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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
84/341

あんまりドンパチしないで章、はじまりはじまり。

「ただいまーっ!」

「……おかえり」

「戻ってきたか。収穫はどうだ? ん?」

 戦闘団の本拠地ラプサンに戻ると、まずヤコアと、ヤコアのリハビリに付き合っているハブラに出くわした。

「こんなのみつけた!」

「そうかそうか……なんだこれは?」


『MargueriteSpecialblend White Half』


 ――などと英語らしい文字で書かれている缶が2つ。文字が読めないから詳細はわからない。

「あの名前の長い国の文字か……読めん」

 役立つだろうと英語を勉強し始めたハブラも、早々に解読を諦めて手に取った缶を投げ返してきた。

 使っている文字の違うのはいろいろと面倒。この国の文字が読めない外界人のためにわたしたちが雑務に付き合うことがちょくちょくある。お金の価値も違うし、いくら持っていって何が買えるかわからず、足りないからと値切り交渉をしょっちゅう繰り返して苦情がきた。

「あとはこれ。空っぽのポリ容器とナイフ。それと薬草」

 ポリなんとかかんとかできた白い容器。こっちも細かい文字の書かれたラベルが貼ってあるけど、当然読めない。ナイフはわたしのよだれでベトベトしてる。ガジガジ。

「帽子を見付けたな」

 黒色の、かぼちゃみたいな見た目のふわふわな帽子。耳を隠せるから便利。カッコいい紋章が描かれていておしゃれ。また、何処かの軍隊のかな。

「じっぽ!」

 ジッポライターなる魔法の発火具。アタリを引くと兵士たちが物々交換してくれる。ハズレはホバーラに押し付ける。

「微妙だな」

「うん。――ヤコア、どう?」

 見ての通りリハビリに付き合うなど、妹を失って傷心したヤコアを立ち直らせたのは、意外なことにハブラだった。

 生き残った獣人たちの中でも、対人榴弾の破片を至近距離で浴びたところに容赦なく矢弾を追加されたヤコアの怪我は一際酷くて、回復を諦めた右手を肘と手首の中ほどから、左手を手首から、左足を膝から切断して、右目も切除、右下顎の歯がなくなって、大事な両耳も短くなって高さ違いになった。ここまでされても致命傷を受けなかったことは凄いことだし、右目と左掌はアクラーナの遺体から移植できたけど、この痛ましさはどうしようもなく、不幸中の幸いとしてもささやかすぎる。

 そしてなにより、妹のアクラーナを失った精神面のショックが大きすぎた。ヤコアは創痍のまま自暴自棄になって暴れて、しばらくは簀巻にした上で猿ぐつわを噛まされていた。

 あのときは大変そうだったな。みんなでなんとか元気付けようとして上手くいかずに、見かねたハブラが一役買って、こうして一応は立ち直らせてくれたらしいけど、強硬派ニンゲン大嫌い勢なところを逆手に取ったやり口だったとかで、どうにも恨みを買ったハブラはヤコアに命を狙われてる。

「見ての通りだ。――ほらどうした、息があがっているぞ? ん? 両脚をやられるとはわしよりも間抜けだな。そんなことで獣人の戦士が務まるまい、毛布に戻るか?」

「はぁ、はぁ……うるさい。いつか殺す。ペスティス皆殺しにして、お前も殺す」

 一応立ち直りはしたけど、ヤコアの目つきはかなりキツイ。あまりに殺気むんむんで、ヘッドは「いつもマジの時のアトレイシアの顔してやがる。ほっぺた落ちるぜ」と言う。またわたしに頬の肉を剥がれたいのか。

 わたしは慰めの言葉も聞いてもらえずに怒られちゃったから口にはしないけど、悲しさを怒りで誤魔化させるしか手がなかったのは、なんだか辛い。部隊からは外されたけど、これでまたヤコアはペスティスたちと戦う意思を固めた。また復讐への道を進み出してしまった。そうさせた自分たちが少し嫌になる。

 ヤコアに死なれるのは嫌だ。ヤコアには生きていてほしい。そしてもう少し時間が経って、道脇に幸せを見出だせたとき、アクラーナの分まで幸せになってくれたらいいな。

「だったら早く立たんか。そして精々頑張ってわしの技を盗むことだ。ほれ、ちゃんと歩け」

 ハブラはヤコアにいつか自身を倒してみろと言って義足と義手を渡した。自身の使っている義足同様オーダーメイドの特注品で、どうやらハブラはヤコアを最後の弟子として育てるつもりらしい。

