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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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       *       *


「――ぶえっくしっ!」

 誰かのくしゃみで目が覚めた。

 寒い。少しだけ眠るつもりだったけど、もう朝かな? 空が曇って太陽は見えないけど、夜中よりか周囲は明るい。

 しまった。ヘッドたちが眠ったらわたしたちが起きて見張りをしないといけなかったのに、誰が不寝番してくれたんだろう……。

 隣で眠っているケイトを起こさないようにゆっくりと身体を起こすと、それに気付いてこっちを振り向いたメウヤたちと目が合った。

「お目覚めですか。おはようございます」

「おはよう。……どうしてここにいるの?」

 7人勢揃い……7人もいたんだあなたたち。ほんとはもっと多いのかな……。

「大蛇を運んで解体を終えた頃には真夜中でしたから、そりゃここで寝ますよ」

「……んー、んぁ、そうだよね。うん」

「眠そうですね」

「ねむい」

 結構寝てたけど、眠気が……これはもう一度眠れる。キツネ亜人が夜に目を覚まさないって凄いよ。わたし、そんなに疲れてたかな。鼻ぐずぐずするし、わたしまで風邪?

「――いやー、大変ですよ。わたし、夜目は利く方なんですけど、この辺りは殺風景になったもので、何処が何処だか」

 あ、ぼんやりしてる内に会話聞きそびれた。取り敢えず頷いとこう。

「ヘビ、明るくなってからバラせばよかったんじゃない?」

「それもそうですが、わたしとしては、生物は鮮度を損なう前にいただきたいので、解体だけでも早めにと。それに、あの蛇の肉は美味しいですからね、いいところを取られる前に分け前をいただくには、自分たちで解体するのが一番です」

 なるほど。確かに食べ残しをお礼に受け取るのはわたしとしても嫌だ。

 ――って、ヘビ。わたしのヘビ、どこ? わたし食べてない。楽しみにしてたのにヘビ食べてない。

「あ、解体したヘビならあっち、ヘッドさんのところです。ご心配せずとも残してありますよ」

「本当? ありがと」

 メウヤはわたしの視線がヘビを求めてさまよい始めたことに気付いて、親切なことにヘッドのいるところまで含めて教えてくれた。

「彼とは、久しぶりに面白い話ができました。あなたのお義父さんはとてもユニークです。あなた、いい人に引き取られましたね」

「そう? ユニークというか、確かに変なニンゲンなのは間違いないけど……」

 そもそも外の世界のニンゲンが変人だらけで、悪い人いないし、その中でヘッドの人柄が良好な部類かは微妙。悪人ではないけど褒められる点が見付からないのがネック。

「……あー、どうやら言いたいことがお有りのようですが、嫌いではないでしょう?」

「んー、うん。嫌いじゃない」

「父親と娘なんてそんなものでいいんです。――あっ、そうだ、ヘッドさんに伝えたことですが、ついでにあなたにも伝えておきましょう。あなたたちにも手を貸してもらいたいので、スズリカ族長に言伝ことづて願えますか」

「なに?」

「ハーベスの西の平原なんですが、あの辺りでフシリアの神殿らしいものを見付けたんです。情けない話ですがわたしと仲間たちでは入れたものではないので、あなたたちに調査をお願いしたいんですよ。仲間がいて、何処かに繋がっているかも知れません」

「フシリアの神殿?」

「ええ。我々鳥人族の神殿です。もしかすると、何か良いものがないとも限りません。あそこは特異点ですから。詳しいことは妖獣人の方にでも訊けば知っているはずです」

「ん。じゃあ、レンカにも伝えておく」

「よろしく頼みます。では、お時間を取らせてもらうのもこれくらいにしましょう」

 ああ、そうだった。どうしようかな。いまからでも見張りを代わって休んでもらおうかな。わたしひとり起きてれば十分だし。

 メウヤに教えてもらった方向に進むと、岩場の陰に揺れる焚き火を見付けた。

 ……それにしても、フシリアの神殿って名前に神殿ってくっつけただけの、入ってもなんの得にもならない気の触れた冒険者向けダンジョンなんだけど……誰かいるかもっていうのはさておき、いいものなんてないのに調査してくれだなんて面倒な話。特異点とかなんとか言ってたけど、あんな変なとこいくつもあっても要らないよ。

