預け、そして
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「というわけで、装備の更新をお願いしたいなと思ってまして」
「それで持ってきたのがこの素材ってぇ訳か……」
世間話を挟んだ後、本題を切り出した。
目の前ではグリルクロスが若干頭を抱えながら、私の出した素材を見ている。
2つのダンジョンを攻略した証である、ボスに纏わる何かしら。
『変異したローブ』と『影狼の大皮』だ。
「いや、な。実際ダンジョン系の素材を持ってくる奴は、やっぱり一定以上いる。……だが、流石にボスの素材を俺の所に持ってきたのは嬢ちゃんが初めてだよ」
「あは、やめときます?」
「馬鹿野郎、やるに決まってんだろ」
グリルクロスはニヤッと笑う。
私はそれを見つつ、ウィンドウを操作し自分の装備であるM-51:レイジーと無衣屠蝕を初期装備へと変更する。
今回使う素材的に、強化するならこの2つだろうと踏んだのだ。
「じゃ、この2つの強化をお願いします」
「何かしらの方向性とか、アレンジとかこうして欲しいってのはあるのか?」
アレンジと言われても急には思いつかない。
何かないかと考えていた所、灰被りとの会話を思い出した。
確か魔術スロットとか言ったか。
「じゃ、あれです。魔術スロット付けてください。アレ見ましたけど面白そうだったし」
「ふむ、魔術スロットか……ローブと鎧に付けるとなると、種類は限られてくるが大丈夫か?」
「大丈夫です。ただ、これを付けてくれ!っていう魔術が思い付かないんで、グリルクロスさんのオススメで付けてもらえると嬉しいんですけれど」
「それくらいならお安い御用だ、任せとけ」
1日は掛かる、とのことなのでそのまま彼に装備を預けて宿へと帰る。
出来上がりが楽しみだが、少しだけやりたい事もあるのだ。
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宿の部屋に戻り、ある魔術を使うため何があっても良いように【影化】にて影の世界へと潜る。
「いやぁ、しっかしちょっと怖いなぁこれ」
【逸話のある物語】。
新たに手に入れた固有魔術だ。
一度、グリムが使ってきたもので状態異常回復系の魔術かと思ったが……そうではないようで。
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【固有魔術-逸話のある物語】
選択した物語によって、効果が異なる。
選択可能物語
・人魚姫
・シンデレラ
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【鑑定】してみると、このような詳細が出てきたのだ。
何が起こるかが分からないというのは、ワクワクするのと同時に少し恐怖感がある。
一応、選択可能な2つの物語はそこまで警戒するようなストーリーではないが……もしマッチ売りの少女などと言った物語が追加された場合、少しだけ警戒くらいはするべきだろう。
「とりあえずどうしようかな……人魚姫からいってみよう」
どちらから試してみるかを考え、まだ予想のしやすい人魚姫から試してみることにした。
……まぁどうせ、対象の声が出なくなるとかそんなレベルだろうなぁ。
「【逸話のある物語 - 人魚姫】展開」
私の周りに水泡のようなエフェクトが出現し……特に何も変わらない。
デバフが掛かっているわけでもなく、それでいてバフが掛かったわけでもない。
グリムはどう使っていたかを思い返してみる。
……もしかして、元々デバフに掛かってないといけない?いやでも、腕が欠損しているのもデバフといえばデバフだし。
「【魔力装】、【大罪-怒煙】発動」
手に小さめの短剣を作り出し、それに【怒煙】を纏わせる。
そしてそのままに、私の右腕を少しだけ切りつけキズを付けた。
すぐに【怒煙】が効果を発揮し、右腕が黒い靄によって動かせなくなるがこれでいい。
「この状態で使ってみればいいのかな。……いや、もう一個デバフ追加してみよう」
というわけで、【怠惰】も発動しデバフを追加する。
そしてその状態で【逸話のある物語】を発動させた所……【怒煙】、【怠惰】の両方が綺麗さっぱり消えるのを確認した。
「デバフの消去って所かな……うーん。禁書の強化はどうなるかな」
【禁書行使】を使い、影の世界へ禁書棚を召喚する。
そしてそのまま【身体強化】を発動させ、【異常強化】状態にした後に【逸話のある物語】を発動させてみる。
結果から言って、強化効果まで綺麗さっぱり消え去ってしまった。
他にも、自前の強化魔術を使用し【身体強化】をしてみたものの、普通の強化ですら【逸話のある物語】は消してしまった。
「バフデバフを消し去るって所なのかな……腕の傷は消えてないから、身体の中の異物を消し去ってる感じ……?」
流石に戦闘中に使ってしまったら悲惨以外の何者でもないため、基本的には戦闘後に使うことにはなりそうだが。
対象は自分のみしか指定できないらしく、試しにグリンゴッツに対して掛けてみようとしたが出来なかった。
……次はシンデレラか。