 足は左右で違えど義足の闘士は部下にはいない。こんなこと言ってもなんだけど、ハブラを継ぐにはヤコアは適任かも知れない。ハブラにとっては。

「この調子では、いつまで経っても戦はできんな」

「そんなことない。わたしは戦う。たた――」

 ハブラはヤコアの足を払って転ばせた。右脚も怪我で力が入らなくなったから、立ち姿はふらふらしてるし、自力で立ち上がるのも大変そうにしてる。

「この通り、威勢だけだ。戦場には死にに行くようなもの、まったく手の掛かるやつだ」

 そう言いつつ、ハブラは楽しそう。自分を睨みつけるヤコアを涼しい顔で見返しながら、「ほれ、戦場が逃げるぞ。早く立て」と急かした。

「あんまりいじめないであげて」

「そうしてやりたいところだが、これはわしの性分でな」

 意地悪だ。顔付きからして意地悪だけど、中身はもっと意地悪。

 心底ニンゲンから舐めに舐められて、ヤコアはくさしさのあまり下唇から血を流しながらわたしを睨みつけた。

「お前ら、鬱陶しいからさっさとどっかいけ……」

「ん」

「ヤコアおねーちゃん、おじさん倒すのがんばってね!」

 リュイナの妹のイルナが元気いっぱいに励ますと、ヤコアは少しだけ笑った。

 いつか、ヤコアがハブラを倒す日が来るのかな。先にペスティスをみんな倒すって言ってるから相当先だろうな。

 ハブラはハブラで暇さえあればわたしたち獣人に喧嘩ふっかけてくるし、稲荷坂戦闘団は身内で楽しくいざこざ起こしまくりで、毎日物騒。

 例えば、城壁をめぐる戦いでのわたしたちの損害の大きさを見かねたニホン軍の兵士が中心となって、亜人族は全て段列部隊に回すべきだという論調が巻き起こったときとかが凄かった。

 そのときの大まかな話の流れは、こう。まずニホンの兵士たちがわたしたちを戦闘から隔離しようとして、そんな部下の勢いに押されて、オオズミがより階級の高いトミオカに相談。トミオカはそのことをパートリッジに伝えて、司令は理解を示しながらもそれを承認しなかった。すると他の国の兵士たちからも次々に声が上がって、パートリッジのもとへ押し寄せて直談判を始め、無理にでもわたしたちを後方に回そうとした。

 城壁での戦いは、活躍以上に損害が大きすぎた。真っ昼間に全時代的で無謀な攻撃に走ったツケ。死んだのは二人でも、怪我人の割合がニンゲンたちより数倍多いんじゃ、戦いに出られても嫌なのはわかる。わたしたちは貧乏で、医療品も満足に持ってない。

「君たちの気持ちはわかるが、彼女たちは仲間なんだ。その仲間の意見を聞かずにあれこれと論議などできるものではないし、此方から要求を押し付けることもできない」

 こうして、パートリッジが自身の手に負えなくなったこの騒ぎの内容をわたしたちに説明すると、勿論こっちもこっちで荒れた。

「どうしてですか!? わたしたちは勇敢に戦ったはず、今更除け者にされるなんて納得できません!」

「君たちの気持ちはわかるが、紳士たるものはか弱い少女が血を流す姿など見るに堪えない生き物なのだよ。優先的に温存されるというだけで、戦力外として扱うわけでも――」

「か弱いだと!? 失礼な、いらないお節介だ!」

「……よろしい。話し合いの場を設けよう」

 ヤンコフスキに対して自分が憎まれ役を引き受けると言ったパートリッジ、この人の苦悩は始まったばかり。

 その後の話し合いは――、

「我々は獣人の保護を謳っているだろう。保護すべきものが戦場に居座っていては気が散るし、それで不覚を取らぬとも限らんから、後方にいてほしいな」と言えば、

「あのとき助けてやったのに邪魔者扱いするのか!? 納得できるかそんな言い分!」と返す。

「これも君たちのことを思って言っているんだ、聞き分けてくれよ」と頼めば、

「それが余計なお節介なんだ! 弱いくせに格好つけるなニンゲン!」とますます酷く怒り出す。

 思うに、ニンゲン相手になった途端結束が強まって喧嘩腰になるところ、わたしたちはもうしばらくはニンゲンとの確執を持ち続けそう。

「そう言う君だって傷だらけじゃないか! 女の子なんだから身体を大切にしなさい!」

「ニンゲンなんかと違って頑丈だからこれくらい平気だ! それと女だからってなんだ、女は自分の命も自由に扱わせてもらえないのかよ!? こっちは我が身がどうなろうと戦うって覚悟決めてんだから、水差してくんな!」

 話し合いは早々に口喧嘩じみて、ますます収拾がつかなくなった。特に喧嘩要員として名高いオオカミ亜人のアールグニー、キツネ亜人のカトリナ、妖獣人キツネ亜人のカクリナの3人が怒鳴るわがなるわで、怒髪天を衝かんばかり。対する相手も女児に臆すれば男児の恥と退路を閉ざした頑固おやじたちばかりが束になって、事態は瞬く間に一触即発の様相を呈した。

