どうしようもないメンバー
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「おっ、クロエちゃーん。どうしたの、そんな所で座って」
「赤ずきんさん……」
待機フィールドは中世風の大広間以外にも、恐らくドミネ側だからなのか何処かの武家屋敷のような場所もあった。
私はその武家屋敷の方にあった庭で体育座りしていたのだ。
「あ、あは。私やっぱりあんまり人込みがあんまり得意じゃあないんですよね」
「あぁ……だから出来るだけ人から離れてこんなところで座ってたのか」
赤ずきんは苦笑いを浮かべている。
リアル引きこもりのような生活を続けている私には、やっぱり何もせずに人込みの中に居続けるというのは少し辛いのだ。
例えば、誰か知り合いと話しながらだとか、戦闘行動中なんかだと全然気にならないから、恐らくは気の持ちようだとは思うのだが。
頭の上で寝ているグリンゴッツの頭をコツンと叩き起こしてやる。
赤ずきんがこんな所に来たということは、そろそろ戦争フィールドへの転送が始まるのだろう。
「すいません、こんな所まで探しに来てもらっちゃって」
「ん?あぁ、いやいや。問題ないよ。あとはクリスちゃんとリックくんも探さないとだしついでだよ。ついで」
「灰被りさんもクリスさん達を探してる感じです?」
「いや、灰被りちゃんは目印として大広間のほうで待っててもらってるよ。彼女ともはぐれちゃったら色々面倒だからね」
確かにそうだろう。
……というか、だ。ここではフレンド間での通話はできないのだろうか?
「えっ、あっ……あぁー……確かに。忘れてた」
「私も忘れてたんでとやかく言えないんですけどね。とりあえず灰被りさんの所に移動しましょうか」
「そうだね、灰被りちゃんなら通話のことくらい覚えてるだろうし」
そんなわけで、私は赤ずきんと共に灰被りが待つという場所へと向かう。
少しだけ赤ずきんが余裕のなさそうな、そんな横顔をしているのが気になった。
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大広間の壁際で明後日の方向を見てぼーっとしている灰被りの元へ赤ずきんと共に合流する。
「おーい、灰被りちゃーん」
「……あぁ、赤ずきんさん。誰か見つかったんですか?」
「うん、武家屋敷の方にクロエちゃんが居たよ。そっちはー……って聞くまでもないみたいだね」
「えぇ。あの後すぐにクリスさんに通話をかけてここに来てもらったので。彼女と一緒にリックさんも来たので」
灰被りが自身の後ろの方へと視線を向ける。
すると、クリスとリックが二人で体育座りをしているのが見えた。
……おや、お仲間かな?
「二人はどうしたんです?」
「いえ……その、人込みは苦手ではないらしいんですが、何やら緊張してきたとのことで」
お仲間ではなかったようだ。
緊張しすぎて胃に穴が開きそうだとか、お腹が痛くなってきた……とかそんなものなのだろう。
確かにこの戦争イベントに負けたら、ドミネがなくなる可能性が高いのだ。
いくらゲームといえども、少しだけ私も緊張する。
「おいおーい。大丈夫かい?二人とも」
「へっ、あっあぁ、赤ずきんさん。いえ、大丈夫です大丈夫……えぇ大丈夫……」
クリスは赤ずきんに話かけられ、一瞬反応したがそのまままた自分の世界へと戻ってしまう。
いくらまだ戦争が始まっていないとはいえ、このままでは問題だ。
「うーん……【チャック】」
何かしら使えるものがないかと【チャック】に手を突っ込んで探してみる。
色々と入れてはあるものの、緊張を解せるようなアイテムが入っていたかといえば……そうじゃないのだが……。
……うん、入ってるのが毒ばかりというのも中々。
しょうがないので、瓶に入った毒を1個取り出す。一緒に毒消しも出してすぐに状態異常を消せるように準備をしておく。
「クロエちゃーん……?流石にそれはちょっと待とうねー?」
「えっ、何のことですかね」
「こういう緊張してる子らをどうにかするには、時間経過か無理やりに場に引き出しちゃえばいいんだよ。というわけで【童話語り - 千夜一夜物語】」
パァ……とクリスとリックの2人に光のエフェクトが散ったかと思ったら、2人とも眠ってしまった。
固有魔術でのデバフ付与、と言ったところだろうか。
「なにしたんです?」
「うん?簡単さ。普通に眠らせただけだよ、といってもゲーム内だからデバフの【睡眠】付与ってだけなんだけどね」
「あぁ……これで、移動する直前にまた起こして直接戦場に叩き込むってことですか?」
「うん。まぁ、戦闘に入れば彼らも初心者じゃないんだから復活するでしょ。そこまでは一応これで」
仕方ないことなのだろうが、他の方法もあったとは思う。
いや、私のように毒を気付け薬の代わりに使おうとするよりかはいいとは思うのだが。
そんなことをわちゃわちゃとしていると、恐らく転送前に戦闘をしていたと思われるプレイヤーたちが転送されてきていた。
その中にはハロウの姿もあり、彼女はいつか見た闘技場での試合後のような恰好をしていた。
そして、彼女もまた、赤ずきんのように緊張しているようなそんな顔をしていたのが、少しだけ気になった。