影を探すなら
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ちらと、車内から外を見る。
第2階層に入った時と同じような光景が流れるように過ぎていく中、所々に魔力を持つ者らがいるのが分かる。
双頭狼が大体人の腰ぐらいまでの大きさがあるとすれば、それは人くらいの大きさはあるだろう。
見た目は薄黒い狼だ。しかし、透けている。
灰被りが言うには、シャドウウルフという全身影のモンスターらしい。
常時深影魔術を使っているようなもののため、【魔力視】が出来るなら発見自体は楽に出来るとの事。
「うーん、やっぱり見つからないですね。シャドウウルフ達が邪魔ってのもありますけど」
「こっちもダメー。一回赤ずきんさんに止めてもらって、歩きで探してみるとか?」
「それやってもいいですけど、恐らく第1階層みたいな群れとの戦闘になりそうですよね」
外を見ながら、車内にいる私とクリスと灰被りは話し合う。
リックに関しては、何やら赤ずきんに気に入られたようで、よくよく連れ出されているため、今も御者台の方にいる。
すると、だ。
コンコンと窓をノックされた。
「……は?」
外には誰もいない、というか私たち以外に人を見てはいないのに窓をノックされるという状況がまずおかしい。
私は2人に目配せし、若干【霧海】を展開させながら窓を開ける。
するとだ。
にゅっ、と上から何者かが飛び出して来たため咄嗟に【魔力装】で手に魔力の刃を作成し貫手の要領で攻撃し、止められる。
「おいおいおーい、流石にちょっと殺意が高いんじゃないかーい?もうちょっと気を抜いていこうぜ」
「……赤ずきんさん?」
よくよく見てみれば、その何者かは赤ずきんだった。
いつの間にか御者台から上に移動し、そこから伝って窓にノックしたのだろう。
「いや、こちらも悪いですけど、せめて一言言ってくださいよ……」
「すまないねー、上のほうが見渡しやすいから。でも見つからないんだよね、ボス部屋っぽいところ」
馬車の上部から垂れ下がっているので、こちらから見れば上下反対の赤ずきんが苦笑いを浮かべている。
しかし、第2階層に入りしばらく馬車にて探索をしているのに見つからないというのは少しおかしい。
「……あっ」
「んん、どうしたの灰被りちゃん」
どういうことなのだろうか、と考えていると突然灰被りが声を上げる。
どうしたのかと御者台にいるリック以外の全員が視線を灰被りへと集めると、少し彼女は恥ずかしそうにしながら話し始めた。
……あんまり注目されるのには慣れてないのかな?
「もしかしてなんですけど、この第2階層自体がボス部屋って可能性は……?」
「あーそのタイプ?いやでもなぁ……クリスちゃんちょっと確認いいかな?」
「はい?なんです?」
灰被りの言葉を聞いた赤ずきんは少し真剣な顔をしながらクリスにあることを聞いていく。
『静謐な村』の階層数と、以前不死系モンスターが出現していたときの第2階層の様子だ。
思えば、彼女とリックは一度ここに訪れているはず。
それなのに第2階層の……今も流れるように過ぎていく永遠に燃え続ける村の光景をみて、悲しみはすれど、驚くというのは少しおかしい。
「……確かに、私たちが以前探索した時とは階層の形が変わっています。なので、階層数が変わっている可能性もないとは言えないかも……」
「あっちゃー……ちょっとやってしまったなぁ。うん、多分これ階層数変わってるね。以前は合計で3階層あったんだっけ?」
「そうですね……」
話をまとめるとこうだ。
現在の『静謐な村』は階層の様子、そして数が通常時とは変わっている。
原因としては……赤ずきんがいうにはゲームの仕様なのだろう、とのこと。
普段ダンジョンに潜らないメンツが集まったために、ダンジョン系に対するアップデート情報を流し見していたのが仇となった形だ。
また、恐らくだが現在いる階層がボス階層……私が『妖光の館』の第3階層で遭遇したような、ボスとの戦闘のみの階層なのではないか?とのこと。
だが、それだと所々にいるシャドウウルフは何なのか、ということになる。
「んー……多分だけど、彼らはボスの眷属とかに当たるんじゃないかな?ボスが生み出し続けてるっていう設定なら、彼らがどこからか沸いてくるのには説明が一応つくだろう?」
「ふむ。じゃあ今回のボスは少なくともシャドウウルフを支配下におけるくらいには強いってことですか……。それも大量に生んでも問題ないほどには」
「ってことになるねぇ。しかも、シャドウ系ってなると上位種になればなるにつれて、物理攻撃は通らなくなっていくはずだから、ちょっと面倒かな」
モンスターも、種類によって様々な特徴がある。
例えば今回この『静謐な村』に根付こうとしているウルフ種は、基本的に群れで行動したりなど、現実の狼と似た特徴を持つ。
ゴブリン種ならば、知能が少し高いため、道具や魔術を器用に使ったりフィールドに罠を張ったりなどだ。
ではシャドウ種は?というと。
簡単に言えば、物理攻撃がほとんど効かなくなっていくのだ。
身体が影で構成されているため、物理よりも魔術を使い吹き飛ばすという方法をとらなければならない。
狩るのが上手い人は、強い光源を当て動きを止めて吹き飛ばす……という方法を取るらしい。
「というか、奴らが出てきてるのって影、ですよね……」
「そうだね。……影の中、うん十分あり得る」
「影の中に入るのってどうすればいいんでしたっけ?」
「あぁ、それはあれかな。深影魔術持ってる人なら、それを使って。持ってない人は持ってる人の開けた入口、もしくは別に用意された本来の入り口から入る形になるかな」
と、ここで3人の視線が私に向く。
深影魔術は確かに存在を確認されてはいるが、そこまで流通している魔術かと言われればそうではない。
どうやら第2階層、ボスを探す役目は私に託されるようだった。