足を鳴らし、指を鳴らす
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--灰被り視点--
「グリンゴッツさんは無理しないように」
『了解した、しかし灰被りよ良いのか?』
「えぇ、問題ないです。こういう相手に対しては私の方が慣れてると思いますので」
私はグリンゴッツと軽く話をしながら、目の前のシャドウウルフを蹴り飛ばす。
周囲には多くのシャドウウルフがこちらを睨んでおり、油断したらすぐに殺されてしまう。
「付与術式、起動」
タタン、と左足を踏み鳴らしそう宣言する。
すると履いているブーツに仕込まれている魔術が発動し、周囲に氷の茨が飛び出してくる。
適当に指を振り、周囲のシャドウウルフたちを茨で雁字搦めにしていく。
もう一度今度はタタン、と右足を鳴らす。
すると今度は大きな火炎の花が茨に捕らわれたシャドウウルフの数だけ出現し、その全てを燃やしていく。
これである程度の数は減っただろう。
ブーツに仕込まれている付与術式……魔術。
それぞれ左足が氷系の魔術、右足が炎系の魔術が数種類ずつあるアクションをすることで使えるようになっている。
私の固有魔術のおかげで、こうするほかに魔術を十全に使う方法がないのだ。
「さて、と。まだいますね」
インベントリから新たに白い手袋を取り出し、装備する。
そして左手の指を鳴らし、手袋に仕込まれている魔術を発現させる。
シャドウウルフたちの周囲から、突如として岩の塊が幾つも出現しそのまま炸裂する。
しかしそれすら避けてこちらへと近づいて噛もうとしてきたり、深影魔術にて攻撃をしかけてくるが、それも問題ない。
右手の指を鳴らし、周囲に結界魔術を発現させる。
グリンゴッツのほうにも本当は発現させたいのだが、この方法で発現する結界魔術などの補助魔術は効果が自分1人へと限定されてしまう。
面倒な点だ、と思いつつ近づいてきていたシャドウウルフに視線を合わせる。
「封印解除」
私が起動文を呟き目を見開くと、見つめられたシャドウウルフは一瞬動きを止め、最終的に灰へと変わっていった。
……抵抗されるかと思ったけど一応通らないこともない。
【灰化の魔眼】。それが私のゲーム初期から持つ固有魔術だ。
効果は至ってシンプルで、私の見つめた対象を灰へと変えてしまうというもの。
視界内ではなく、見つめた……視界の中央に定めた対象を灰へと変えるのだ。
しかし、全てを灰に変えることができるわけではない。
例えばプレイヤー。
彼らに対して使用したとしても、『使用対象外です』というシステムメッセージが出現し効果を発揮しない。
そして、抵抗値の高いモンスター。
モンスターには、抵抗値と呼ばれる隠しステータスが存在する。
こちらの掛けるデバフや何やかんやに対して、掛かるか掛からないかはこの値によって決定するのだ。
この【灰化の魔眼】は一応デバフ扱いらしく、この抵抗値に引っかかって効果を発揮しない事があるのだ。
と、言っても基本的にモンスター相手だったら発動はするし、抵抗されること自体が稀なのだが。
プレイヤーとの戦闘中に使うのであれば、相手の装備を灰に変えるということもできる。
あくまでも、効果が及ばないのがプレイヤー自身なのであって、装備に対しては効果を発揮することができるのだから。
「さて、これであらかた狩り終りましたか?」
『……っと、そのようだ。まだ残党が残っているがどうする?』
私にこちらに残るかどうかを聞いてきているのだろう。
周囲を見渡し、シャドウウルフの数を数える。大体10数匹程度。
これなら彼だけでも問題なく狩ることができるだろう。
「では、残りはお願いできますか?私はクロエさんの援護に行きます」
『了解した。危なそうならそちらへ移動する』
「了解です。ご武運を」
そういうと、私はそのまま反対側のクロエの居るほうへと移動を開始する。
幾ら彼女が1人で戦えるといっても、数が数だ。
いつまでもは戦えないだろう。
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--クロエ視点--
「ん、あっちは終わったのかな。よしよし」
私は近づいてきたシャドウウルフにトドメを刺す。
【霧海】に何か人型の誰かが近づいてくるのが感知できたため、恐らくだが灰被りだろうと予測する。
グリンゴッツがいないのは、残党狩りでもしているからなのだろう。
魔術的な繋がりがあるため、彼が死んでしまったら感覚で分かるからだ。
少しずつ数を減らしたとはいえ、まだまだ私の周囲には30を超えるシャドウウルフが居る。
嵐のように飛んでくる【影槍】などといった攻撃魔術や、彼ら自身での攻撃を【霧海】によって感知し避けたり、【魔力装】によって弾いたりしているが、流石に相手も学習してきたのか、こちらが避けれないタイミングで攻撃をしてくることが多くなった。
そのため、現在では【魔力装】の鎧を纏いながらの戦闘となっているが、これがまた消費魔力が多い。
いつもならば、全身を覆うようなものは使わないため実感する場面が少なかったが、やはり【魔力装】は消費魔力が多い固有魔術なのだ。
……あは、これがもうちょっと続いたら本格的に魔力がまずいな。
と、思った瞬間。
周囲にいた数匹のシャドウウルフに突如出現した氷の茨が巻き付き、そのまま絞め殺した。
「遅くなりました!」
「灰被りさん!」
増援の登場だ。