリじゃないですか。偶然ですか?」
「あぁ、いえ。その…私が言っている灰被り、という名前はよく呼ばれているニックネームと言いますか、なんというか…このゲームでのアバター名ではないのです」
「と、いうと?」
聞くと、少し灰被り(偽名)は恥ずかしそうにしながらも理由を教えてくれる。
「あの、私こういうMMORPGってやるの初めてで、そもそもオンラインってなんだろうって時点からのスタートだったんですよ」
「それは…このご時世珍しいことで」
「えぇ、今でも思い返すと私でもそう思います。…まぁそんな私だったから名前を決める時に本名で登録してしまったわけなんですよね」
あぁ、それでよく呼ばれているニックネームしか教えてくれないわけか。
昔よりもはるかにセキュリティ技術が発展したといっても、個人情報のもっとも重要度の高い個人名を知られてしまえば、昔よりも個人特定は楽だろう。
それに灰被りは女性だ。変なネットストーカーに特定なんてされたらリアルでの生活など安心してできなくなるだろう。
「その点、このゲームは名前を教えたりフレンド登録しない限りは本当の名前ってわかりませんし、【鑑定】でもわかりませんから助かりました」
「本当にそうですね…ちなみに赤ずきんさんとは初期からの知り合いで?」
「あぁ、あの人は…そうですね、初期というよりも私をこのWOAというゲームに誘ってくれた方なので、リアルからの付き合いになります」
それはまた…あの性格をリアルから。
中々苦労されていそうだった。
「そういえばクロエさんはどうしてWOAを始めたので?」
「えっとそうですね。私憧れていたんです。魔法っていうのに」
「へぇ、魔法に?」
灰被りの言葉に頷きながら、私はこのゲームを知って、情報を調べ上げるまでを回想していた。
「えぇ。こんな科学が発展したリアルの世界で珍しいかもしれませんが、私魔法とかそういうものがまだリアルの世界のどこかには存在してるんじゃあないかなって思ってて。それを少しでも体験できればいいなぁと思ってたんです。そしたらこのゲームをネットサーフィン中に見つけまして」
そう、私はこのゲームの一つの代名詞、煽り文句にもなっている固有魔術に釣られた口なのだ。
他プレイヤーを倒すことでどんどん使える種類の増える固有魔術。
プレイヤーごとに固有であるソレは、当時の私の心にクリティカルヒットしたのだ。
「それでこのゲームを始めたわけですか…」
「そうなります。我ながら単純だなぁとは思いますが」
少し苦笑しながら頬をかく。
が、灰被りはそんなことはない、と首を横に振りながらこう答えた。
「いえ、そんなことはないですよクロエさん。私も赤ずきんさんに誘われた時に、やろうと思った一番の理由は固有魔術の存在でしたから」
「そうだったんですか?」
「えぇ。始めた当初はさすがに驚きましたが、今ではPKを返り討ちにしているたびに増えていく固有魔術をみて、どんな戦術をとろうか…とかこの固有魔術を他の魔術と組み合わせれば色々出来そうだ…とか考えるのが楽しくなってきて」
若干灰被りが興奮した様子で様々なことを語る。
彼女は出会った当初から、あまり表情が動かない人物だったので、珍しい。
「お―いはいかぶりちゃーん!そろそろかわろうぜーい」
とここで、馬の様子を見ていた赤ずきんが客車にいた灰被りに向かって話しかけてきた。
この二人は本当に一体どういう関係なのか、素直に気になる。
「は―い!…では話も途中ですが失礼しますね。また機会があればお話ししましょう」
「いえいえ、こちらこそ有意義な時間でした」
灰被りは客車から前の馬がいる方へ…。あそこの名前ってなんなのだろう。あとで灰被りに聞いてみるのもいいかもしれない。
入れ替わるように赤ずきんがこちらへ入ってくる。
「や―あくろえちゃん、たいくつしてない?だいじょぶ?」
「えぇ、さっきまで灰被りさんとおしゃべりしてたんで退屈はしてません…ところで赤ずきんさん」
「なんだい?」
にやにやしている彼女に対し、警戒しつつも聞きたかった質問を投げかける。
「貴女、なんで私が禁書を持っていたことを知っていたので?」
その質問を聞いた彼女は、まるで不思議の国のアリスのチェシャ猫のようにニヤリと笑った。