 そして頭を抱えたパートリッジとトミオカの前にスズリカが進み出て、

「わたしたちを段列勤務にするなどという処置が通るなら誠に遺憾だが、司令がそうと決めるならそれでいいだろう」

「わかってくれますか。あなたがそう言ってくれれば、彼女たちも納得してくれるでしょう」

「然るに、その上でわたしが生きている必要はあるか?」

「……つまり?」

「こんなことになった責任を取らせろ。今回の一件、全ての責任は適切な指揮を怠り同胞に多大な損害をもたらしたわたしにある。この命を持ってケジメをつけよう。お前たちの要望が通るならわたしは自決する。いいな?」

 などと自決の承諾を得ようとして、二人をますます慌てさせた。やるとなったら簡単に止められる相手じゃなく、ヤコアみたいに簀巻きに猿ぐつわでも話にならない。鉄の鎖を持ってしても10秒と持つか怪しい。

「おやめなさい。わたしの寿命まで縮む」

「族長、お気持はわかりますが、それはなりません」

「何故だ。わたしがいる限りあの子たちは戦う。それが嫌ならわたしはいないべきだ。頼む、それならいっそ死なせてくれ!」

 不手際からニンゲンに迷惑をかけて心配されたことが、今回相当ショックだったらしい。意外と繊細なメンタルのスズリカは必要以上にしょげこんでいた。

 そんなひとりの女性のピンチに、紳士パートリッジも焦りに焦った。本当に死なれたら自分も獣人に恨まれて殺されるかも、などと考えていたかも知れない。もしくは間違いなくそうなると悟っていたか。

「貴女の覚悟はよくわかった。もう一度、兵士たちを説得してみましょう。だから危なっかしい真似はよしていただきたい。――トミオカ隊長、お力添えいただけないかな? この通りだ、頼むよ」

「……頼まれるまでもありません。わたしの部下は必ずや聞き分けてくれるでしょう。ヘッド隊長も上手く執り成してくれるはずです」

「そう言う割に、どうにも嫌そうだね」

「彼女たちの身が戦場で四散するのをこの目で見れば、わたしは我を失うでしょう」

「わたしも同じだ。耐えられなくなったらそう言ってくれて構わんよ。わたしも本当は、少女を戦場に立たせるなど、誇りある軍人として断固拒否したい。しかしこうするしかないんだ。鬼畜のそしりを受けるのはわたしが引き受ける。命令だ。部下を説得して騒ぎを鎮静化せよ」

 こうしてスズリカの懇願を受けた二人はそれぞれの部下に話をつけようとした。結果的にはトミオカの言う通りニホン軍、エルンヴィア軍の兵士たちは聞き分けてくれた。  

 ポーランド軍とイギリス軍の兵士たちだけはそれでも食い下がったけど、族長側近のコーニャが「スズリカ族長が死んで、次の族長がニンゲンの言うことを聞くと言い出したら、族長をその場で殺してでも前線に居座ります」と伝えたら口を閉じた。この辺りで話しにならないほど思考が違うと察したらしい。

 一方で真っ先にわたしたちを後方送りにしようとして、最も激しく押し問答を繰り返した割に一番に聞き分けたニホン兵たちはわたしたちと何処か似ているのかも知れない。

「スズリカ族長は、外見は珍妙奇天烈であるが真に見事な武人だ。いま失えば我ら戦闘団は瞬く間に瓦解し、この世界の未来も諸共に失われてしまうだろう。従う獣人たちもまたひとり一人が、まさに剽悍無比の兵にして勇猛果敢、我ら皇軍たるものならば、彼女たちを模範とせずして何が皇軍であろうか。女児と侮り、礼に欠いては恥なるぞ。ともに戦い、ともに威光を示してこそ誉れである。君たちも、彼女たちと骸をともにする覚悟をしてくれるか」

 少なくともこんな言葉で口を閉じるところ、スズリカとは相性がいい。

 武人なら仕方ない。武人っぽいから賛同したい。賛同しなくてはいけない。彼らの相手はこれでいけるんじゃなかろうか。たとえ本心では、それを拒んでいようとも。

 事態が収まってみると、スズリカとトミオカはこの一件でとても仲良くなった。ヤンコフスキも加われば3人でずっと話し込んでいる。「二人は機動戦の名手、トミオカは陣地構築も陣地攻略も得意だ。もっと戦いを学んで、お前たちがもっと活躍できるようにするからな」と、二人に先生になってもらっているらしく、スズリカは張り切っている。

「やはり攻撃精神こそ最大の武器!」

 ベースが何も変わっていないのはご愛嬌。

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