行く前に。
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ここで一つ、話をしようか。
何、これはちょっとした私たちの話さ。
あぁ、大丈夫。これは過去の話じゃない。
今までと同じようにパパっと終わるものさ。
「……赤ずきんさん、何してるんです」
おっと、灰被りちゃん。
何をって、最近アプデで追加された録画機能を試してるんだよ。
「傍から見たら、いつも以上に危ない人にしか見えませんよ」
はは、やめてくれよ。
それじゃあ私がいつも危ない人のように聞こえるだろう?
……おいおい、なんだなんだ。ジーニー。灰被りちゃんまで。
え?何?君はいつも通り危ないだろう?
はっはっは、面白い事をいう。
私がまるで危ないようにいうんじゃあないよ。こんなに良い女を捕まえて。
おや、なんで灰被りちゃんは手で顔を覆っているんだい?
おいおいジーニー、なんで事務仕事を放り出して帰ろうとしてるんだ。
「……はぁ。とりあえず、これ。ヴェールズ王からの召還命令です」
あぁ、ありがとう。
ふむ……。この時期にってことは確実に、ドミネかファルシのどっちかに傭兵として行ってこい、みたいなことを言われるんだろう?
こういうところ、システムメッセージで送ってほしいものだね。
とりあえず、これから出るよ。
……あー、もしかしたら誰か身内が来るかもだけど、その場合は適当に対応しておいて。
とりあえずはレンちゃん以外なら問題ないから。
「レンさんはなんで……?」
あぁ、あの子今日はハロウ当番のはずなんだよ。適度にあの子サボるからね。
来たら怒ってくれ。彼女、君の言うことは素直に聞いてくれるからね。
じゃ行ってくる。
「はい、行ってらっしゃいませ」
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「はい、行ってらっしゃいませ」
私は礼をし、赤ずきんを送り出す。
いつもは何かと理由をつけて、サバトの事務仕事をサボろうとするために警戒はしているのだが。
今回は戦争に関係するということで、何も言えない。
赤ずきんの座っていた椅子に座り、彼女がやるはずだった仕事を片付けていく。
事務仕事、と言っても内容は簡単なものばかりで。
サバトメンバーのクエストクリア状況や、メンバーのログイン状況の確認などのものだ。
それらをある周期で確認しておかねば、幽霊部員ばかりになってしまう。
「ゲーム内でも、運営する側になると事務的な仕事は増えていくってことですね……」
『おいおい、君はやる必要はないんじゃないか?後で赤ずきんがやればいいだろう』
「おや、ジーニーさん。今日は静かだなって思ってたんですが」
『はは、静かにしておいたほうがいい場面は黙っているだけさ』
彼は笑う。ある意味、赤ずきんと同じようなものである存在であるジーニーだ。
彼女の気持ちはある程度まではわかるだろうし、彼女の考えを元に答えを出している節も多々見られる。
おそらくは赤ずきんとジーニーの間に繋がる魔術的な経路が、そういったものを読み取っているのだろう。
と、ここでコンコンと扉をたたく音がする。
「はい、どうぞ」
「しっつれーい。っとおや?灰被りだけかな?」
「……ある意味予想通りといいますか。どうも、レンさん」
中に入ってきたのは、何故かバニー姿をしているレンだった。
彼女はキョロキョロと周りを見渡しながら、来客用のソファに座る。
一応私はメッセージ機能を使い、ハロウヘと送る。
「今日はレンさんがハロウさんの担当ではなかったです?」
「あは、それ聞いてるんだねぇ。大丈夫だよ。ハロウの家からインしてるからね」
……嘘かどうか確かめられないですね。
はぁ、とため息を吐き何かしらの飲み物を用意する。
「で、何の用です?」
「うん、本当は少し赤ずきんと話したかったんだけどね。戦争の話さ」
「ドミネとファルシのですね」
そう言うと、彼女は少し難しい顔をしながら、ためらいがちに頷いた。
「うん、まぁ、うん。そうだよ」
「……?」
「……まぁいいのさ、それでどっちにつくのかなって思ってね。私はレギン襲撃事件のときにレギンにいたからさ。ドミネ所属ってことにはなってるからね」
「えぇっと、身内でドミネ側にいるのがハロウさんとレンさん、ですかね?」
「そうなるねぇ。身内で決まってないのは君らだけかな」
……ふむ。
身内内では一種の勝負事として、戦争イベントでの勝敗でご飯奢るか奢られるかなどの賭け事が行われている。
「うーん……私は赤ずきんさんと同じ陣営につくと思うので。彼女次第になるとは思いますよ」
「そっか。じゃああとで聞くことにしよっかな。うん、ありがとね」
「いえいえ、それはそうとレンさん。今メッセージがハロウさんから返ってきたのですが」
びくん、と彼女の肩が跳ねる。
「……あは、ちょぉーっと用事思い出したから私もう行くね!じゃ!」
「あっこら!」
レンはそのまま地面に開いた穴に入って転移して逃げていった。
ジーニーはくっくっくと笑い、何度かになるため息を吐く。