「ああっくそ! ――おいボウマン、ちり紙持ってねぇか?」

「残念ながら。……タバコでも詰めたら如何で?」

「誰がそんな勿体無いことするかよチクショウ」

 起きているのはヘッドとボウマンだ。

 ……ヘッドかぁ。まあ、意外。

 ヘッドだって歳と不健康そうな体型で肉体的にガタが来ている割に、毎日東奔西走してわたしたちを支えてくれているわけだし、ちゃんといたわってあげよう。

 声を掛けようと近付くと、同時に反対側からも誰かの足音が聞こえた。カチャカチャと物音もするから、領主の私兵だ。

「――お? おい、お客さんがお越しになったみてぇだぜ」

 少し遅れてヘッドもその男に気付くと、ボウマンと一緒に立ち上がって行く手を塞いだ。

「私兵の人かな? おはよう。何か御用で?」

「獣人に会いたい」

 そう言った男はパートリッジ司令と同じくらいの高身長の偉丈夫で、ヘッドとボウマンをいかにも邪魔そうに見下ろした。

 あれ……? この人、何処かで見たことある気がする。誰だっけ。昨日大砲を渡したときにもいたと思うけど、よくよく見るとそれより前に会ったような……。

「それは残念なこったが、あいつら今はおねんねしてるんだ。寝顔は拝めてもお話は無理だぜ。会ってどうする気だ? まさか寝ているガキを起こす気じゃねぇよな?」

「まだ日が上る前だ。獣人は起きているはずじゃないのか?」

「お前さんだって、日が出ていようが昼寝することあるだろ」

「時間を作ってこんな時間に足を運んだんだ。会わせてもらおう」

「大人気ねぇ野郎だな。もういっぺん訊くが会ってどうする気だ?」

 乱闘騒ぎのこともあるし、この領地のニンゲンもわたしたちに悪い印象を持っていることはヘッドも重々承知だ。突然現れたこの怪しい男をただで通す気はないらしい。

 男に向かってボウマンが手を差し出すと、男は不快そうに眉をひそめた。

「……その手はなんだ?」

「武器は没収だ。それと所属と氏名、目的を明確にしてもらわないと、面会は承諾できんな」

「話をしに来ただけだ」

 それだけ言って男がボウマンを押し退けると、即座にヘッドがピストルを抜いた。

「それだけか? 人の事は言えねぇがよ、お前さんみてぇな礼儀のなってない野郎はお帰り願うぜ」

「……ハーベス家私兵、ロッテオ隊のイヴァル・ダンベルだ。通してもらおうか」

 イヴァルと名乗った男はヘッドを睨み付けながら、腰に差した剣を鞘ごとボウマンに手渡して、これでどうだとヘッドに詰め寄った。

 イヴァル・ダンベル……ダンベル? やっぱり憶えがある。確か、お母さんと一緒に……そう、クラフカに行って……なんだっけ、思い出せない。

「ざけんなよ大男。ナイフを隠してるじゃねぇか。ひーふーみーと……ざっと3本はあるな。――おい、ボディチェックだ。ちょっと弄ってやれ」

「趣味じゃないね」

 意外なことにヘッドはイヴァルが隠し持ったナイフの数をちゃんと言い当てた。ヘッドは妙なところで抜かりのなさを発揮してくれる。

 最近思い始めたんだけど、たぶんヘッドってヤンコフスキやパートリッジみたいな普通の軍人とは違うんじゃないかな。鍛えてきてるのは集団で戦う力よりも、洞察力とか、物を調べる能力な感じがする。

 ……スパイとか? んー、似合っているようないないような……いや流石に違うかな。

「ヘッド、もういいよ」

「あん? お、なんだよお嬢さま、起きてんじゃねぇか。気を付けろよ。コイツはサイコ野郎なにおいがするぜ」

「おはよう。ヘッドのヤニ臭さの方が酷いよ」

「加齢臭も酷いって言ってもいいぞ」

 言われたヘッドがボウマンを見詰めると、ボウマンはにやにや笑いを浮かべながら唇を縫い付ける仕草をして、数歩下がってあからさまに銃剣の用意を始めた。

 わたしはそんなことは気にせず、獣人に恨みでもあるのか、わたしが姿を見せてからずっと睨み付けてくるイヴァルに歩み寄ってみた。

 背の高さに以上に全身の筋肉の威圧感が凄い。どれだけ鍛えてるんだろう。

「……前より大きくなった?」

「……前にも会ったか?」

「さあ? わたしたちに何か用?」

「少し話をしたい」

「ん。ついてきて。話は歩きながら」

「おいおい、あいつおれの話聞いてたのかよ?」

 ボウマンは口を真一門につぐんだまま、肩をすくめてとぼけだジャスチャーをした。

 面白かったのかヘッドはにやりと笑うと「何かあったらそれで通そうぜ」といつも通りのところを見せてわたしたちを見送った。わたしはお前の娘だぞ、そんなので済ますな。

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