彼の者は
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12月9日!自分の目標だった1日のアクセス数1万を達成しました!
何やらまとめサイト?に紹介されていたようで……。
みなさん、ありがとうございます!
これまでも読んでくださっていた方も、つい最近この作品を知った方も、応援よろしくお願いします!
ここで、鏡の国のアリスという物語の話をしよう。
鏡の国のアリスは、1871年に発表されたルイス・キャロル氏の児童小説だ。
勘違いしやすい人は多いが、鏡の国のアリスと不思議の国のアリスは続編関係にある。
鏡の国のアリスは、不思議の国のアリスの後に発表された作品で、主人公のアリスが鏡を通り抜け鏡の国へと行く話だ。
その中に、『ジャバウォックの詩』というものがある。
この詩は、ジャバウォックという正体不明の怪物が、名無しの主人公によって倒されるというものだが……しばしば、これは秀逸なナンセンスな詩ともいわれている。
そんなナンセンスで秀逸な、興味深い詩に登場するジャバウォック。
その怪物の見た目は、細いドラゴンのようだったり、巨人のようだったり、モノによってはただの中年男性の姿で描写されているものもあるくらいだ。
さて。
では赤ずきんの使う【童話語り】によって召喚される『ジャバウォック』は一体どんな姿なのか。
「こ、れは……」
「腐敗した、西洋竜……?」
そう、赤ずきんの背後には私たちの3倍はありそうな巨大な……それでいてその身体が、肉が腐敗した西洋竜が召喚された。
細いドラゴンではなく、かといって巨人でもない。あからさまに中年男性では決してない。
『……』
「あぁ、ジャバウォック。やっていいよ。久々の魂狩りだ」
赤ずきんがそう言うと、ジャバウォックはその腐敗した翼で赤ずきんの背後から飛び立つ。
周囲にいるはずの双頭狼も、私たちも、決して動くことはできなかった。
それでいて、ジャバウォックから目が離すことができなかった。
……これは、デバフ?【恐怖】が多重に掛けられてる……ってこれもしかして。
ジャバウォックを見る。それだけで耐性をものともしないデバフを与えてくる存在。
そして圧倒的な存在感で、その身体から目を離させない。
ジャバウォックは私たちのことなんて気にせずに、双頭狼たちを喰らっていく。
1匹1匹なんて野暮なことはせずに、一度に5匹と豪快に。
その結果、みるみるうちに私たちの周囲にいた双頭狼たちは数を減らしていき……そして今。最後の1匹がその腐った口の中へ吸い込まれていった。
「ありがとうジャバウォック。還ってくれ」
そして赤ずきんの声で光となって消えていく。
赤ずきん自身は召喚者だからなのか【恐怖】にかかっていないようで、問題なく動けている。
「ふぅ、終わったね!いやぁ申し訳ない、彼を召喚するといろんな意味でこっち側もピンチになっちゃうからね。迂闊には出せないんだ」
「……だからって、一言は言ってくださいよ」
「それについては本当に済まない。ほら、クリスちゃんもクロエちゃんも大丈夫かい?」
「あっ、ありがとうございます」
いつの間にか腰が抜け、立てなくなっていたクリスを赤ずきんが立たせる。
周りを見ると、リックのほうは灰被りに起こされているようだ。
グリンゴッツはというと、彼は私の近くで【魔力装】による刃を生成しつつ、私を護るように立っていた。
『ご主人?』
「あぁ、いや。うん、ありがとねグリンゴッツ」
彼を抱きかかえ、皆が集合しているところへと走っていく。
グリンゴッツは何も言わないが、彼は彼なりに私を護ってくれようとしたのだ。
「あは、みんな大丈夫です?」
「うん、大丈夫。クロエさんもケガとかしてない?私は腰抜けちゃったけど……」
「大丈夫ですよ、掠り傷くらいならすぐに治るんで」
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とりあえず、ということでこのまま周囲を警戒しつつ此処で休むことになった。
現実ではないため、血の匂いでモンスターがやってくることもない。
一応リックが結界を張ってはいるが、おそらく問題はないだろう。
近くにある無人の小屋の中で、椅子に座りつつMPポーションをぐいっと一気飲みする。
ある程度回復したらまた攻略を再開するとのことだが、流石に次は先ほどのような群れとの遭遇はないと思いたいが、この『静謐な村』を現在狼系モンスターが根城としているのならば。
むしろあのような群れに対する対処法が多くあったほうがいいだろう。
私の場合、【分裂槍】程度しか大勢に対する手札がない。
これから大規模戦闘イベントである国家間戦争が始まるというのに、これでは不味いだろう。
新しい何かを考える必要があるのかもしれない。
「おや、悩み事かい?」
「赤ずきんさん。そうです、少しだけ悩んでまして」
「ほうほう?恋の悩みかな?お姉さんに話してみなさいよ」
「どうやったら広範囲の生物を効率的に殺せるかなって」
そう言うと、赤ずきんはドン引きしたような顔をする。
……おや、何か言葉のチョイスを間違っただろうか。
「いや、間違えました。ただ、大量殺戮をしたいだけなんです」
『ご主人、言い回しは変わったがそれではただの危険人物だ』
「えっ」
グリンゴッツに指摘され、赤ずきんが乾いた笑いをこぼす。
きちんと説明したつもりだったが、そうではなかったようだ。
もう一度説明してみよう……。