考え、行動して
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「危ないグリンゴッツ!」
『なっ!?』
咄嗟に彼の身体を突き飛ばす。
私自身は何故か彼が使っていなかった【魔力装】にて身を守る。
ガキン、と大きな音がしてゴブリンキングの攻撃が弾かれた。
【チャック】によって近づいてみたらこれだ。
危なかった。
「何やってんの、戦闘中にボーッとしてるなんて」
『ボーッと……?いや、確かに私は今!』
「トドメを刺した、とでも?」
彼は頷く。
彼がこんな状況で嘘をつくとは思えない。
ならばどういうことか。……簡単だ。
「幻術……これまた面倒な」
幻。
恐らくグリンゴッツがトドメを刺したというのは幻術の中でのことなのだろう。
しかし、どのタイミングから幻術にかかっていたのか、それが分からないのだ。
魔術は使えば、いやでも魔力が出てしまう。
ならば、それを感知することで相手が魔術を使ったかどうかが分かるというものだが……。
ちら、とゴブリンキングの方を見る。
腕から赤黒い魔力を垂れ流しているのは変わらず、それでいてグリンゴッツを仕留めにきた時以外はまたも動いていない。
「赤黒い……魔力……?」
そういえば、あの赤黒い魔力を出している【王として】という魔術の効果はなんなのだろうか。
ステータス強化、だけとはやはり思えないのだが……。
と、ここで1つの可能性に行き着く。
「まさか、あれ自体が幻覚?いやでも、それだったら……」
今、私も幻術に掛かっていることになる。
いつから?
いやそれよりも、まず幻術にかかっているのならば、それを解くのを優先せねばならないだろう。
しかし、突然幻術と言われてもどうすれば良いのか分からない。
周りで使った人間がいたわけでもないし、存在は知っていたが、持っているわけでもない。
ならば、ということでゴブリンキングではなく玉座……周りにあるものに攻撃してみる。
【影槍】に【爆裂槍】、【分裂槍】の2つの性質を持たせたモノを射出し、出来る限り広範囲にだ。
漫画やアニメで見たことある幻術の解除の仕方だ。
「あは、確か漫画とかだとこうやって負荷を掛けまくれば幻術って崩れていくんじゃなかったっけ!」
先程まで撃っていた【影槍】は、【分裂槍】のみの為、今現在撃っている【影槍】よりも負荷は少ない。
但しそこに【爆裂槍】の性質を加えたものは少し……いや、本来数撃つものでは無いのだ。
オンラインゲームということである程度無茶できている部分があるが、矛先に爆弾つけた無数の槍が数を増やしながら、周囲の空間に射出されているのだ。
負荷がかからないはずがない。
『ご主人……意味がないとは言わないが……』
「あは、良いんだよグリンゴッツ。まぁ負荷に関しては何かしら後で言われるだろうけど、本当の目的はそっちじゃないから」
『と、言うと?』
「私もグリンゴッツも掛かった幻術?白昼夢?まぁどっちでもいいけれど。そんなもんを維持するには結構魔力を消費するはずだよね」
私は【影槍】を周囲にばら撒きながら、グリンゴッツへ問いかける。
正直、既に動いていないゴブリンキングに対しては考えないことにしている。
「それに、全てが全て幻なら……グリンゴッツの【魔力装】、なんで割られたりしてるのかなってね?」
『……確かに言われてみれば。と言うことは、私たちが見ているこの幻の中に』
「まぁいるんじゃないかなって。本物の階層ボスが」
モンスターといえど、流石に自分のほうへ攻撃が飛んで来たら避けるか防御するかのどちらかになるだろう。
まして、ここまでの幻術を使う相手だ。魔術師側の後衛型のモンスターだろう。
ならば、防御。
流石に飛んでくる槍や、それに付属する形で起きる爆発なんかを避けきるには後衛型のモンスターにはつらいだろう。
だからこそ、魔術を使って防御をすると踏んだ。
今も広範囲に【影槍】による爆発をばら撒きながら、私は目を動かしどこかで発生するだろう防御エフェクトを見逃さないように集中する。
グリンゴッツも私と同じように、周囲を見渡しているようだ。
【霧海】による感知も考えなかったわけではないのだが、無理だと判断して使っていない。
というのも、もし感知に引っかかるのならばすでに引っかかっていてもおかしくない範囲で【霧海】は広げて展開していたのだ。
特に【白霧結界】展開時。あの時、少しでも幻術が解けていればまだわかったのだろうが、それすら叶わなかったという点を考えてみると、【霧海】の感知の基準に引っかかっている可能性もある。
恐らくだが、【霧海】は使用者が認識できている世界のみを対象に展開するのだろう。
だからこそ、【影化】で潜ったとしても問題なく感知できた。
しかし今回は現実を認識できないよう幻術をかけられている。
そのために、【霧海】による感知は私の見ている幻術世界にしか機能しない。
他の派生魔術も恐らくその前提があるのだろう。
……使い勝手が悪いってのはこういうところを言ってたのかな。
『ご主人!見えた!私たちから見て3時方向!』
「!」
そんなことを考えていると、グリンゴッツから声がかかる。
本当の闘いが始まった。