潜って行こう、その中に
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一回やってみよう、ということで適当にシャドウウルフが出てくる影を探し、蹴散らした後に潜ってみることになった。
一応すぐに離脱できるように馬車内に【チャック】を設置し、こちらが発動し連結すれば外に出れるようにしておく。
ボスがいた場合、馬車内の【チャック】を解除し、入ってきたあたりへと展開し直す手筈となっている。
「じゃ、行きます。【深影ー影化】」
「何かあったらすぐに帰ってくるんだよー」
赤ずきんの声を聴きながら、私は影の中へと潜っていく。
右手には護身石の短剣、左腕には【魔力装】を薄く纏わせている状態で、いつでも戦闘できるようにはしてある。
影の世界へ入り、自分の入ってきた方向へと視線を向けると、数多くの出入り口があるのが確認できた。
やはり影の世界から、多くのシャドウウルフが第2階層へと出てきていたのだろう。
ある程度潜っていくと、普段影の中へ入ったときには感じない足元への堅い感触があり、カツンと立つことが出来た。
「……あは、こりゃビンゴかな?」
『我の領域へ土足で入ってきた無礼者よ……』
そして何処からか響く、重くしわがれた男の声。
いや、これは恐らく男の声というよりも雄の鳴き声といったほうがいいだろう。
【チャック】を手筈通りに展開し直し、連結させる。
赤ずきんたちを呼び込むためだ。
『汝、覚悟を決めよ。生贄を捧げよ。その御霊捧げよ』
「ありがと、クロエちゃん。一発ビンゴだね」
「いえ、とりあえず今ボスの登場演出中ってことですよね。今のうちにバフとかやっておきましょうよ」
「それもそうだねー、じゃあ一気に片付けちゃおう。頑張ろうか皆」
その赤ずきんの言葉で、各々掛けられるバフをかけていく。
灰被りは灰被りで私に以前かけてくれたバフを今度はPT全体に対しかけている。
おそらく元々は複数人数強化系の固有魔術か何かなのだろう。
珍しいものもあったものだ。
私も思考行使によって【禁書行使】の棚を召喚し【身体強化】をかけておく。
今まで意識してこなかったが、もしかしたら【憤怒】状態時に生じる靄に何かしら味方に悪影響かかる可能性もあるため今回は使わない。
バフとは違うが、今回は【白霧結界】も使う予定はない。
味方の視界を制限してまでほしいデバフ効果と言われれば、そうではないからだ。
『……良いだろう。我自ら相手をしてやろう』
そのセリフが聴こえると共に、周囲の影が集まり巨大な狼を形作る。
それを見た私たちは、そのまま攻撃を開始した。
ボス戦闘の開始だ。
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ボス戦、といっても今回は1人で戦闘するわけでもないし、そも周りにいるメンバーは私よりもプレイ歴が長い連中だ。
ならば、ということで。
私は『静謐な村』で最初の戦闘でやったことをやることにした。
『ぬ、うぅ?!』
【チャック】にてボスの背中あたりへと移動し、そこから【魔力装】にて魔力の刃を形成し、攻撃する。
一応効いてはいるように見えるが、傷は浅い。
そのまま一度、ボスの背中を使って【チャック】を再展開し元の赤ずきんたちがいる場所へと戻っていく。
「お帰り」
「どうも、浅めにしか入りませんでしたよ。硬いっていうか、実体がある感じの通らなさです」
「んんーやっぱりそんな感じなのかぁ。解析させたいけどジーニーは今事務仕事中だし……うん、とりあえず【童話語り ー 赤ずきんより猟師を付与】」
赤ずきんがいつも通り固有魔術を発動させると、自動単身銃がどこからか出現する。
ほかの皆もそれを皮切りに攻撃を開始する。
「さて、とこっちもまたやるよグリンゴッツ」
『了解、本当に深影魔術を借りていいんだな?』
「問題ないよ、ちょっと試したいこともあるしね」
そういうと、グリンゴッツはそのまま何本かの【影槍】を出現させ、そのままボスへと射出する。
私はというと、だ。
【霧海】をできる限り展開、そして【魔力装】にてまた新しい武器を作ろうとしてやめる。
……ちょーっと今少し余裕あるだろうし、試したいことを試してみても、いいよね。
「【遠隔装作】発動」
【魔力装】の派生魔術である【遠隔装作】を発動させ、イメージしやすい短剣を作ってみる。
すると、だ。自分の目の前に1本浮いた状態で魔力で出来た短剣が出現する。
【霧海】の魔力感知的には、少しずつ魔力が抜けていっているらしいが、普通の【魔力装】みたいにすぐに消えることはないようだ。
その浮いた短剣を手に取ろうとして、すり抜ける。
それと同時に、システムメッセージ的なログが出現する。
『装備することができないアイテムです』
「……ふむ」
ということは、だ。
このまま浮かせておいても仕方ないため、射出するしかないだろう。
槍を飛ばすときと同じ要領で飛ばしてみると、ボスの方向へと素直に飛んでいき、薄く切りつけることができた。
イメージ的には何処かの王様が使うような武器射出だろうか。
それならば、ということでできる限りの直剣を出現させてみる。
「えーっと……14本。これが限界値ね」
私の周囲に出現した14本の魔力で出来た直剣。
それを全て一斉に打ち出そうとしたところで、感知が複数の影を捉えた。
見れば、影の中からシャドウウルフが召喚されていっているではないか。
「あー……やっぱりそういうのあるよねえ……」