待ち合わせ、今更の説明
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始まりの街 - AM
昨日【赤の十字軍】に入った私は、とりあえず一緒に移動してくれるらしい赤ずきんと灰被りを待つために広場へ向かった。
一応灰被りからもらったスカーフに関しては左腕に巻くようにしてつけておく。
別れる時に、できるだけ他の人に見えるようにつけてほしいと言われていたからだ。
「あぁクロエさん、おはようございます」
「灰被りさんおはようです。……赤ずきんさんは?」
「あのひとはおそらくリアルの方での寝坊でしょう。いつもの事なので気にしないでください」
「はぁ……。そういえば私このゲームやり始めてからそんな経ってないんで知らないんですけど、この近くに【赤の十字軍】の拠点ってあるんです?」
サバトに関しては、よく注意喚起スレなどで名前が上がるため様々な大手の名前は知っているが、大体拠点にしている街などに関しての情報は上がってこない。
これは、サバト内で情報漏えいしないように心掛けているか、そういう呪術系の魔術でも参加時にかけられているんじゃあないかと考えている。
「そういえばクロエさんはそうでしたね。うちの拠点に関しては、近くにはないですよ。今いる国の隣国にあるので」
「あっ、WOAってそもそも国って概念あったんですね」
「ふむ……じゃあそこから説明していきましょうか」
「お願いします」
こうして赤ずきんがくるまでの短い間だが、灰被りを講師にWOAの世界観の勉強会が行われることとなった。
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「では、クロエさん。そもそもこのWOAというゲームにおける私達魔術師…プレイヤーはどういう立ち位置にいるか知っていますか?」
「えーっとそうですね。この世界における魔力というリソースを自由自在に操れる特別な存在…でしたっけ」
確かそんな感じだったはずだ。
WOAを調べているときに出てきた煽り文句がこんな文章だったと記憶はしている。
「えぇ、その認識であっています。補足するとこの世界の創造神から固有の魔術を授けられた存在でもあるっていう設定もありますね」
灰被りはどこかから取り出した眼鏡をかけ、教師っぽく振る舞っている。
元々装備していた軽装の白い鎧はどこかへしまって、リクルートスーツのようなコスチュームを着ている。
「そんな魔術師はどうしても強力な力をもつわけでして。それを悪用しようとする阿呆が出てくるわけですね」
「よく異世界モノのラノベとかでもあるあるな展開ですよね。勇者を騙してーってやつ」
「そうそう、そんな感じのイメージです。…それを防止するために、この世界に5つある大国の王達はあるルールを設けたわけです。それが何かわかりますか?」
WOAにおけるプレイヤー…魔術師に関係するルールといえばアレだろう。
「始まりの街以外ではすべてがPK可能ってやつです?」
「そうですね。そのルールを設けることによって、魔術師を悪用しようとする阿呆たちは迂闊に近づこうとも魔術師側がまず疑いをかかって関わりますし、いつ死ぬかもわからない魔術師に対して何かを任せるってこともできません」
一応、こちらからすればゲームだから生き返るわけだが、ゲーム内のNPC的にはそうもいかないわけだろう。
「まぁそれでも直接的なものではないんで、今もNPCに騙されてーって人は確かにいます。それが原因でたまーに起きる全プレイヤーを巻き込んだレイドイベントになったりしますね」
「結構スケールが大きい話になりますね…で、どんな国があるんです?」
「そうですね、まず人族の国である【ヴェールズ】。大体リアルの中世辺りの文化レベルですね。次に森精族の【ファルシ】。大体アニメやゲームに出てくるエルフの国を思い浮かべてもらえればいいです」
ふむ、森に囲まれた感じなんだろうか、森精族の国は。
「三つ目は土精族の【ポッロ】。鍛冶が盛んな国で、大抵儀式に使う儀礼剣なんかはここで発注したほうがいいですね。四つ目は火精族の【ドミネ】。ここはよくプレイヤーの間では帝都と呼ばれていて、かなり好戦的な国ですね。コロッセウムというデメリットなしのお遊びPKができる施設も存在するのがこの国になります」
おぉ、やっぱりお遊びでのPKはできるらしい。
暇になったらいつか行って参加してみるのもいいかもしれない。
「そして最後に、水精族の【ユディス】。この国は宗教国家ですね。創造神を信仰する人たちが集まってできた、という設定らしいです。そんな特色からか教会が多く、回復系魔術を学ぶ場合はここに行った方がいいですね」
「色々観光してみるのもおもしろそうですねぇ。それぞれの位置関係ってどうなってるんです?」
「私たちが今いるこの始まりの街を中心に、五角形の頂点に国がそれぞれ存在する形になりますね。丁度この街はどの国の国境にも被らない位置になっているわけです」
ということは、この街からどの国に行こうが距離は一緒なわけだ。
どこか近くの街まで一緒に行動するつもりだったが、これはついて行って拠点があるという国までいくのも悪くないかもしれない。
「ちなみに拠点ってどの国にあるんですか?」
「ヴェールズですね。あそこの国を本拠点としてうちは動いています」
「ということは今日目指すのは」
「ヴぇーるずになるよー!ごめんねーねぼうしちゃった」
とここで赤ずきんの登場である。
ただし、今日はいつもの剣士のような装備ではなく、魔術師然としたローブを着ていた。
「赤ずきんさんも到着したことですし、出発しましょう。赤ずきんさんいつものお願いします」
「はいよーはいかぶりちゃん!展開【童話語り-シンデレラよりかぼちゃの馬車を】」
いつか見た赤ずきんの固有魔術が発動する。というかここ街の広場なんだけども大丈夫なのだろうか。
赤ずきんの持っている大きな本から光が飛び出し、私達の目の前である形に変化し具現化する。
馬二頭、私たちが入る客車の部分は巨大なかぼちゃをモチーフにした形となっている。
「これは…」
「しんでれらのかぼちゃのばしゃだよー。さぁのったのった!あとでおしえてあげるから!」
そう言う赤ずきんに無理やりかぼちゃの馬車の中に押し込まれ、私たちは出発することとなる。
ヴェールズ、人族の国であるそこが現在どんな状況かもしらずに。