報告と、連絡
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本日2話目です。
ドミネ首都 レギン - AM
ダンジョン攻略翌日。
あの後ハロウに対し連絡を入れたものの、昨日は都合が悪いらしく報告は今日にしてくれと言われたために私は現在コロッセウムへと訪れていた。
近くには【五里霧】で姿を隠したグリンゴッツも一緒だが、コロッセウムに張られているらしい特殊な結界のおかげで、中に入ろうとすると姿を隠すような固有魔術や汎用魔術の類は強制的に解かれてしまうらしく、近くの隠れられる場所にいるとのことだ。
いざとなったら、グリンゴッツの隠れ場所に設置した【チャック】とこちら側で設置した【チャック】を連結させてしまえば、逃げにも攻勢に出ることもできる。
普通、街の中の施設に行くのに用心はあまりしないのだが、現在は戦争中。
いつどこから敵国であるファルシからの刺客が街を襲うかわからない。
いつも以上に用心するに越したことはないだろう。
現在、私がいるのはコロッセウム内のスタッフルームというべき場所だった。
基本的にここで運営スタッフが様々な作業をするらしいのだが……今日はコロッセウムの試合自体が午後からしかないため、朝である現在はスタッフもそこまでいない。
私とハロウはお互い向き合い、机を挟んで座っている。
「……というわけで、中に居たゴブリン達に関しては感知も使って見つけられる分は全部潰してきました」
「ふふ、ありがとう。私がいければ良かったのだけど、助かったわ」
「いえ、ハロウさんにはお世話になりましたし。あ、討伐確認用の魔石とかはどうします?渡したほうがいいなら今出しますけど」
インベントリ……というよりも【チャック】から魔石を取り出そうとした私を、ハロウは片手で止める。
「あぁ、それについては問題ないわ。貴女ならきちんとやるって信じて頼んだわけだし。そもそも信用できなかったらこんなことは頼まないわ」
「それならいいですけど……。ちなみになんですけど、質問いいですか?」
「えぇ、なんでもいいわよ」
なんでも、と言われてしまうといろいろ他の事を聞きたくなってしまうが、まず一つ。
ダンジョン攻略中にも気になっていたことを聞くことにする。
「確か妖光の館って、ゴブリンがポップするようなダンジョンじゃないですよね?どっちかと言えばアンデッド……この前のグリム達が召喚したようなモンスター達のダンジョンだった記憶があるんですけど」
「あぁ、そうね」
そう、妖光の館の内部モンスターの違いだ。
事前に調べたものとは違い、中には多くのゴブリン種が蔓延っていた。
ゴブリン種の大量発生とでもいえばいいのだろうか、それが今回私に頼んだ理由だとすれば、私にはその理由を聞く権利がある。
「確かに、今……というよりもここ最近の妖光の館を含めた、近隣のダンジョン内のモンスター分布は変わっているわ。普段なら外から入ってきたモンスターがそこに根付いてーっていうのが一般的な異常なんだけど」
一般的な異常……。
まぁそれは良い。今はあまり重要なことではない。
「あの時のレギン襲撃事件。あれから結構レギン周囲のダンジョン内のモンスターが変わっちゃって。具体的に言うならアンデッド系のモンスターが一切現れなくなっちゃったのよ」
「一切……?というか襲撃事件以降ってことはもしかして」
「えぇ、十中八九【童話の人物】達が大量召喚したのに起因するでしょうね。他の原因がないか、一応探してはいるけど……まぁ見つからないわ」
どうやら独自に動いて調べているようだ。
……確かに、あの時の不死系モンスターの数を考えれば無理もない、のだろうか?まだそこらへんの事情がよく分かってないから迂闊に言えないな。
「あ、もう一つ質問がーー」
ここでピロン、とシステム音が鳴り私とハロウの前にログが出現する。
その内容は。
「……全面戦争開始?」
「あら、一気にそこまで進んでしまったのね」
私は疑問、ハロウはある程度予想できていたかのような声をだす。
襲撃事件から少し時間が経ったとはいえ、ここまで早く全面戦争……プレイヤーたちでいうならば、敵国所属プレイヤーとの大規模戦闘イベントの開始は時期としては早いのではないだろうか。
次いでハロウ側には同じように運営側からのメッセージが、私にはガビーロールからのメッセージが届いた。
……このタイミングでガビーロールさんから?
疑問に思いつつ、メッセージを開いてみる。すると、だ。
『やぁやぁクロエさん。
この度はうちの国とそっちの所属する国が全面戦争になってしまったね!
メッセージは送信制限になる前に無理矢理送ったものだから、心配しなくとも大丈夫さ。
これからもしかしたら戦場で会うこともあるかもしれないが……よろしくね!』
「は、はぁ……?」
内容は、彼にしては簡素で静かでいて……それでいて。
彼が敵になったのだと、彼を討ち倒す必要があるのだという事実を教えてくれていた。
ちら、とハロウを見る。
彼女は真剣な眼差しで運営からのメッセージを確認しているが、ふと顔をあげてこちらへと微笑んだ。
「ふふ、大変なことになったみたいね」
「……はい。ハロウさんはガビーロールさんがファルシ所属って事知ってました?」
「えぇ、知っていたわ。というか彼とは身内だもの。昨日も一緒に夕飯を食べたわ。……っと。これから私ちょっと呼ばれたから行ってくるわ」
「呼ばれた?誰にです?」
そう聞くと、彼女は微笑んだまま立ち上がりこう言った。
「王様よ、国王様。一応私もこの国所属のプレイヤーの一人だから」
彼女はそのまま手を振り、スタッフルームから去っていった。
私は突然始まったイベントに実感が沸かず、暫し一人で椅子に座ったまま固まってしまっていた。