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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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       *       *


 正午過ぎにになって起き出したわたしたちは、遅めの昼食を取ったあと、ヘッドのもとに向かった。新しい任務があるらしい。

「来たな。今日の仕事はおれたちと共同だ。しっかり頼むぜ」

「何をすればいいの?」

「そう急かさんな。今日この領地にダルタンの要請してた、王様からのありがた~い援軍が到着した。その名も歩兵第13師団。頼りねぇけど、まあもっと増えるはずだ。そこで、これを見ろ。こいつは東の城壁の向こうの地図だ。ベーレーレン軍は城壁の向こう、このダン川まで進出する。これの助っ人をするためにおれたちが選ばれたってわけだ。あ、心配すんな。おれたちまで川にいこうってわけじゃねぇからよ。ちょっとしたお使いだよ」

 ベーレーレンからの助っ人……そういえば、一度地響きが気になって目が覚めたから、それかな。ここ数日レンカが城壁の向こうで侵食された大地の浄化をしていたけど、とうとうこの世界のニンゲンがタナトスにやり返すときが来たのか。

 ただ、ハーベス領には城壁があるからわかるけど、ダン川まで行くのは時期尚早な気もする。まずは城壁の南端、モヌト・クライテの砦までペスティスを駆除しないと、横腹を突かれるんじゃないかな。

 ……まあ、わたしが考えることじゃないか。軍人さんには軍人さんの考えがあるんだし、素人は口出しするものじゃない。

「……それで?」

「川の手前の高台に大砲を設置する。手始めにここと、ここの2箇所だ。場所はもう確保してるらしいけど、おれたちは途中まで運んでくだけでいい。えーっと、ここだ。山に見えるのは気にすんな」

「彼らがダン川に新たな防衛線を構築する間、この砲で近付くペスティスどもを追い払うわけだ」

 パーキーが背後の覆いを剥がすと、その下の大砲の砲身が覗いた。

 大砲とはいっても、見た感じはこの前わたしたちが使ったような小さな砲。これで戦車が倒せるのかな。

「ああ、見ての通り頼りねぇけどな、あるだけマシだ」

「これでも小型の戦車なら、1リゼール(約790メートル)以内に引き寄せれば十分に対処できる」

 パーキーが、文句は言わせないとばかりに語気を強調してそんなこと言ったけど、こういう大砲にとって1リゼールなんて大した距離じゃない。装甲の薄い戦車が相手でそれならちょっとどころじゃない頼りなさ。この世界にもとからあるような大砲に比べたらマシってだけ。

 こんなものをわざわざ人力で運ぶのは納得いかない。しかも最後は山登りとか、なんで引き受けたの。

「…………」

「やめろよ、そんな目で見るな。わかってるよ。こんなもんしかねぇのに欲掻くなって。あいつらそんだけあの川が恋しいんだよ」

「ダン川はトメクスレンとの国境にあたる。国境線までペスを押し戻したとなれば、ベーレーレン軍にとっていいプロパガンダになるはずだ」

 つまり、宣伝目的で川までいきたいから大砲貸してっていうくだらない話に付き合って、わたしたちここに集められたの? ますますやだな。

「……ハーベスから真っ直ぐ川越えたらリュオン」

「細かい地理はいい! リュオンでもトメクスレンでもコルトコバでも、国境を取り返しました頑張ってますと伝わればいいんだ。兵士を集めるためには馬鹿でもわかる、格好のいい話がいるんだ」

 パーキーは自分自身に言い聞かせるようにわたしに言って聞かせた。馬鹿を騙せるの間違いじゃないのかな。

 それとコルトコバは西だから、そこをどうこう言ってたらこの国終わってそう。

「ベーレーレンって兵士いないんだっけ」

「そうらしい。ベーレーレンに限った話じゃないが」

 まあ、普通に考れば逃げるよね。ハーベスを捨てた人たちと同じ。ニンゲンはここ数年で移り住んできた人たちばかりだし、身の危険が迫ったら生まれ故郷にでも帰るよ。

「これは確かに、王様のお考えか、どなたか別のクズの考えたことかはわからねぇけど、本気じゃねぇ。でも、大事なことなんだ。おれたちとしてもベーレーレンがこのまま衰弱死するのは困るだろ? 助けてやらないとな」

 んー、こっちもこっちで、ベーレーレン軍に協力しています仲良しですって既成事実作って、教会に妙なこと吹き込まれるのかわさないといけないから、いいのかな。どうせもうベーレーレンも教会に愛想尽かしているだろうけど、獣人が絡む事案にはお金も絡んでくるから油断ならない。

