開演のお時間です
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「リックくんは防御に専念して!結界絶やしたらダメだよ!クリスちゃんはとにかく弾幕!」
「「了解!」」
私達……ボス組は苦戦していた。
周囲に湧いてきているシャドウウルフ達は、クロエや灰被りが倒してくれているから問題はないのだが、いかんせんこちらはボスの火力も相まって攻めあぐねている状態が続いていた。
手に持つ銃を1発、無造作に片手で撃ちながらも考える。
弾道などといったモノは見る必要すらない。どうせ当たる。
今考えるべきは、どうやったらボスを足止めできるかという点だ。
私の現在の火力では、ボスを倒すには恐らく足りないだろう。
リックやクリスでもそれは同様。
……ジャバウォックを出すと、戦線が崩壊する可能性がある、か。うーん困っちゃうね。
最大火力を出そうにも、周りに与える影響が多すぎるためにここで出すことはできない。
考えている間にも、ボスの攻撃は止まらない。
その巨大な身体で突進して来たり、深影魔術のように影を操ってきたり。
今はリックに結界を多重展開してもらうことで何とか耐えているといった状況だが……いつまでもは保たないだろう。
では、どうするか。
今私にできることといえば。
「はっはっは、まぁ決まってるよね。……リックくん、クリスちゃん!ちょっと詠唱に入る!注文が多くてすまないが、その間頼んだよ!」
彼らはこちらへと頷き返してくれる。
私もそれに返さないといけないだろう。
「【さぁ、見ていくがいい】【今宵開演するは、誰もが聞いたことのある物語】」
一言一言に魔力を乗せ、この空間自体に染み込ませるように、聴こえるように、受け入れられるように私はその言葉を紡いでいく。
クロエや灰被りたちがこちらへと追いつくまでの時間稼ぎ。だが、ただの時間稼ぎで終わる気も全くない。
「【目を、耳を、そして体を】【その全てをこの劇に】」
手に持っていた銃が光となって消えていく。
この派生魔術を使う場合、元々展開していた【童話語り】は解除される。
当然だ。この派生魔術を使った後なら、実際【童話語り】を使う必要はないのだから。
「【――開演の時間である】【劇場展開 - 赤ずきん】発動」
そうして私は発動する。
その瞬間に、私の手には新しく巨大な本と羽ペンが出現した。
それを開く。すると、中には周囲にいるメンバーに加えボスや今まさに沸いてきているシャドウウルフの名前までもが書かれていた。
現在、彼らの名前の横には『未設定』としか書かれてはいない。
「まず、こっちから弄っていこうか」
リックとクリスの名前の横に『猟師』と書き加える。
すると変化はすぐに訪れる。
「えっ!?」
「な、なんだこれ?」
彼らの頭には物語の猟師などがよく被っているハンティングキャップが出現する。
これで付与は完了だ。
次に、私の名前の横には赤ずきんと。ボスの横には狼と書き加える。
違いが感じられないかもしれないが、これでいい。
【劇場展開】は巨大なバフデバフを付与するだけの派生魔術だ。
しかし、バフデバフといってもこちらからはどんな効果があるかわからないものを、だが。
この派生魔術を使うと、私の手には巨大な本と羽ペンが出現する。
そして先ほどやったように、周囲のプレイヤーやモンスターの横に役職を書くだけなのだ。
書ける役職は様々だが、2つ絶対に敗れないルールがある。
1つ目、これは【劇場展開】を発動時に指定した童話に出てくるキャラクターしか役職には設定できないということ。
今回でいうならば、童話『赤ずきん』に出てくるキャラクターしか設定できないということだ。
2つ目は絶対に悪役を設定しなければならないということ。
童話には悪役と呼ばれるものが登場する物語が多く存在する。この【劇場展開】で指定できる童話は、そんな悪役が出てくるような物語でないといけないのだ。
今回は童話『赤ずきん』に登場するヒーロー役『猟師』と、ヒロイン役『赤ずきん』、そして悪者である『狼』。
これらを設定したことによって、この【劇場展開】の効果が発揮される。
「お、おぉ?身体が軽く……」
「すごい!勝手に弓が相手に吸い込まれて……!」
『人間……小癪な……』
「はっはっは、これも人間の生み出した知恵の集合体さ。さぁ、猟師さん。あのわるーい狼さんをやっつけてくれるかな?」
応、と二人が声を上げボスは少しずつその勢いが削がれていく。
私はというと……動くことができないために、それを見ていることしかできないのだ。
【劇場展開】、そのデメリット。
発動中、私は役職設定、会話以外には身体を動かすことができなくなる。
このWOAというゲームでパーティプレイ前提の派生魔術なのだ。
いや、この派生魔術を持っているからこそ、今回の戦争で傭兵としてドミネ側に駆り出されているのかもしれない。
と、なるとだ。
……相手は、彼らだろうなぁ。
私は、リックとクリスがボス相手に攻撃を加えるのを遠目に、これから起こる戦争について考えていた。
ダンジョン攻略は、まだまだ続く。