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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
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「ふー、ごっつぉーさん。さて、本題だけどさ、お前ら何処の班にも参加してないだろ? 探索係入ってくれよ」

「勧誘のためにリンゴ?」

「そういうわけじゃないけどさ、シュトリーナとアクラーナがいなくなっちまったから人手足りねーんだよ。来年、エーラが引き継ぐまででもいいから、な? ――姉御もいいだろ? アトレイシアとケイトならなんかあっても平気だし」

 カトリナは地域統制班の探索係で、班長はヴィリア。この班はもともと群れの縄張りや、その周辺の地形や環境、生態を調査して保護活動をしているところ。人口と食料生産と備蓄量とかも集計して内務長のヘルマーナに報告してる。

 ちなみに、こういう物々しい名称が使われだしたのはみんなが戦闘団の一員となってから、カッコつけるためにそれっぽい名前が欲しいって、スズリカとレンカが言い出したせい。それっぽくなればいいということで、実際のところ体系はうやむや。

「内務長の管轄って記録係含みますよね……同じ族長側近でも、ホロビさんより目上の立場はちょっと……」

「医療品の製造は、製造と医務のどっちなのじゃ?」

「えーっと、じゃあ、ホロビは外務の記録も付けるから、書記長として一個上にしとこう。医療品は……医務?」

 ――って、感じのやり取りを聞いた。煮え切らなかったところは保留されたまま。人によりけりだけど、仕事は掛け持ち上等だし、獣人の人事ははっきり言って雑。

「二人のことは製造も欲しがっているので、ここで取れるかはわからないですね。ケイトは裁縫が得意ですし、あと、医務からも要望が出ています」

「医務なんてタヌキに任せればいいじゃんか」

「リュイナもいますよ。二人が来るなら嬉しいと言っています。まあ、流石に医務はないと思いますが」

 そんな話全く聞いたことないんだけど。医務とか人並みにしかできないよ。お裁縫も下手だし、料理も得意じゃないし……。

「リュイナかー。でも、個人の意思は二の次だろ? 大事なのは実益だよ実益、おれたちがどれだけ貢献してるか考えれば、ここ一択じゃんか」

「実益で言えば、わたしたちより成果を上げているところが、アトレイシアさんをほしいと言ってますよ」

「何処だそこ? ……まさか特務かよ? そりゃこの前領主の屋敷に忍び込んだりしてるけどよ、あいつらってもっといろいろやってんだろ? 知らないけどさ」

「……とくむ?」

 また知らない言葉が出てきて、ケイトは首を傾げた。

「外で活動してる人たちだよ。ニンゲンたちが里に近付かないように、事前に情報を集めて対応したり、みんなのためにあれこれやってくれたりするところ」

「そうなのか……」

 特務は獣人たちの、所謂暗部の人たちで、独自のコミュニティを持ったエリート集団的なもの。何をしているかはわたしもあまり知らない。獣人でもほとんどの子が、それが誰か知らないし、多分族長たちでも全容は知らない。

「特務なんて地の果てにいるような連中が……いや、待てよ。アトレイシア、最近あいつと話してたよな。誰だっけ……そう、イオリカ、イオリカだ。ちょっと気になったんだよ。なあなあ姉御、イオリカがそれなのか?」

 カトリナが声を潜めて訊ねると、ヴィリアは「さあ?」とはぐらかした。

「教えてくれたっていいじゃんか。――アトレイシアぁ、どうなんだよ、なんかめっずらしいコンビで話してたじゃんか。イオリカに勧誘でもされてたのか?」

「いや、べつに……?」

 カトリナが言ってるそれは、ちょっと、調べごとのために話を聞いてただけ。そんな勧誘「か」の字もなかった。

「カトリナ、特務に興味でもあるんですか?」

「あるに決まってんだろ。だから訊いてんだよ姉御。あれこれやってて楽しそうじゃんか」

「あまり関わらない方が身のためですよ。まあ、これは冗談でしょうけどね。あの子たち、冗談が好きですから。アトレイシアさんも嫌ですよね、いまさらあんなところに行くの」

