不思議な館、考えたこと
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不思議な館 F1~F2
ドゴンッ!!!
叫び終わると、それは私が昇り終わった階段の中腹…丁度1階と2階の中間にあたる空間に出現した。
いや、出現したというよりは。
遥か上空から降ってきた、と言う方が正しいのかもしれない。
今いる館は屋根付きで、もちろん空から降ってくる…というには現実的にはなんとも言えない感じなのだが、まぁそれはそれ。今はゲーム内の世界だ。
「これは本棚……だね」
そう、本棚だ。
しかし普通の本棚ではない。鎖で雁字搦めにされているのだ。
禁書にはアレ、とかソレとしか書かれていなかったから、禁書カテゴリに出てきた魔術名で棚が出てくるのはわかっていたが。
ゾンビは一瞬それに呆けたが、破壊すればいいと思ったのかそのままこちらへ迫ってくる。
「あの棚の使い方はーっと…どこだどこだ」
それを横目で見つつ、禁書を取り出し棚の使い方が書かれている項を探す。
使い方くらいきちんと覚えた状態で使えればよかったのだが。
「よっし見つけた!展開【強化魔術一節】!」
いつか始まりの森で見た、赤ずきんの魔術と似た口上を上げる。
私の言葉に反応してか、棚から一冊こちらへ飛んでくる。
禍々しいオーラを放っているソレは明らかに禁書。
ゾンビはその本を見た瞬間に反応をする。
「ァァアアアアアア!!!」
「おっと、時間もないな」
【強化魔術一節】。
今は【鑑定】をしている暇がないから、召喚した本棚の中にどんな本があるかはわからない。
だが、元々持っていた禁書の中で度々出ていたのがこの本のタイトルだったのだ。
『一時的に【禁書行使】にて【強化魔術一節】が行使できるようになりました』
ログが出てくるが、正直今はわかりきってるのでどうでもいい。
「【禁書行使-強化魔術一節】展開」
手元の本を開き、【禁書行使】にてその本に込められた魔術を行使する。
その瞬間私の身体は、自分で強化魔術をかけた時よりも軽く、そして力が湧いてきた。
しかしその分、頭が痛くなる。デバフとして【頭痛 Lv3】【異常強化 Lv1】がついていた。
禁書を使うことによってのデメリットだ。
しかしその分、明らかに強力なバフを自分にかけることができた。
ゾンビはいつの間にかすぐ近くまで来てその巨大な腕を振り上げていたが、禁書によって強化された私にそれはかなり遅くみえた。
私はゾンビの腕を少しの動作で避けると、短剣を叩き付ける。
ダメージエフェクトが出たため、ダメージは入ってるようだ。
【怠惰】の方は…これ何回かダメージ与えないとダメそうかな?
ゾンビが攻撃してくるのに合わせ、こちらの攻撃を入れすぐに離れる。
確かこういう戦術の事をヒットアンドアウェイ戦法とかいうんだったか。
対人でやるには途中から対策が取られそうだが、今相手にしているモンスター相手に近接戦闘を仕掛けるにはもってこいの戦法かもしれない。
近接ダメージ反射とかいうのがなければ、の話だが。
「思ったけどこのゲーム、プレイヤー対戦の方に特化しててモンスターのAIとかあんまりちゃんとしてないのかな…?」
元々WOAというゲームは、プレイヤー同士を戦わせることに重きを置いているように感じてはいた。
しかし、今までの少ない戦闘経験でもそれが事実そうなのではないか、と感じてしまうほどにモンスターの動きは単調なのだ。
「あ、【怠惰】やっと入った」
と、そんな考え事をしながら何度か攻撃をしていたら、ゾンビに【怠惰】が入ったようで、見るからに動きが悪くなる。
このまま短剣で攻撃していれば、特に問題なく倒せるだろう。
「ガァアアァア!!!!!!!」
「!?」
しかし【怠惰】が入った瞬間、ゾンビの動きが変わる。
いや、動きというよりも…
「なんで腕が生えてきてるの!?キモイ!!」
デバフが入ったのがトリガーだったのか、単にHPが少なくなったからなのか。
正面に立っている私から見て、ゾンビの背中側から腕が二本生えてくる。
動きが遅くなったらその分手数を増やすっていう対処をとったということなのだろうか。…AIとかちゃんとしていないっていう話をした後にこんなことになるとは思わなんだ。
「あーもう!めんどくさいなぁ!【錬成-範囲変異】発動!」
自棄になりつつ、【範囲変異】にて落とし穴を作っていく。あくまでゾンビの足止め用、ワーウルフの時のようにトラップで倒すというのは巨大すぎて無理だろう。
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ヒットアンドアウェイ戦法を繰り返しつつ、【範囲変異】などで動きを止めておく。
腕が増えた時は焦ったが、戦闘の流れ自体はあまり変わらなかった。
「うーん……戦闘に関して楽しみたかったら早めに始まりの街とかから出たほうがよさそうだなぁ」
PKされるのもPKするのもあまり好きではないが、こんな世界観のWOAだ。
どこかの街にデメリットなしのお遊びとしてのコロシアムなんかがあるだろう。
ちょくちょく【鑑定】を使って相手のHPも確認しておく。【鑑定】する時のイメージを相手の情報を識る、というものから相手の現在の情報を観るというイメージにするという形で。
「これで終わりッ!」
ゾンビの大きな身体に木製の短剣を突き立てる。
それにより、残り少なかったゾンビのHPがすべて削り取られ、光となって消えていく。
イベントモンスターのためか、元々死体のようなものだったからか、死体が残らずそのまま消えていった。
『イベントクリアおめでとうございます。出口を用意しましたので、そちらから出ることで元のフィールドへ帰ることができます』
ログも出たことだし、イベントはこれで終わりなのだろう。
一応、館の中を漁りに漁ってから街に戻ることにしよう。