白い霧を
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暫く歩くと、ゴブリン人形がこちらへ戻ってきた。
見ると、両手併せて10個の魔石を持っている。見る限りゴブリンアサシン1の剣持ちゴブリン6、弓持ちゴブリン3と言ったところだろう。
「すごい、ゴブリンアサシン倒せたんだ」
あくまでもゴブリン人形は、元はゴブリンなのだ。
もしかしたら魔石を与え続けていたら、上位種のゴブリンになる可能性はあるが今はそうじゃない。
「考えられるのは……そうだなぁ。使役者の経験をフィードバックしてるとか?」
使役者の動き、体験など……そういった経験を学んでいく。
傀儡というよりは、もう使い魔の類か何かかと思ってしまう。
とりあえずゴブリン人形から受け取った魔石は【チャック】に入れておく。
ゴブリンアサシンなどの魔石を与えて実験してみてもいいのだが、それはダンジョンから出た後でも問題はないだろう。
とりあえずこのままゴブリン人形は自由に行動させておくことにする。
まだ階層ボスを見つけられてはいないが、この階層に関しては私一人でやってみてもいいかなと考えている。
というのも、前回のオーガ戦もゴブリン人形はほぼ役には立っていなかったからだ。
単純にまだ戦闘能力が低いためだ。
「いくら強化したとは言っても、結局まだゴブリンの域は出なそうだもんね」
いくら子鬼が頑張ったところで、大鬼には敵わない。
何かしらの特殊技能か何かがないと、その絶対的な力の差は埋めることができないだろう。
だから今回は、ここからボスなどの大き目の敵は私一人で動くことにする。
ある程度の時間戦って、私の動きをほぼフィードバックできたら一緒に戦闘をこなしてみてもいいかもしれない。
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ゴブリン人形にまた周回指示を出したあと、私は走っていた。
というのもだ。
「あーもぉー!確かにゴブリンだけどさぁ!!」
私は今、巨大な猪に乗ったゴブリンに追いかけられていた。
安直に考えるなら、あれがゴブリンライダーとかそういったモンスターだろう。
通路を走れる限界の大きさの猪は、こちらに向かってくる度に通路にある調度品を粉砕している。
あれに追いつかれたら一たまりもないだろう。
……館の支配者とおいかけっこした経験が活きているのか、そうじゃないのか……
足に重点的に【身体強化】を乗せ、【霧海】を限界まで広げて先の道を知り走る。
館の支配者と同じように、落とし穴にかけてしまえばいいのだが、それをするにも場所を選ばないといけない。
現在、私が走っているのは第2階層でも廃墟化が進んでいる区画らしく、下手に落とし穴を作ると崩壊する可能性があるのだ。
さすがにダンジョン内が崩壊した程度では、この妖光の館のダンジョンとしての機能は失われないだろうが、その場合崩壊に巻き込まれて私は死ぬだろうし、元々ここを狩場としているプレイヤーからすれば迷惑極まりないだろう。
「さっすがに、見たことも話したこともないプレイヤーに嫌われるってのは嫌だしねぇ……」
というわけで、走る。
確か近くにまだまだ廃墟化が全然進んでいない区画があったはず、考えながら床を蹴る。
しかし、突然右耳の横をボヒュッという気の抜ける音が通り過ぎたかと思ったら、少し前に火柱が上がる。
冷や汗をかきながら、足を止めずにちらと後ろを見てみる。
巨大な猪の上に乗っているゴブリンが、火の灯った杖をもってこちらを笑っているのが見えた。
「君、魔術も使えるのか…」
変な笑いが出てくる。
一応、背中側に【魔力装】で盾を作り出し、撃たれても一応大丈夫な状態にしておく。
……仕方ない、できればボス戦で使いたかったんだけど。
「えーっと……【霧よ、霧よ】」
詠唱を開始する。
詠唱をすることで魔術の強化ができるわけじゃないが、固有魔術の中には詠唱をすることで発動可能となるものが多い。
私が使う、【白霧結界】もその類だ。
「【現世と異界を繋ぐ境界よ】」
私が走りつつ詠唱を始めたのをみて、ゴブリンライダーは慌てたのか炎弾を乱射してくる。
しかし、私に直撃コースのものは【魔力装】の盾に当たり直接私にダメージを与えられない。
周りに飛んでいった弾が発生させた火柱なども、【霧海】の感知能力で着弾地点を予測し避けていく。
「【我に害成す者を縛り、不可視の境界へ封印せよ】」
詠唱内容は、適当に。
ただ頭の中に浮かんできたものをそのまま口に出す。
「【白霧結界】展開」
その言葉と共に、私は足を止める。
私の周囲の【霧海】は白さを増し、視界を真っ白に染めていく。
ゴブリンライダーと巨大猪は周りが見えなくなっていくのに焦り、手当たり次第に暴れまわっているようだが、もう遅い。
「霧の結界、完成っと」
入るもの全ての認識力と魔力を縛る霧の結界がここに完成した。