「里を離れたときに誘われたけど、断ってるし……」

「ですよね。あそこおっかないですから」

「うん」

 実際はしばらくの間お世話になったけど、黙っておこう。憧れがなくはないけど、いまあそこに入ったら、またケイトと一緒にいられなくなる。それは絶対に嫌。

「アトレイシア、そんなときから特務に誘われたのかよ。やっぱリティアの言ってたことは嘘っぱちだな」

 カトリナは、リティア曰く「裏切り者」というのが本当なら、暗部に誘われるわけないと思ったらしい。

 確かにそう言えなくもないけど、あの人たちが、どうしてかわからないけどやたらとわたしの肩を持つからそうなっただけで、普通なら厳しめに処罰されそうな気もする。

「……わたしがリティアの期待を裏切って、何もしなかったのは本当のこと。あんまりリティアを悪く言わないでほしい。リティア、頑張ってるし……」

「そうかー? わたし二人の昔のことよくわかんねーけど、過ぎた話じゃんか。お前もうちょっと自分可愛がってもいい頃だと思うな」

「まだ、そんな気になれない……」

「ふーん、アトレイシアがそれでいいならいいけどさ、あんまり無理すんなよ。いざとなったら一緒にリティアぶちのめすしさ。あいつ、タイマンじゃキツイし」

「ん……」

 一対一だと、わたしやカトリナではリティアに勝てない。でも、わたしとリティアの話にカトリナを引っ張り出すのは気が引ける。誰かに頼って関係を改善したところで、解決にはならないし。

「なんだよ、わたしに頼るの嫌か? 律儀だなー」

 カトリナはわたしの内心を察して、気を悪くすることもなく、感心する素振りを見せた。

 ……カトリナって、喧嘩っ早いけど、こんなに優しいんだ。知らなかった。

「ん。でも、そう言ってくれるの嬉しい。ありがと」

「上手くやれよ。応援してるからさ」

「カトリナ、リティアと取って代わるのもいいですが、あまり無理しては駄目ですよ。それと、無茶して皆さんに迷惑をかけても駄目ですからね」

「わかってるよ姉御。でも、取って代わるってんじゃないぜ。釣り合いを取りたいだけさ。――アトレイシアも、わかるだろ? わたしはニンゲンと上手くやれる」

 ニンゲンと上手くやる。つまり、カトリナが力を付けて、ニンゲンに対する敵対感情の強いリティアへの対抗馬になってくれれば、みんなのニンゲンに対する意識が改善されるかも知れない。よし、リティアには申し訳ないけど、ここは素直にカトリナ派になっておこう。

「カトリナ、応援する」

「ほんとはシュトリーナがやる気だったんだ。でも、張り切りすぎてもういないからな。次は張り切りすぎないわたしが上手くやってやるよ」

 カトリナはちょっと寂しそうな表情を見せながら、戦車から降りた。

 ああ、それでシュトリーナは、城壁での戦いでどんどん前に出てきて目立ってたんだ。でも、そのせいで死んじゃった。もしかして、あのときカトリナに死ぬなよって言ったのは、自分が助からないって気付いていたからなのかな……。

「それじゃ、メシも済ませたし寝るか。またな、お三方」

「ん。またね」「おやすみ、カトリナ」「ちゃんと歯磨きをするんですよ」

「へいへい」

 カトリナが大あくびをかましながら歩き出すと、ヴィリアもそれに続いて、わたしたちにも歯磨きをしてから寝るように言い残して去っていった。

「わたしも、眠いな……」

「うん。寝よ。歯磨き、あとでいいよね……」

 眠るときはニンゲンたちの寝ているところに押し入ることにしている。朝方の冷え込みの中温かい毛布が出迎えてくれる魅力は強いし、そして何よりニンゲンたちが喜ぶ。わたしたちの身体は毛布よりも温かいし、いまならもふもふした冬毛もある。

 目の前にあったテントの中にお邪魔して、寝ている兵士が被っている毛布の下に滑り込むと、毛布の持ち主の口角が緩んだ。おめでとう、パデレフスキとローゼンシュトック。

「「おやすみ」」

  起きたらヘッドの手伝いだっけ……気乗りしないなぁ……。

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