「……でも、ストーンゴーレムとかが群れできたら終わりじゃないの?」

 厄介なのは外の世界の軍隊や兵器ばかりじゃない。強力なモンスターの類もペスティスにはうじゃうじゃいる。もうこの国の軍隊で相手するには厳しいし、こんな大砲2門でそれが変わるはずもない。

「あまり気にすんなよ。鬼の居ぬ間にってやつだからな、つえぇ敵がいたらそもそも成り立たねぇ。なんにせよ新入りにはいい機会だから、面倒見てやれよ。それじゃ出発だ」

「ヘッドも来るの?」

「ああそうだ。悪いか? ――ネリン、こいつらにくっついてろよ。話は弾まねぇだろうが経験豊富だ」

 このおじさんに力仕事ができるのかな。スタミナもないし足手まといなんじゃないのか。

 ……まあ、いいや。残っててもサボるだろうし。

 で、ネリンね。ネリン。ケイトより長いかな、ふかふかの長い茶髪が特徴的。

「リティアさん、アトレイシアさん、ケイトさん……よっ、よろしくお願いしますです!」

 手のひらを身体の前で交差させて頭を下げる。どうにもニンゲンくさい仕草だけど、耳は頭の上に伸びてるし、しっぽもある。ネリンは戦闘団に参入したばかりの新入りで、わたしがヘッドに初めて会ったときに教えた町の酒場でこき使われていたイヌ亜人。

 聞いた話によると、町がペスティスに襲われたどさくさに紛れてヘッドたちが逃したあと、行くあてがなくて追いかけてきたらしい。

「やめなさいよ。そのニンゲンっぽい礼」

「あっ、ごめんなさいです!」

 リティアに嫌そうな顔をされて、慌てて気を付けの姿勢で礼をし直したけど、獣人式は腰ひもを握るか腰に手を当てるかするから、腕は曲げるんだよ。耳は伏せて、しっぽは垂らして先を少し持ち上げるようにね。

「3人の話は聞いていますです。いろいろ教えてほしいです」

「ん」

 面白い喋り方をする子だな。教養のないニンゲンの、にわか作りの奴隷。そんな感じかな。

「なんでわたしがこんな奴らと組まなきゃいけないのよ……?」

「リティア、またアトレイシアたちと喧嘩するんじゃないぞ」

「わかってるわよ。何よ偉そうに!」

 喧嘩騒動の罰でパーキーと行動させられてるリティアは、今日もパーキーに噛み付いている。どういった図らいなのか今回の仕事は大嫌いなわたしと組まされて、ますます機嫌が悪い。

 それに、わたしはイヌ亜人があんまり好きじゃないから別の子と交代させてほしい。オオカミ亜人に頼めなかったのかな。

「なんで犬嫌いのアトレイシアのいるとこにイヌ亜人ぶち込むんだよ?」

「隊長のアンタが知らないのにおれが知るか。ていうかアトレイシアが犬嫌いだなんて初めて聞いたぞ? あいつ基本的に無愛想だろ」

 あの様子じゃ望み薄な気がするし、言ったらネリンも可哀想だから言わない。

「「…………」」

「あ、あの……?」

「なに?」「なんだ?」

「……なんでもありませんです」

 イヌ亜人は隷属的で弱い種族で、目にかけておかないと直ぐに強いやつになびく。わたしからしたらあんまり信頼できる種族じゃない。実際、前の戦争では早々にニンゲンになびいたし、奴隷にされたって反抗しない、プライドがなければ根性もない人たちばかりだ。わたしに人のことをとやかく言う筋合いはないけど、関わるのはやめておこう。

 砲には車輪が付いているから、分解せずにそのまま人力で移動させる。どうやらわたしたち4人で1門運ぶらしい。

「……いいのか?」

「ん?」

 足を持ち上げようと腰をかがめたところで、ケイトに耳打ちされた。夜に拾った帽子が気に入ったらしく、起きて髪を縛ってからずっと、耳の後ろから後頭部をすっぽりと覆っている。結構似合っているし、長い髪をまとめて入れておけるのも便利そう。

「アトレイシアだって、人から白い目で見られるのは嫌じゃないのか?」

「それはそうだけど……」

 戦争云々の以前からイヌ亜人とはどうにも仲良くできないから、いっそ距離をおきたい。

 いや、でも……流石に薄情かな。

「ネリン……えっと、わたし、アトレイシア。改めてよろしく……」

「はいです! よろしくお願いしますです!」

 こっちから声をかけた途端、ネリンはしっぽを振り回して元気な返事を返してきた。それ以上続かなかった。

 うぅ、身長の都合でリティアと隣り合うことになったのも気まずい。

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