始める前に
もしよかったら感想、ご指摘、評価などよろしくお願いします。
一度ここで章を区切っておこうと思います。
ここまでが三章・前半。次回から何本か番外を挟んだ後に後半を開始します。
本編を待つ人には申し訳ないですが、そういうことで。
「【逸話のある物語 - シンデレラ】」
固有魔術を発動させた私の目の前に、巨大な宝箱のようなものが出現しパカパカと開閉している。
中に財宝が入っているわけでもなく、ただ開閉しているだけなのだ。
「……えーっと?」
これは一体どういうことなのだろうか。
……もしかして、何かしらの目標が必要になるタイプ?
攻撃魔術に多い追尾するタイプの魔術。
それらに共通している特徴が一つある。
攻撃目標を設定していない場合、そのまま発動させた地点に留まり続けるのだ。
他の補助系の魔術にも対象を追尾する魔術がないわけではないが、そちらに関しては留まらず霧散してしまう。
……追尾型って考えると、そうだね。今から近くの森なんて行ってたら、明日遅れちゃいそうだし。
「とりあえず保留かな。余裕があるときに使って確かめるのがいいかも」
【逸話のある物語】への魔力供給をやめ、宝箱を消す。
そのまま【影化】も解除して、元の宿の部屋へと戻ってきた。
ちら、と窓から外を見てみるとまだ夕方のようで。
足りなくなった資材なんかを買いにいくといい感じの時間になるかもしれない。
今日はあまりゲーム内でやることもないし、買い物を済ませてログアウトでもいいだろう。
「よし、買い物行こうか。グリンゴッツ」
『了解した、ご主人』
戦争が始まる日は、近い。
キリッと空を見上げていると、何やらグリンゴッツが用があるようで、私の裾を引っ張ってくる。
「ん、どうしたの?」
『いや、すまないご主人。今思い出したんだが……赤ずきんとの問答の答えは出たのか、と気になってしまって』
「……あぁー、うん。一応私の中では決まったというか。それが正しいかといわれるとそうじゃないんだけどね。私がやりたいから」
『ふむ、それなら良い。私はそれに付いていくだけだからな』
戦っている時、みんなの戦いを見ている時。
それらを通して、私のプレイスタイルをどうするべきか。
一応、それに対する答えは私の中では出ていた。
……まぁ、どうなったとしても楽しければいいよね。ゲームだし。
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--???--
「【童話の人物】と【新免】が殺された場に居たプレイヤーってことで見に来たけれど、そこまでじゃあなさそうじゃん?」
「はっは!そうだね、彼女はそこまでじゃあない!物量で攻めてしまえばあっけなく終わるだろうよ!」
空中に浮かぶ絨毯のようなものに乗る二つの影。
片方は子供のようにしか見えないが、耳がとがっていることから森精族ではないだろうか。
もう片方は……。その姿は、人のようには見えるがそれだけだ。
土塊でできたその体を器用に動かしながら、それは下を見る。
「……君は、どちらの味方なんだい?」
「私か?私はそうだな!……国の味方だよ。どこまで行っても、そこは変わらないさ」
「ふぅん。まぁいいけれど。じゃ行こうか」
「それは厳しいらしいぞ、アラジン」
「は?」
次の瞬間、彼らの乗っていた絨毯が炎に包まれる。
アラジンと呼ばれた子供は新たに絨毯を召喚し、それに乗る。
もう一方の土塊はというと、背中から土の翼を作り出しそれで浮遊しているようだった。
「おや、避けてしまったのかい?もったいない。こちらの魔力は無限というわけじゃあないんだよ」
「ふふ、やめなさい赤ずきん。それに今のは私が使った魔術よ」
下から聞こえてくるその声は。
赤い頭巾を被ったプレイヤーと、魔女のような姿をしたプレイヤーがいつの間にかこちらへと近づいてきていた。
片方はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、もう片方は優しい微笑を浮かべながら。
「ここで【童話語り】と【決闘王者】かよ。気付かれるの早くないか?」
「おいおいやめておくれよ!私は何も知らないさ!彼女たちは身内だけれども、だからと言って全てを曝け出すような仲ではないからね!」
土塊はどこまでも楽しそうに言う。
「ったく……あー、御両人。俺らは別に先に攻めにきたってわけじゃあない。ないから……とりあえず魔力を抑えてくれると助かるんだが」
「はは、君は面白い事を言うね。そんな言い分で『はいそうですか』と敵国のプレイヤーを逃がすとでも思ってるのかな?」
「というか、すでに貴方は不法入国という罪を犯してるの。それをどう裁くかはこちらの国の決めること。貴方がどうこう言って変わるものじゃあないわ」
チッ、と子供は舌打ちするも、すぐに笑う。
「へへっ。まぁそんなこと言われても、ってトコあるんだけどな!帰るぞ」
「私はもう少し居たかったのだけどね!!」
「おや、簡単に帰すとでも?」
「あぁ、簡単に帰してもらえるさ。【猫のない笑い】発動」
子供がそう宣言すると、彼の姿は彼の口以外消えていく。
ニヤニヤと笑うその口も、最終的にぐるんと渦を巻くようなエフェクトに飲まれ消えてしまった。
土塊のほうも、既に体が崩れてしまい原型を保っていない。
「捕まえる気がなかったとしても、こうも簡単に私の領域から逃げちゃうかー」
「あら、仕方ないわ。どちらも固有魔術だもの。……まぁ少し面倒なものだから対策は必要ね」
残された彼女らは、そのまま笑いながら帰っていく。
戦争は、既に始まっていた。