馬車に乗って流れる景色を
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静謐な村 - 1F
かぼちゃの馬車で群がる双頭狼を蹴散らしながらボス部屋……というか、一軒だけ魔力を纏った家を見つけることができた。
大きさ的にも、村長の家か何かだったのだろう。
「降りるの面倒だし、このまま突っ込んでみようか」
「えっ」
何やら御者台の方から不穏な会話が聞こえる。
赤ずきんとリックがいたはずだが、やはりリックではストッパーにすらならないという事だろうか。
「赤ずきんさん止めなくて大丈夫ですかね?」
「えーっと……はい、その、多分……」
私達と一緒にいる灰被りに聞いてみるが、彼女にしては歯切れの悪い返事だ。
恐らく彼女もこれまで似たような状況を体験してはこなかったのだろう。
ある意味で幸運だ。
そんなことを話していると、突然衝撃が走る。
……本当に突っ込んだのか!
グリンゴッツがどっかに行かないように掴みながら、とりあえずということで【魔力装】で自分も倒れないよう抑えつける。
他の2人も何かしらには捕まったりしているようで、怪我などはしていないようだ。
そしてしばらく揺れが続いたかと思うと、一際大きな衝撃が走り、その後馬車自体が止まったようだった。
「やぁ、3人共。大丈夫かな?」
「……だ、大丈夫かー?」
ガチャ、と扉が開き赤ずきんと疲弊したリックが顔を覗かせる。
リックはリックで頑張っていてくれたのだろう。
衝撃などで馬車自体が壊れなかったのは、恐らく彼が結界か何かを張って護っていてくれたからなのだろう。
彼には感謝だ。
「あは、これで大丈夫に見えますか」
「ははっ、相談しようと思ったけど好奇心の方が勝っちゃった。ごめんね」
「あ、あの、ボスは……?」
クリスがそう質問すると、赤ずきんは馬車の後ろの方を指差す。
馬車から降りてみると、そこは家の中では無く草原のような場所だった。
しかしよくよく見てみると、ポツンと暖炉やらソファなどが草原のどこかしらには設置されていることが分かる。
指で示された方へと視線を向けてみると、そこには若干ギャグテイスト気味に潰れた大きな狼が1匹転がっていた。
動く様子は無く、恐らく既に絶命しているのだろう。
あの状態では、魔石も潰れてしまっているだろうし、他の素材も損傷が大きくて使い物にならなそうだ。
ちら、とグリンゴッツをみるが首をブンブン横に振って拒否された。
……やっぱりだめかー。
仕方なし、ということで素材は諦める。
クリスと灰被りも苦笑い気味でボスらしき狼の成れの果てを見ている。
「っと、馬車を止めたってことは階段か何かあるので?」
「うん。流石に階段は馬車じゃいけないし」
というわけで、赤ずきんに案内される形で第2階層への階段を見つけた。
見つけたのだが……。
「これって……」
「ははっ、そうだよ。床下収納さ。私も流石にそんな所が第2階層への入り口になってるとは流石にね」
赤ずきんが床下収納を開けると、其処には下へと続く梯子があった。
下の方は見えず、ここ以外には階段や下に続くようなものも見当たらないため、これで合っているのだろう。
話し合った結果、私が最初に降りることになった。
広範囲索敵、傀儡持ち、あとはいざとなった時に【チャック】で戻ってこれるためだ。
そうして私は、頭にグリンゴッツを乗せて梯子を降りていった。
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静謐な村 - 2F
そこは、第1階層の村が焼かれている……そんな光景が広がっていた。
想像はしていたが、これは案外キツイ。
このダンジョンは、『村があった』という過去がダンジョン化したものか?と赤ずきんがここに入る前に言っていた。
それが正しいのならば、下に行くにつれその村は崩れていくのではないか?
妖光の館の様に、廃墟へと変わって行くのではないか?
それくらいは考え付いた。
考え付いてはいたのだが……。
「何があったにせよ、かな。とりあえず黙祷しとこうかグリンゴッツ」
『意味があるとは思えないが……ご主人が言うならば』
そうして黙祷を捧げてから、赤ずきんたちを呼ぶ。
周囲には特にモンスターの姿も無く、一応は安全の様に見えるからだ。
赤ずきんたちもこの光景を見て驚いたようだったが、各々直ぐにやるべき事を開始した。
といっても、赤ずきん以外は周囲警戒くらいのため、私と同じ様に黙祷したり祈りを捧げたりしていた。
ゲーム内だからといって、NPCだからといって命は命だ。
このダンジョンがそういう設定だったとしても、一応はかつてそこに居たはずの彼らに対し敬意は払っておいたほうがいいだろう。
私たちはこれから、その彼らの村を荒らすのだから。
「準備はいいかい?皆」
赤ずきんから声がかかり、また馬車に乗って出発する。
そこらへんに出現するモンスターには申し訳ないが、こちらの方が断然速いため許してほしい。
こうして、燃える村の中の探索が始まった。